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第四章 喪失

153 生命のエリクサー

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 カレンの持つ国際連合の紋章入りの青い宝石が飾られたネックレスには、自動防御並びに一定の所持者の危険を感知すると国連の懲罰委員会の執行官達を自動で召集する機能が付与されていた。

 それは国連特例特別保護特権保有者を保護する為に。

 そして執行官達が転移装置がない場所でもカレンの元に直ぐ様に転移してこられるのは。

 巨大な転移装置を使ったわけでも、ルーカスの持っていた簡易転移装置を使ったわけでもなくて。

 転移装置は転移装置にしか転移出来ない。

 簡易転移装置は短距離しか転移出来ない。

 それは動力源が魔石である為に。

 カレンの持つそのネックレスは特別な転移装置で龍脈から直接動力を取れる為に国境門すら越えられるし世界樹まで直通で行けるようになっていた。

 だから執行官達が遊びにおいでと言ってくる。

 それを普段は大変鬱陶しく思っていたカレンだが、この時初めてこの忌々しいネックレスに感謝した。

 ただこのネックレスにその機能が付与されていると知られれば、強襲された時に奪われてその場から脱出するのを邪魔立てされる可能性があって。

 人前では決して使う事がなかった。

 だけど、今はどう考えても緊急時だしという事で。

 以前訪れたアルスの国境門から最寄りの転移装置が設置された街の近くまで転移を行ったのだった。

 短距離ならば転移装置を使ったと気付かれないだろう、そうカレンは判断して。

 意識のないエディを連れて街に入るから警備の人間に一度止められたが、特権の印章を見せれば慌てふためいて、怯えながらどうぞどうぞと街に通された。
 
 ……なにか嫌な気分になったが致し方ない。

 そして急いで転移装置の向かうが。

 本日王都に転移する事は出来ないとの事でこの街に一泊することを余儀無くされしまったカレンは。

 以前宿泊した記憶のある宿に向かう事にした。

 その宿はこの街一番の高級宿らしくカレンの装いには最初大変驚かれたが、以前宿泊した事を伝えると支配人がカレンとエディを覚えていたみたいで。

 快く部屋を用意してもらい、そして宿の従業員に手伝ってもらって部屋にエディを運びいれて休ませるが意識が戻らない。

 やはりエリクサーが必要かとカレンは思い至って。

 宿に意識のないエディを置いて、市場にエリクサーの材料を一人で買いに出掛けた。

 たった一人でこの街を歩くのは初めてだったが宿で待たせているエディの事を考えると全く心が踊らず、急いで必要な物を手当たり次第に購入して宿に戻る。

 宿に戻れば、寝台の上で苦しそうに息をするエディが視界に入り心が痛む。

 嫌がっていないでもっと早く出国していればと、思うがイクスでの暮らしがあまりにも気楽で快適で。

 出来ればこのまま暮らして居たいなと思ったし、エディがイクスに来て二人で暮らすのも楽しくて。

 なんだかんだ理由を付けてアルスに帰国するのを先延ばしにしていた、いつも自分勝手な考えばかりする自分が嫌になるが。

 感傷に浸ってる暇もないので錬成に取り掛かる。

 最低限の薬草などの材料は揃ったが主となる材料はやはり一般に手に入るはずもなく。

 カレンは持ち合わせで代用する事にした。

 自身の血液とインクを使い錬成陣を厚手の白い布に描き出す、それは丁寧に繊細に一切の乱れも許されないとても大事な作業で。

 これがほんの少しでも間違えていれば重大な錬成事故に繋がる恐れがあるから毎度慎重になる。

 錬成陣を描いた布を広げ、上に大きな鍋を置く。

 薬草を下処理もそこそこに鍋に投げ入れて。

 エリクサーには賢者の石を浸した水を使うから、多少血液にも成分が含まれているその可能性にかけて

 エリクサーの材料を自身の血液で代用する為に。

 小さないつも持ち歩いているナイフを取り出して。

 ……腕を切り血液を鍋に流し入れる。


 流れ出る真っ赤な血は身体から体温と意識を奪う。

 大量出血によってだんだんと朦朧としていくその意識をどうにか繋ぎ止める。

 このまま意識を失ってしまえば錬成が出来ないと、歯を食い縛って起き上がり錬成を開始する。

 そっと指先を錬成陣に触れる。

 触れた直後から錬成陣は青い光を放ちながら浮かび上がり、その光が緩やかに終息すれば。

 鍋の中にはとろりとした紫色の煌めく液体が完成し、急いでそれを掬い口移しで何度かに分けてエディに飲ませた。

 すると、直ぐにエディは目を開き、起き上がる。

「……か、れん?」

「おはよ……」

 カレンはそのエディの様子に安心して、糸がきれた人形のようにその場に倒れこんで意識を手放した。

「カレン?! え、なんで? ……って、おはよ、じゃねぇ! 起きろお馬鹿!」

 倒れこんだ血塗れのカレンの髪色は黒曜石のような黒髪から、美しいハニーブロンドに戻っていた。
 
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