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第二のポーション

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 日課となりつつあったポーションを納品しにリサさんとマイカさんと冒険者ギルドを訪れたら……。

「すみません。リサさん、今日からポーションの委託販売は出来なくなりました」

 それを聞いたリサさんは、胸倉を掴みそうな勢いでギルド職員に食い掛る。

「なんでよ! ポーションになにかトラブルでもあったの?」

 あまりの勢いに少し怯えつつギルド職員は命令書をリサさんへと渡す。

『本日より、リタリフの町での薬草及びその派生品は錬金術ギルドのみで取り扱うこととする。』

 ボーゲンが王都に申請していた薬草の独占販売権利書だった。

「なんだこれは?」
「こんなふざけた命令書の発行人は誰だ!?」

 リサさんもマイカさんも、今まで見たことないぐらいに怒りまくっていた。

「ボーゲンさんですよ」
「ボーゲンだと、あの糞野郎!」
「またアーキに嫌がらせかよ!」

 リサさんとマイカさんは肩を怒らせ錬金術ギルドにいるボーゲンの元に向かった。

「ボーゲン! てめー! ポーションもまともに作れないのに、なんてものを発行してくれたんだ!」
「アーキを困らせてなにが楽しいんだ!」

 ボーゲンもいきなりやって来た侵入者に黙っていない。

「よく見ろ! これは俺が発行したんじゃない! 王都が発行した正式な命令書だ。文句があるなら王都に行って掛け合ってこい!」

 そして、許可なくギルドに入ってくるなと追い出された。
 怒りの収まらない二人。

「あの野郎! 許せねえ!」
「商工会長のクラウスさんに頼んで、今すぐ王都に発《た》ってふざけた命令書を取り下げて貰おう」

 リサさんとマイカさんはクラウスさんの元へと駆け込んだ。

「ボーゲンが、こんなふざけた命令書を発行したんですよ」
「これは酷いな。時間が経てば命令書の取り下げも難しくなろうだろう。今すぐ王都に発って、この命令書を取り下げさせよう」

 クラウスさんと、マイカ姉ちゃんとリサさんは飛竜に乗り込んで旅立っていった。
 商工会長という立場のクラウスさんがついているなら、すぐにあの命令書は取り下げされることだろう。

 *
 
 突如、薬草錬金を禁止された僕は暇を持て余す。
 町からは出れず、錬金も出来ず。

「これからなにをすればいいんだろう?」

 仕方ないので、チームハウスの錬金設備を片付けようとしていると……。
 バスケットを片手に下げたメアリーさんが息を切らせてやって来た。

「話は聞きましたわ。薬草が使えなくなったんですよね?」
「うん」
「だったら、これを使ってみてください」

 メアリーさんはバスケットの中から薬草を取り出す。
 彼女は薬草自体が手に入らなくなったと思っているんだろうか?
 でも違った。

「これは薬草じゃないです。煎じて飲めば健康にいいと言われている雑草。薬効成分はあると思いますがあくまでも雑草です。とっても優秀な錬金術士であるアーキ様ならこでポーションを作れるかもしれません」

 その手があったか!
 とんでもない理屈だけど薬草ではない。
 薬草で作ったんじゃないので命令書の違反にはならない。
 そんな理屈だ。
 薬草も魔力が不足するとただの雑草に育ってしまうことがある。
 ノリにのっている今の僕なら、雑草からポーションを作れそうな気がしなくもない。

「元々薬草は雑草と変わらない物だと聞きます。試してみましょう!」
「そうだね。少しでも可能性があるなら試すべきだよね」

 で、ダメもとで錬金してみたら……。
 うはっ!
 冗談だろ?
 本当にポーションが出来た。
 アンナさんに鑑定してもらったら間違いなくポーションであった。
 しかも品質は上級。
 薬草と何ら変わりなくポーションを作れたのだ。
 
 こうして僕らは薬草を一切使わない『第二のポーション』を作り上げたのだ。
 ギルドに持っていくと冒険者たちが大喜び。

「お! アーキのポーションじゃないか!」
「これでボーゲンのポーション買わなくて済むぞ」

 湧き上がる歓声!
 ギルドは熱気で覆いつくされた。
 でも、気になったことを言う冒険者がいた。

「でも、薬草使うのは禁止なんだろ? ポーションを売ったら捕まったりしないか?」

 冒険者たちは僕の身を案じてくれる。
 ちょっと嬉しかった。
 メアリーさんが冒険者たちに作り方を伝えるとみんな信じられないような顔をした。

「雑草からポーションを作っただと? そんなことが出来るのか?」
「出来たからここにあるんです。疑うなら買わなくて構いません。ただ、数は限られているのであとから買おうとしても売り切れて買えないと思いますよ」

 さすが、商工会長の娘だけあって商売人の血を引いているのか商売上手で、客の品切れを不安がる心理を突いてくる。
 それを聞いた冒険者は先を争って第二のポーションを買い求める。

「いや、ごめん、買うよ」
「売ってくれ!」
「俺にも!」

 メアリーさんがケガをしている冒険者に試し飲みをさせるとケガがたちどころに治るのを見て、更に客が殺到する!
 やっぱり、効果の実演は大切だね。

「俺にも売ってくれ!」
「俺も買う!」
「雑草でも効き目が変わらないのなら10本買うぞ!」
「俺も俺も!」

 第二のポーションの販売価格は1000ゴルダのポーションより300ゴルダほど安い700ゴルダだったので飛ぶように売れた。
 メアリーさんの名案が無ければ僕の錬金術士人生が終わってたかと思うと、感謝してもしきれない。

「アーキ様のお役に立てました?」
「うん! すごく助かった。ありがとう」
「じゃあ、ご褒美に婚約を!」
「それは……ちょっと!」

 まだ死にたくないので僕は全力でメアリーさんの求婚に抗《あらが》った。
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