155 / 335
第四章 喪失
152 深々と降る
しおりを挟む雪が静かに降り続く中を馬の背に乗り軽快に進む。
辺り一面は雪に覆われていて眩しいくらいに明るくて、それでいてとても静かで幻想的で。
顔にあたる冷気が刺すように痛むけれどその美しすぎる光景からカレンは目が離せない。
以前にここを馬に乗せられ通った時は、景色を楽しむ余裕なんてなくてただひたすらに目をつぶり耐えていたのが嘘のようで。
あれから一年と月日は経っていないのに、この国で本当に色々な事があった。
あとどれくらいこうして大切な人の側に寄り添って居られるのかとカレンはふと考えて。
この背中にあたる体温がとても暖かくて安心して幸せで、離れがたくて……胸が苦しくなった。
その間も馬は雪道を雪を踏み固めるように進む。
だが馬は雪道ではそんなに速度が出せないみたいで、日暮れまでに転移装置のある街に到着出来るのか心配になっていたら。
ぐらりと突然揺れて。
後ろに騎乗していたエディに引きずられるように体制が突然崩れて、馬の背からとてもゆっくりと落馬し身体を地面に打ち付ける。
「っ……!」
地面に身体を打ち付けたのに雪が緩衝材になったのか、痛みはそこまでなく簡単に起き上がれたけれど。
一緒に落馬したであろうエディに駆け寄ると意識がなくて、酷い熱で息をするのも辛そうでやっぱり無理をしていたのかとその様子にひどく焦る。
「エディ?! しっかりして!」
急いであまり得意ではない癒しの魔法も何度か使ってみるが効果は一切見られなくて。
周りを見渡してみても一面の銀世界で休める場所もなく、街までの道もカレンは知らないし国境門まで戻る道もわからない。
「……仕方ない! 馬、こっちおいで!」
カレンの呼び掛けに落馬に驚いてその場から少し離れた場所でこちらの様子を伺っていた馬が少し怯えながらもカレンとエディの側にやってくる。
「馬、ちょっとエディ乗せるの手伝って、私じゃ背が足りなくて持ち上げられない、ほら屈んで」
カレンの言葉を理解したのか軍馬はカレンがエディを乗せやすいようにその場に伏せた。
「イイコ、本当なんで私の言葉って動物に通じるのか意味がわからん、……ねえ、馬は知ってる?」
話しかけた馬は不思議そうにこちらを見るだけで当たり前だが何も答えないし、乗馬訓練で発見した変わった特技に今助けられてるしいいかと結論付けた。
身体強化で馬の背にエディを乗せて一息つく。
そしてカレンは自身の首にかかる青い宝石の付いた忌々しいネックレスを取り出して。
「座標を照会、……登録。 ……転移地の安全を確認。人員は登録者一名と追加新規登録エディ・オースティン、と馬一頭、……確認で、えーと、動力源は龍脈よりマナを直接充填し、確認、よし起動!」
その場に転移装置の警報音が鳴り響く。
次第に警告音が大きくなって。
その場に転移装置特有の魔方陣が現れた。
赤い魔方陣が幾重にも浮かび上がり停止する。
その魔方陣にエディの乗る馬を引いて入る。
そして赤い魔方陣は拡散し。
二人と一頭の姿は忽然と消え去って、雪の降り止んだその場にはなにも残されてはいなかった。
応援ありがとうございます!
14
お気に入りに追加
1,913
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる