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第五章 残酷な世界
223 迷惑
しおりを挟む傲慢で気紛れ、何を考えているのか全くわからない神のお気に入りになった所で、その人間にとっていい事などほぼ無いだろう。
それに神なんぞ知るかと神の領域を犯したり、世界樹にいい加減にしろと蹴りを入れるような性格のカレンには神の寵愛など、迷惑以外のなにものでもない。
それに神がずっと自分の様子を見ていたなんて事を知ったら、蔑んだ目を冷たく向けて気持ち悪いと言って神を罵倒する事は目に見えていた。
そしてそんな事をすれば傲慢な神の事だ、そんな態度の人間に一体何をするかわかったものではない。
だから、傲慢な神がつまらないと嫌がる楽しさが半減した神の紛い物の姿でいた方が、そのお気に入りから外れられていいような気も多少するが。
世界樹を祀る神殿の神官に上手く擬態した、その傲慢な神にカレンが神の紛い物になりかけていると聞かされた執行官は。
……酷く焦っていた。
小さな少女の命を助けたいと思ってしたことが、その少女を永遠の牢獄に閉じ込めてしまうかもしれないという事実に。
ただでさえ今のカレンは血を世界樹に捧げ続け、まるでそれは人柱のように今も世界を終焉から救い支え続けている。
なのに、カレン自身が世界樹の代わりになるかもしれないと知られれば……本当の人柱にされてしまうだろう。
そんな事をされれば確実にその心は壊れるだろう、いくら肉体が神に近づいた所でその魂は人なのだから。
だがどうすればカレンを元の人間に戻せるのか、長い時を世界樹の番人として、人の世界の秩序を守る自分達ですら皆目見当もつかない。
けれど、もうこれ以上この少女から何も奪いたくない。
自由を、小さな願いを、穏やかな人生を奪ってきた自分達が今さら何を言うのかと責められても、もう奪いたくなかった。
それに。
あの神殿の神官はマナがカレンの中に流れていると言っていたけれど、執行官アンゲルスにはそれがわからなかった。
楽しそうにホムンクルスに本を読み聞かせるカレンをアンゲルスは、じっと観察する。
だが本当にあの身体にマナが流れているのだろうか?
エルフである自分が何もわからないのに、ただの人間であるあの神官がなぜマナが流れているとわかったのか?
気になることが色々とあったが、アンゲルスはカレンの元を一度離れて世界樹の元へ戻り、薬を投与しなければいけなかった。
「カレン様? 私、一度世界樹の元に戻って参ります」
「……ふーん? いってらっしゃい」
その言葉にホムンクルスに古代語の本を読み聞かせていたカレンが振り返り、珍しく憎まれ口ではない言葉を執行官にかける。
「っ……はい、行って参ります! このアンゲルス、直ぐにカレン様の元に戻って来ますので大人しく遊んでてくださいね?」
「……私、もう子どもじゃないんだけど?」
「私にとったら、カレン様はいつまでもあの時のままの小さな可愛い女の子ですよ?」
執行官アンゲルスの中では数年経った今でも、カレンはまだあの時の小さな可愛い笑顔の女の子だった。
執行官達は絶対にもうこの少女を失いたくないし何も奪わせたくなかったから、どんな汚い手段を用いてもカレンを守る。
それがカレンを傷つけるとわかっていても。
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