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第二章
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「熱いから気を付けて」
「ありがとう」
受け取ったマグカップには甘い匂いのココアがたっぷり入っていて美味しそう。
湯気が出ている表面にふーふーとしっかり息を吹き掛けて少しだけ口に含む。
「あちっ!」
「あ、ほら…言ったそばから。見せてみろ」
「大丈夫、舌先だけだから」
「見せろ」
これは言うこと聞くまで続くやつだ。観念にてヒリヒリする舌先が見えるように口から突き出す。
本当にちょっとだけだけら全然大した事ないのに、大袈裟な。
「ほあ、らいじょうふれしょ?」
「・・・・・」
言われた通りに見せているのに、当のレイヴァン様はおれを凝視したまま何にも言わない。
え、もしかして思ったより酷い?
いつまでも無言で見つめてくる様子に不安になってきて、レイヴァン様の裾を引っ張る。
「ねえ、きじゅしゅごい?こえ、らめ?」
「…ダメじゃない」
片手がおれの頬に添えられたと同時にどんどんレイヴァン様の顔が近づいてきて…。そのまま舌を舐められた。
えっはあ!?えぇ!何が起こってるの!?
びっくりし過ぎて硬直していると、いつの間にかこう片方の頬にも手があてられていて顔が挟まれて逃げられない。
驚いているおれにお構いなしでペロペロと舌を舐められる。
えっと、えーっと、と、とりあえず止めなきゃ…っ!
顔は完全に掴まれていてびくともしない。空いている両手で必死にレイヴァン様の腕をべしべし叩いた。
するとレイヴァン様の顔が弾かれたように離れていった。意外にも凄く驚いた表情をしている。
おれもなんと言うべきか言葉が見つからず見つめ返し、とりあえず出したままだった舌を口の中に仕舞う。
元から少し火傷していたのもあるが、口に戻した途端ひりひりと感じた痛みに、レイヴァン様の舌で舐められたからだ…。と考えた途端顔に熱が集まったのが分かった。
真っ赤になったおれにつられたのか、レイヴァン様の顔も徐々に赤くなっていき、両頬を挟んでいた手が勢いよく外される。
「すまない…っ、僕は何をっ、マシロの舌が赤くなっていて…それで…っ」
「…ひりひりする」
「……っ、すまない。マシロがあまりにも可愛くて…気がついたらしていた」
どこに可愛さ感じたんだ。言われた通りに舌出しただけなのに。
今顔を赤くして目線が合わないレイヴァン様の方がよっぽど可愛い。
これもイケメンフェロモンの力か。恐ろしいぜ。
「もう突然しないでね。びっくりするから」
「…突然でなければいいのか?」
「うん。…ん?」
「わかった」
あれ?なんか良くない約束をしてしまったような…。
まあまあ、気を取り戻してココアを飲む。丁度いい温度になっていた。
「美味しい」
「それは良かった。マシロのチョコもいただこう」
「それさ、レイヴァン様と初めて会った路地の近くにあるお店のなんだよ」
「…あの時は本当に、」
「もう気にしてないって散々言っただろ。また怒るぞ」
「うむ…そうだな。ありがとうマシロ」
「うん。それでさ、ああいうのよくなるの?凄く苦しそうだったけど…」
「頻度はそう多くない。魔力量が固定されてからは格段に減った。ただ闇属性は月の影響を受けやすくてな、満月は特に魔力を不安定にさせやすい。あの日は前の夜が満月で特に影響が出ていたんだ。それで夜のうちに学園を出てこの塔に戻ろうとしていたんだが、途中で暴走状態になってしまい、あの路地で押さえ込んでいたんだ。そこにマシロが来た」
「え、じゃあ夜からずっとあそこにいたの?あんなに苦しそうな声だったのに誰も気が付かなかったってこと?」
信じられない。
おれがちょっとムッとした顔をすると、レイヴァン様が少し嬉しそうに笑った。
「僕が気付かれないように結界魔法を張っていたんだ。危ないからな。ただずっと耐えていたからかなり体力を消耗していて、丁度結界が緩んでしまった時にマシロが気づいたんだろう」
「…なるほど。でもさ、おれが気が付かなかったらレイヴァン様、あの暗い路地でずっとおさまるの待ってるつもりだったの?なんか薬とかは?」
「薬は無い。魔力暴走はそもそも闇属性特有のものだからな。闇属性も王族から稀に出るか出ないかで数が少ない。僕の前は150年前にいたそうだが、その人も魔力暴走を制御できずにこの塔で生涯孤独に過ごしたらしい。…僕も本来ならそうあるべきだった。閉じこもって、ひとりでいさえすれば誰にも迷惑を掛けずに済む」
「でもレイヴァン様は学園にも行ってるし、お城の中も歩いてるじゃん。昔の人は気にし過ぎだったんじゃないの?」
レイヴァン様の顔が少し曇る。
「…いや、そうでもない。僕も幼い頃魔力暴走で人に危害を与えてしまってこの塔に閉じ籠っていた。ここから出たのは成人してからだ。…アレクが、僕を引っ張り出したんだ。成人したから大丈夫だ、こんなところにいつまでもいたらカビが生えると」
「アレク王子なら言いそう」
「僕は…、あまり気乗りしなかったが、被害を受けたアレクがそれを望むならと…塔を出る事にしたんだ」
「被害を受けた?」
「昔はアレクといつも一緒にいたんだ。父上や母上を見て分かるだろうが、あの人達はとても優しい。城の者も父上達の意思を尊重して闇属性の僕を受け入れてくれていた。中には王族の恥だと蔑むものもいたが、みんなの配慮で僕は何の不自由も無く王子として過ごしていた。あの時が来るまでは…」
「ありがとう」
受け取ったマグカップには甘い匂いのココアがたっぷり入っていて美味しそう。
湯気が出ている表面にふーふーとしっかり息を吹き掛けて少しだけ口に含む。
「あちっ!」
「あ、ほら…言ったそばから。見せてみろ」
「大丈夫、舌先だけだから」
「見せろ」
これは言うこと聞くまで続くやつだ。観念にてヒリヒリする舌先が見えるように口から突き出す。
本当にちょっとだけだけら全然大した事ないのに、大袈裟な。
「ほあ、らいじょうふれしょ?」
「・・・・・」
言われた通りに見せているのに、当のレイヴァン様はおれを凝視したまま何にも言わない。
え、もしかして思ったより酷い?
いつまでも無言で見つめてくる様子に不安になってきて、レイヴァン様の裾を引っ張る。
「ねえ、きじゅしゅごい?こえ、らめ?」
「…ダメじゃない」
片手がおれの頬に添えられたと同時にどんどんレイヴァン様の顔が近づいてきて…。そのまま舌を舐められた。
えっはあ!?えぇ!何が起こってるの!?
びっくりし過ぎて硬直していると、いつの間にかこう片方の頬にも手があてられていて顔が挟まれて逃げられない。
驚いているおれにお構いなしでペロペロと舌を舐められる。
えっと、えーっと、と、とりあえず止めなきゃ…っ!
顔は完全に掴まれていてびくともしない。空いている両手で必死にレイヴァン様の腕をべしべし叩いた。
するとレイヴァン様の顔が弾かれたように離れていった。意外にも凄く驚いた表情をしている。
おれもなんと言うべきか言葉が見つからず見つめ返し、とりあえず出したままだった舌を口の中に仕舞う。
元から少し火傷していたのもあるが、口に戻した途端ひりひりと感じた痛みに、レイヴァン様の舌で舐められたからだ…。と考えた途端顔に熱が集まったのが分かった。
真っ赤になったおれにつられたのか、レイヴァン様の顔も徐々に赤くなっていき、両頬を挟んでいた手が勢いよく外される。
「すまない…っ、僕は何をっ、マシロの舌が赤くなっていて…それで…っ」
「…ひりひりする」
「……っ、すまない。マシロがあまりにも可愛くて…気がついたらしていた」
どこに可愛さ感じたんだ。言われた通りに舌出しただけなのに。
今顔を赤くして目線が合わないレイヴァン様の方がよっぽど可愛い。
これもイケメンフェロモンの力か。恐ろしいぜ。
「もう突然しないでね。びっくりするから」
「…突然でなければいいのか?」
「うん。…ん?」
「わかった」
あれ?なんか良くない約束をしてしまったような…。
まあまあ、気を取り戻してココアを飲む。丁度いい温度になっていた。
「美味しい」
「それは良かった。マシロのチョコもいただこう」
「それさ、レイヴァン様と初めて会った路地の近くにあるお店のなんだよ」
「…あの時は本当に、」
「もう気にしてないって散々言っただろ。また怒るぞ」
「うむ…そうだな。ありがとうマシロ」
「うん。それでさ、ああいうのよくなるの?凄く苦しそうだったけど…」
「頻度はそう多くない。魔力量が固定されてからは格段に減った。ただ闇属性は月の影響を受けやすくてな、満月は特に魔力を不安定にさせやすい。あの日は前の夜が満月で特に影響が出ていたんだ。それで夜のうちに学園を出てこの塔に戻ろうとしていたんだが、途中で暴走状態になってしまい、あの路地で押さえ込んでいたんだ。そこにマシロが来た」
「え、じゃあ夜からずっとあそこにいたの?あんなに苦しそうな声だったのに誰も気が付かなかったってこと?」
信じられない。
おれがちょっとムッとした顔をすると、レイヴァン様が少し嬉しそうに笑った。
「僕が気付かれないように結界魔法を張っていたんだ。危ないからな。ただずっと耐えていたからかなり体力を消耗していて、丁度結界が緩んでしまった時にマシロが気づいたんだろう」
「…なるほど。でもさ、おれが気が付かなかったらレイヴァン様、あの暗い路地でずっとおさまるの待ってるつもりだったの?なんか薬とかは?」
「薬は無い。魔力暴走はそもそも闇属性特有のものだからな。闇属性も王族から稀に出るか出ないかで数が少ない。僕の前は150年前にいたそうだが、その人も魔力暴走を制御できずにこの塔で生涯孤独に過ごしたらしい。…僕も本来ならそうあるべきだった。閉じこもって、ひとりでいさえすれば誰にも迷惑を掛けずに済む」
「でもレイヴァン様は学園にも行ってるし、お城の中も歩いてるじゃん。昔の人は気にし過ぎだったんじゃないの?」
レイヴァン様の顔が少し曇る。
「…いや、そうでもない。僕も幼い頃魔力暴走で人に危害を与えてしまってこの塔に閉じ籠っていた。ここから出たのは成人してからだ。…アレクが、僕を引っ張り出したんだ。成人したから大丈夫だ、こんなところにいつまでもいたらカビが生えると」
「アレク王子なら言いそう」
「僕は…、あまり気乗りしなかったが、被害を受けたアレクがそれを望むならと…塔を出る事にしたんだ」
「被害を受けた?」
「昔はアレクといつも一緒にいたんだ。父上や母上を見て分かるだろうが、あの人達はとても優しい。城の者も父上達の意思を尊重して闇属性の僕を受け入れてくれていた。中には王族の恥だと蔑むものもいたが、みんなの配慮で僕は何の不自由も無く王子として過ごしていた。あの時が来るまでは…」
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