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第四章 喪失

155 初めての

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 猫足の湯船にゆらゆらと浮かぶ見慣れていたはずのハニーブロンドが視界に入ってきて。

 自分が錬金術で失敗してしまったという最悪な事実を目の前に突きつけられて気が滅入る。

 今まで失敗した事なんて一度もなかったのに。

 いつも細心の注意を払って慎重に錬成していたし、自分の知識にも技術にも自信があった。

 なのにそれが今回見事に崩れ去った。

 失敗の原因と要因をずっと頭の中で延々も考えてみても何も理由が浮かばないし、わからない。

 その事実に気分が落ち込みうんざりとして悩むのがだんだんと面倒になってきて。

 もうこの事は後でまた考えようと湯船から出る。

 そして浴室の鏡に映ったその姿は。

 見慣れていたはずなのに久しぶりにその色の自分を見るとなんだかとても幼くて違和感がする。

 私はもう、一人で立って生きていける大人なのに。

 うんざりしながら浴室から出ればエディが部屋にいなくて、何処に行ったのかと部屋を見渡せば。

 エディが書いた書置を見つけて、着替えや食事を用意する為に少し出てくると走り書きが残されていた。

 エディがここにいない事に少し心細くなった。

 そばにいるのがもう当たり前になった。

 近くにいないと不安になって寂しくなって。

 どんどん私の心を弱くしてしまう。

 エディのいない広い客室の寝台に、ごろりと寝転がりシーツで身体を包み込み目を閉じてその帰りを待つ。

 シーツにエディのコロンの残り香が残っていて、安心して包まれていたらいつの間にか眠ってしまって。

 ふと、目が覚めたら湯上がりのエディがちょうど浴室から出てきた所だった。
 
「……おかえり」

「ああ、ごめん起こしたか?」

「大丈夫、ちょっと疲れてたみたい」

「……ごめんな色々と無理させた」

 スッと大きな手がのびてきて私の頬を撫でる。

 その手はとても大きくて温かくて触れられると安心してもっと触れて欲しくなる。

「ん、エディ、もっと、……触って?」

「……っこの小悪魔め」

 大きな手にそっと引き寄せられて抱きしめられる。

 その逞しい腕の中はとても温かくて居心地がいい。

「エディ、好きだよ?」

 だからぎゅっと抱きついてすりすりする。

「お前な? 俺を煽って楽しい?」

「……とても楽しい」

 そしたらぐいっと寝台に押し倒されて、私の上にのし掛かり、上から見下げてきて。

「俺がどれだけお前に触れるのを必死に我慢してると思ってる? いい加減にしないと襲うぞ?」

 どこか寂しそうに眉を寄せて苦しげにエディは私にそう言い募ってくるから可愛くて愛しくて。

 見下げてくるエディの頬に手を添えてキスをした。

「……エディが死ななくて良かった」

「っか……れん?」

 すると、エディの顔は真っ赤に染まり、瞳を見開き動揺し出して先ほどまでの苦しげな表情が一変し、喜びに満ちた表情に変わる。

「え、なに? どした?」

「キス……! カレンからの初めてのキス!」

 きらきらと瞳を輝かせ私からのキスに歓喜するエディが幸せそうで、こんなに喜ぶのならもっと早くキスくらいしてあげれば良かった。

「したことなかったっけ?」

「ない! ああ、どうしよ? 幸せ過ぎて死ぬ!」

「……そんな事でエディに死なれたら困るから、私からキスするのやめとこうかな?」

「えっ、カレン? 待って?! やめないで?」

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