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第4章 婚約の行方

41.箱の中

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 扉が開かれるとそこにはアリアがいた。私は先ほどの箱は知らぬように振る舞いを続けた。

「あら?クロリだけかしら?」
「ええ、他の侍女は今はそれぞれ仕事に取り掛かっています。」
「ふーん、で、あなたは?何をしてたの?」

 アリアは腕を組んでこちらを見つめた。ここは当たり障りなく笑っておくか。そう思いいつもの笑みを返した。

「アリア様がお部屋に帰った時、誰も侍女がいなければお困りでしょう?私は残って部屋の掃除を行っておりました。」

 あながち間違いではない。実際、アリアの部屋をくまなく魔道具を探している際に掃除はしておいた。

「ふーん」

 アリアは考え込むように最初の時と同じく私をじっくりと見つめた。

「もう一度聞くわ。貴女は何をしていたの?」

 この女はこんな時に限って勘がするどい。クロリを射抜くような目つきをしている。そんな時こそ私は美しく笑う。ここで怯めばあの箱に近づけなくなる。

「アリア様、何をそんなに疑うのです。ただのお掃除ですよ。」

 そう言うとアリアは一つ息を吐き出した。私の傍に寄ると「そうよね」と言い、鏡台の前に座った。

「はあ…最近は疲れるの。聖女の祝宴は楽しみだけれど、その分やることも多いし、それに私のことを認めずに『アリス様こそが我が国の聖女』と言い張る愚民も多いしね」

頬杖をつきながらアリアがふてぶてしく呟いていた。

「それはそれは。恐れ多いですね、王国の新たな聖女のアリア様に向かって」
「そうよね!クロリは私のことを良く分かっているわね。」

「それに」とアリアが続けて呟いた。

「私ね、今の地位になるまでひたすら手段を選ばずにやってきたの。…だから恨みも買われているんじゃないかと思ってクロリが侍女になることも受け入れられなかったのよ」
「…そうですか。」
「でも、クロリがもしかしたら誰かの差し金で王宮に来たのかと思ったけど違うようね!」
「…何故そう思うのですか?」
「これは勘よ」
「勘ですか」
「昔からよく働くの。良い勘も。悪い勘も。

アリアは鏡台の前で紅い口紅を塗ると立ち上がった。

「…さっきは疑って悪かったわ。私はまた殿下の元に行くから。戻ったらいつものお茶をよろしくね。」

 アリアは部屋を去った。

ー奇しくもどこかリヒト様に面影を重ねた。自身の運命に逆らおうとする姿に。

私はまた箱に手をかけた。錠は後一つで解錠をする。最後の錠の鍵が開く音がした。そこにあったものは黒く光る怪しげな宝石だった。




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