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第四章 喪失

157 二人きり

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「カレン、抱きたい、お前が欲しい」

 キスに喜ぶなんて可愛いヤツだと思ってつい油断していたら、人を寝台の上に押し倒したまま、そんな可愛くない事を言い出して。

「エディはさ、ソレしか言えない病気か何か患ってるの? いっそのことソレに効くお薬開発して使いものにならなくしてあげようか?」

「お前な、さらっと怖いこと言うなよ? カレンの場合は本当に作りそうでめちゃくちゃ怖いからやめて」
 
「じゃあ諦めようね? ほらさっさと退け?」

「絶対に嫌だ。屋敷に帰ったら確実にリゼッタやオスカーに邪魔されてお前と二人きりになんてなれないし、触れなくなるのは目に見えているからな」

「え、どうしよう? 一刻も早く屋敷に帰りたくなってきたんだけど、会いたいな過保護達に!」

「……カレン? 愛してるんだ、だから愛させて」

 熱を帯びた瞳で悩ましげに見つめてきて、可愛くない殺し文句を放ち私を困らせる。

 微笑めば落ちない女はいないだろうこの男の顔は強敵で、もう見慣れてたはずなのにその表情はずるい。

「っでも、さ? その……したばかりだよ?」
 
「ごめん、正直あれくらいじゃ全然足りないし、本当は毎日したいし、それにもっともっと愛したい」

「足りない?!」

「それに俺が好きになったのは今の色のカレンで、まだ本当のお前を愛せてないから全部愛したい」

「っエディはいつもずるい」

「わかってる、でも……」

 心臓は早鐘を打ちそのエメラルドの瞳から目が離せなくなって拒否し続ける事なんて出来なくて。

 強く抱きしめられて、愛してると少し掠れた声で囁かれ、気がつけば口づけを交わしていた。

 それはどちらからともなく交わされた口づけで、本当に心が通じあったような気持ちになった。

 本当は愛してはいけない人だと頭ではわかっているのに、何度も離れようと思ったのに離れられなくて。

 冷たい態度もとったし突き放したりもしたのに、エディはそれでも私を好きだと言ってくれて、もう逃げてばかりはいられない、そんな気がして。

 真実は怖くてまだ話せない弱虫で卑怯な私だけれど、もう一度だけエディを信じてみたいと思った。

 私を裏切らないと言ってくれたその言葉を。

 もう少しだけ私が強くなれたら、真実を話して謝りたい、そして私に罰を下すならエディがいい。

 殺したいと思った人間なんて数えられないくらい沢山いるのに、命を差し出してもいいと、殺されてもいいと思えたのはエディが初めてだったから。

 キスの雨が降る。

 それは優しい雨。

 イクスで出会って。

 私をひとりぼっちから救いだしてくれた。

 アルスで恋をして。

 傷つけて傷つけられて消えない傷が出来た。

 降りやまぬ雨にもう恋などしないと誓った。

 ひとりで立ってひとりで進む。

 震える身体を抱えて夜を越えた。

 もう戻らないと。

 軽口なんて交わせないと諦めていたのに。

 貴方は私の側に戻ってきてくれて。

 愛してると言ってくれた。

 裏切らないと、私の味方でいてくれる。

 そしてまた迎えにきてくれた。

 その手に触れられると幸せな気持ちになる。

 欲張りな私はもっと触れて欲しくなって。

 もっと貴方に触れたくなって。

 愛して愛されて、交ざりあう。
 
 私も貴方の事を本気で愛してみたくなった。

 そして運命の歯車はゆっくりと廻り始めた。

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