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第四章 喪失
154 失敗作
しおりを挟む意識をつい手離して、ふと目が覚めたら。
すぐ側には心配そうな顔をするエディがいて。
「……馬鹿じゃないのかお前は」
寝起きに馬鹿と罵倒される流れにはもう慣れた。
「でも私、死なないし? こんなの余裕だし?」
「いや、お前普通に死にかけていたぞ? だからそこにあった薬を飲ませた。あれポーションだろ?」
エディがエリクサーを錬成した鍋を指差す。
「そうだけど、……え?」
「それに……その髪と瞳の色、元に戻っているけどそれ大丈夫なのか? もしかして元に戻れたのか?」
飛び起きて洗面所に行き鏡を見れば。
ハニーブロンドの髪とエメラルドブルーの瞳の自分が鏡越しに驚きと困惑の表情を浮かべていて。
「は? どういう事?! でもエリクサーは……?」
「カレンどうした? そんなに慌てて。元に戻れたならそれは良かったじゃないか」
「……っ全然良くない! 私が失敗作を作るなんて! 何で?! どうして……? 嘘でしょう……?」
カレンにとってそれは由々しき事態。
元に戻れた喜びなんかより遥かに錬金術で失敗してしまったその確固たる事実が重く肩にのし掛かり。
……絶望する。
全て、禁書のレシピ通りに作った筈で。
賢者の石の錬成には成功したはず。
なのに少し血を流した程度でその効果が消えて、元の状態に戻るなど……決してそれはあり得ない事で。
やはり直接服用する事が間違えていたのか?
だからその事例が文献に残って居なかった?
色々な考えが頭の中に浮かんでは泡の様に消える。
「一度の失敗くらいで何をそんな深刻そうな顔をしているんだ、次は成功させればいいだけだろう?」
「私には一度の失敗も絶対に許されない!」
カレンが落ち込むなんてとても珍しくて。
それに頭を抱えぶつぶつと独り言を言い出してその場にペタンと座り込むその姿はいつも自信に満ち溢れているカレンとは全く別物で。
エディはそんなカレンの側にそっと寄り添う、
そして落ち着きなく何か考えを巡らし始め、失敗の原因を悩み考察を始めたその様子を静かに見守る。
「とりあえず風呂入って、服を着替えろ? 髪まで血で汚れているじゃないか、また血を使ってそれを描いたんだろう?」
「あー、うん……そうだね……」
しょんぼりと落ち込み、心ここに在らずのカレンの頭を優しく撫でてエディは慰める。
何があっても反省なんてしないヤツなのに。
カレンがここまで分かりやすく落ち込むなんてきっとこれはただ事ではないんだろう。
と、エディは少し心配になる。
だが、髪まで血がべっとりと付着していて。
そのままで居させるのは流石によろしくないと、カレンを浴室に誘導して一人になって考える。
たった一人で意識のない自分をここまで運び。
そして治療してくれた今では魔法すら使いこなし馬まで一人で乗れるようなってしまった何でも一人で出来てしまうカレンに寂しさを覚える。
ずっと自分に頼っていて欲しかった。
その感情は間違っているとわかっているが。
願ってしまう。
理由なんてそんなものなんでもいい。
カレンに必要とされていたい。
ただそれだけを。
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