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ポーション販売禁止令

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 メアリーさんをエリクサーで治療した翌日、彼女みたいな重病人を一人でも多く助けられたらと思って僕はチームハウスでエリクサーの錬金をしていた。
 でも、エリクサー生産のノルマには全然届かない。
 まあ、ノルマがあり得ないほど多いのが原因。
 リサさんに『鑑定結果が出るまでに3000本ほど作り置きしておいてね』と無茶ぶりなノルマを課されたのだ。
 年間1本出回るか出回らないかのエリクサーが一気に3000本も出荷されたらポーション市場が大混乱するんじゃないだろうか?
 リサさんはしたり顔で語る。

「もちろん、最初は大混乱するわよ。そしてこれからはエリクサーがポーションの様に当たり前に使えるのが常識になるの」

 これからとんでもないことになりそうだ。
 ちなみにエリクサーの販売価格は今までの20分の1の500万ゴルダにするそう。
 ちょっと頑張れば庶民でも大切な人の命を救える値段にするそうだ。
 400万ゴルダで行商人のバータさんに卸すそうなので、1本売ると僕の元には200万ゴルダが入ってくることになる。
 3000本売れたら60億ゴルダ?
 わけわかんない金額で頭がおかしくなりそう。
 
 黙々とエリクサーを作っているとお客さんがやって来た。

「ここにアーキ様という錬金術士がいらっしゃいますか?」

 僕が呪いから助けたメアリーさんだ。
 既に全快したようで、身体からは痣《あざ》の痕跡が綺麗に消え、髪にも艶《つや》が戻っている。

「アーキは僕です」
「特製の解熱剤で熱病から救ってくれたそうで、本当にありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げる。
 香水なのか揺れた髪から女の子らしいとてもいい匂いがして僕の鼻をくすぐる。

「いえいえ。人として当然のことをしたまでです」
「これは私からのお礼です」

 そういって僕のほっぺたにちゅっと……キスをしてきた!
 キスなんてされるのは初めてだし、あまりにいきなりのことで驚いた僕は少女が驚いてしまうぐらいの声を上げてしまった。

「うわわ!」
「ごめんなさい、ご迷惑でしたか?」
「いきなりキスされたので驚いてしまって……こちらこそごめん」

 奥のダイニングのテーブルで僕たちの様子を見ていたマイカ姉ちゃんが茶化してきた。

「坊ちゃんは彼女いないし、初めてのキスだもんな」

 それを聞いたメアリーさんは喜んでいる。

「アーキ様の初めてのキスを貰っちゃいました。えへへ」
「僕にも彼女ぐらい……」
「じゃあ、誰が彼女なのよ?」
「それは……本当はいないけど……」

 何かを思いついたメアリーさんはとんでもないことを言い出した。

「私を病気から助けてくれた上に初めてのキスまで頂いたのでお礼をしないといけないですね。お礼に私を貰って頂けませんか? 結婚を前提に婚約して下さい」
「ちょっちょっちょっ!」

 リサさんまで面白がって僕をからかう。

「ひとり身のアーキに貰い手が出来て良かったじゃない。しかも商工会長の娘さんなら将来安泰の超優良案件だね」

 優良案件?
 完全に地雷案件だろ。
 娘大好きパパのクラウスさんのことだ。
 勝手に娘さんと婚約なんてしたら、確実に息の根を止められて、薬草畑に埋められて畑の肥やしにされてしまう。

「ごめん、婚約はちょっと……」
「うー、残念です。でも私は諦めませんからね」

 メアリーさんとの婚約を回避したことでどうにか僕の命の糸はこと切れなくて済んだ。
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