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第四章 喪失
156 うれしくて
しおりを挟む転移装置があり得ない早さで稼働し、国境門に瞬く間に転移すれば全ての手続きをすっ飛ばし国境門が警報の鐘を鳴らし門が開く。
もうその異常な状況には慣れたので全く驚かないし、カレンもそれを隠そうとすらしなくなった。
だがその異常な状況のおかげで魔力暴走は回避し、最悪の事態は免れたが熱が酷く全身に激痛が走る。
今はどうにか気力だけで動いている状態で本当は休息をとりたい所だったがそうも言っていられない。
早急にこの国境門から転移装置が設置されている街に行かなければ日が暮れる。
それに国境門を通り抜け、アルスに入国すれば雪が深々と降り積もり、そこは一面雪景色となっていた。
イクスは暖国の為に年中温暖な気候に対し、隣り合う国アルスは寒地で今は一番寒い時期でこんな軽装では直ぐに身体は凍え命に関わる。
なので初めての雪景色に見惚れはしゃぐ楽しそうなカレンの手を引いてイクス入国時に剣や装備品、馬をを預けた国境門の警備局に向かった。
装備の引き渡しを行い、騎士団からの迎えが用意出来ないかと通信の魔道具を使い相談していたら。
問題が起こる、若い騎士の一人がカレンに目をつけてちょっかいをだす、ここの警備局は騎士団で問題を起こした者達が飛ばされる場所で……。
だが流石はカレンと言うべきか。
息をするように身体強化の魔法を使い、殴りとばし蹴り上げて騎士を呆気なく撃退し気絶された。
だけどこの子いま……無詠唱したよな?
無詠唱は熟練の者でもとても難しいし、カレンに覚えさせたら危なすぎるからわざと教えていなかったし、見たら直ぐに覚えるから見せていなかったのに。
……やっぱりこの子に護衛はいらない。
見た目は儚げで愛らしく美しいのにも関わらず、中身は粗野で乱雑だし度胸はあるし、騎士数人で挑んでも敵わないし、魔獣と簡単に討伐するしとても強い。
正直ここまで強くなられてしまったら、俺ですらカレンと本気で戦ったとしても勝てる気が全くしないし、馬にも軽々と騎乗するし。
そんな元気に笑うカレンの姿は最近あまり見なくなっていたから、楽しそうな姿に安心していたら身体が限界だったのだろう落馬して。
朦朧とする意識の中でカレンが倒れた自分を心配する声と、なぜか転移独特の浮遊感を感じて目覚めたらどこかの宿の客室の寝台に寝かされていて。
あんなにだるく重かった身体が嘘のように動く。
カレンはどこだとまわりを見渡せば、寝台の側でこちらの様子を伺うカレンと目があう。
「……か、れん?」
「おはよ……」
そう一言言葉をかわしたらカレンは糸がきれた人形のようにその場に倒れこんで意識を手放した。
「カレン?! え、なんで? ……って、おはよ、じゃねぇ! 起きろお馬鹿!」
そして倒れこんだ血塗れのカレンの髪色は黒曜石のような黒髪から、美しいハニーブロンドに戻っていて床には錬金術を行使した後が残されていた。
だからまた自身の血を使い錬成陣を書いたのかと抱き起こせば血の気のない紙のように真っ白な顔。
霊薬を飲み不老不死になってしまったと言っていた、そして髪の色と瞳の色はその副作用だと。
なのに元の色に戻ったということは。
このままでは死んでしまう、そう思い直ぐに治癒魔法をかけるが血を多く失い過ぎたのか効果はなく。
ポーションを作って飲ませてくれたのだろう、それがまだ鍋に残っていてそれを掬い飲ませれば。
流石英雄たるカレンの作る薬だなとその効き目に、カレンは直ぐに目を覚ました。
「……馬鹿じゃないのかお前は」
「でも私、死なないし? こんなの余裕だし?」
「いや、お前普通に死にかけていたぞ? だからそこにあった薬を飲ませた。あれポーションだろ?」
「そうだけど、……え?」
それは錬金術の失敗を意味していて。
カレンが落ち込むなんてとても珍しくて。
何があっても反省なんてしないヤツなのに。
そしてカレンが湯浴みしている間に書置きを残し、着替えの服や食料を調達に行って帰ってきたら。
寝台でシーツに身を包みすやすやと眠っていて。
こちらのほうが見慣れていたはずのハニーブロンドの髪色のカレンはなぜかとても幼くてどこか頼りない。
色々と一人でやって疲れてしまったのだろう、その様子に起こしては可哀想だと思い静かに自分も湯浴みを済ませ戻ってきたら。
カレンがその物音に気づいて起こしてしまう。
「……おかえり」
「ああ、ごめん起こしたか?」
「大丈夫、ちょっと疲れてたみたい」
「……ごめんな色々と無理させた」
つい愛らしい頬を撫でると。
「ん、エディ、もっと、……触って?」
そんな事を潤んだサファイアブルーの瞳で、こちらを見上げて可愛らしく言うから抱きしめれば。
「……っこの小悪魔め」
「エディ、好きだよ?」
カレンはぎゅっと抱きついてきて、俺の胸元にすりすりと顔を擦り付ける、人がその身体に触れるのを必死で我慢しているというのに。
「お前な? 俺を煽って楽しい?」
「……とても楽しい」
そう生意気な事を平然と吐いてきて。
すこし腹が立ち、カレンを寝台に押し倒した。
「俺がどれだけお前に触れるのを必死に我慢してると思ってる? いい加減にしないと襲うぞ?」
そうしたらカレンはその小さな手で俺の頬に手を添えて、触れるだけのキスをしてきた。
それはカレンからの初めての口づけで。
今までその行為は全て俺からで。
一応カレンは受け入れてくれているが、あまり気が進まない様子のカレンに、もしかしたら嫌なのに俺が求めるから渋々受け入れてくれているのではないかと、罪悪感があったのに。
カレンからの初めての口づけが嬉しくて、その様子が可愛くて……我慢が出来なくなり。
その身体を求めてはいけないとわかっているのに。
「カレン、抱きたい、お前が欲しい」
その身体をつい求めてしまう。
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