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第四章 喪失

151 成長

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 国境門を通り抜けて一歩踏み出したその先は。

 一面の雪景色で全てが白に覆われていて目が眩む。

 そしてキンっと肌を刺すような冷たい外気。

 それにさらされて、身体はガタガタと勝手に小刻みに震えだすけれど。

 はらはらと舞い踊るように降り落ちる雪が花弁のようで、空を見上げたカレンは見惚れ立ち止まり。

 夢中になって雪景色を鑑賞していたら。

「カレン? 呆けてないでこれ着てろ」

 自分が着ていたジャケットをカレンに着せようとしてくるが人の心配をするよりも自分の心配をして欲しいと、カレンはエディの過保護に呆れる。

「気持ちは嬉しいけど、私はいいから自分で着てて? 今エディに倒れられたら困るし私は大丈夫だから」

「どこが大丈夫なんだ? 震えてるじゃないか」

「それでもエディのその顔色よりマシ、真っ青だよ」

「……このくらい大したことない鍛えてるからな。とりあえず国境門の警備局に行こうか、装備品と馬を預けているし、迎えを出して貰おう」

 明らかにやせ我慢しているエディの手に引かれて、アルス側の国境門にある警備局に向かう。
 
 警備局は国境門に隣接し建てられていて、門を出て数分程度雪の中を歩くだけでたどり着けた。

 その中に入ると数人の騎士達が居て。

 荷物の引き渡しを行いエディは通信の魔道具を使って、迎えを呼び始める。

 まだかな……と。

 入り口の辺りで壁にもたれ待っていたカレンに。

 その騎士達は不快な視線を向ける。

 それは舐めまわすような嫌らしい視線で。

 鳥肌がぞわぞわとたち、そして一人のまだ年若い騎士がカレンの方に近付いて行き。

「君、騎士団長の女? ちっちゃくて可愛いね? でもそんな格好していたら襲われちゃうよ? それとも誘ってる? ……お兄さんとも遊んで欲しいな?」

 嫌な視線を向け、不快な言葉を吐く若い騎士は。

 カレンに触れようと手をのばすが……。

 ……鈍い音をたてて盛大に殴り飛ばされ、地面に大きな音をたてて叩きつけられた。

 ちっちゃくて可愛いカレンによって。

「気安く触んな! ぶっ殺すぞ? あ?」

 それにエディが気付いて、騎士達を怒鳴りつける。

「お前たちカレンに気安く触るな! この方は国賓だ! 不敬は許されない!」

「……っえ、あ、すいません!」

 殴り飛ばされた騎士はエディに怒鳴られて、慌てて謝罪するが殴り飛ばしたカレンを睨み付ける。

 それに苛立ったカレンは、未だ地面に座り込むその騎士の顔面を勢いよく蹴り飛ばし失神させる。

「っカレン?! お前も直ぐにキレるな!」

「えー……? 私は悪くない! こいつが悪いんだよ? 弱いくせに調子に乗りやがるから」

 全く悪びれる様子もないカレンにエディはそういえばカレンはこんなヤツだったなと、最近はとても大人しいが気に入らないと蹴ってくるヤツだったなーと、自分も蹴られたなー……と、昔を思い出す。

 あの頃のカレンは魔法が使えなくて普通に蹴ってきていたから大した威力はなかったが。

 今は身体強化の魔法を使ってくるから大変危ない。

 ……あれ? でも……カレンはいつ詠唱した? 

 まさか無詠唱おぼえちゃった? 難しいのに?

 エディはカレンの戦闘力の向上に恐怖する。

「……とりあえずこれ着て。今から馬で転移装置のある街まで駆けるから沢山厚着するんだ」

「あれ、お迎えは?」

「王都側の転移装置が今使えないらしくて最短で明日の夕方になるから自分達だけで帰る事にした」

「え……、エディ体調大丈夫なの?!」

「……ああ、大丈夫。それにここに泊まる訳にもいかないからな」

 エディが防寒着を渡してくるが……。

 それはとても大きくて重い。

 これがここにある一番小さいものだと言うけれどブカブカで何度も裾を折り返す羽目になった。

「大きい、重い、動きにくい!」

「文句を言ってないで早く行くぞ、日が暮れる」

 本日乗る馬は焦げ茶色の軍馬で女の子らしく。

 艶々の毛並みを撫でてご挨拶していると。

「ほら、カレン乗せてやるからおいで」

「ん? 自分で乗れるからいい」

「あー……、そういえば一人で馬に乗れる様になったんだっけ」

「うん、エディが居なくなった後教えてもらった」

「っ……そっか」

 少しエディはカレンの成長に寂しくなった。
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