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人型の災厄
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業務用の微笑を顔に貼り付けたまま、レジナルドは突如雪嵐が吹き荒れる大氷原に放り出されたような感覚を味わった。
(祟りだ…ジェイムズの祟りだ…)
たった一日会わないことの埋め合わせである『熱い抱擁』で心身共に疲弊していたところに、容赦なくとどめを刺された気分だ。すべての元凶である人型大災厄を全身全霊で呪いたくなったが、内心に渦巻く脱力感を表に出すような真似は無論しない。
「お恥ずかしいところを見られてしまいました」
素早く自分を立て直すと、敢えて事務的な調子で返した。
自分の名誉を守るのはもちろんだが、会社社長であるジェイムズに良からぬ噂が立つ可能性は排除しなければならない。デュシュッド氏に悪気はなくても、彼が夜会などで口を滑らせれば、退屈に倦んだ社交界のお喋り雀は喜んで騒ぎ立てるだろう。何せジェイムズは立志伝中の人物にして名門侯爵家の子息、中味はともかく外見は男らしい美形で、醜聞のネタとしては申し分ない。
「彼は寄宿学校の同窓生で、最近久しぶりに再会しまして。身体的接触の激しい友人で私としましても戸惑わないではないのですが、昔からそういう男ですから」
「昔から、ねえ」
デュシュッド氏の含みのある口調が気になるが、立場上こちらから問い質すことはできない。
(祟りだ…ジェイムズの祟りだ…)
たった一日会わないことの埋め合わせである『熱い抱擁』で心身共に疲弊していたところに、容赦なくとどめを刺された気分だ。すべての元凶である人型大災厄を全身全霊で呪いたくなったが、内心に渦巻く脱力感を表に出すような真似は無論しない。
「お恥ずかしいところを見られてしまいました」
素早く自分を立て直すと、敢えて事務的な調子で返した。
自分の名誉を守るのはもちろんだが、会社社長であるジェイムズに良からぬ噂が立つ可能性は排除しなければならない。デュシュッド氏に悪気はなくても、彼が夜会などで口を滑らせれば、退屈に倦んだ社交界のお喋り雀は喜んで騒ぎ立てるだろう。何せジェイムズは立志伝中の人物にして名門侯爵家の子息、中味はともかく外見は男らしい美形で、醜聞のネタとしては申し分ない。
「彼は寄宿学校の同窓生で、最近久しぶりに再会しまして。身体的接触の激しい友人で私としましても戸惑わないではないのですが、昔からそういう男ですから」
「昔から、ねえ」
デュシュッド氏の含みのある口調が気になるが、立場上こちらから問い質すことはできない。
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