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Eighteenth Affair by りり子
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母は、買い物に出かけていた。出かける前に母は、りり子の手足をロープで柱に縛りつけた。抵抗はしなかった。
「ゆりちゃん、ごめんね。お父さまに言われたことだから」
そう言いながら、母は無表情に律義にりり子を縛った。どうせなら、首も絞めればいいのに、と思いながら、視界の端でPPPのジャケ写を見ていた。すべては終わってしまった。これから、この家の中で一生監視されて過ごすのだ。
小一時間ほどで母が戻ってくると、りり子はコメントを書き込んだブログを再び開いてみた。すでにブログの持ち主からの返信コメントが書き込まれていた。
<蛇苺畑の小娘さん、コメントありがとう。たしか、レーベル側との条件に行き違いがあって、ユージさんが、そこの代表者に暴力を振るったんだと思います。ユージさん自身も大怪我をしたのに、傷害罪で逮捕されて、それから活動が上手く行かなくなったんだと思います。そのレーベルはなんかいろいろな黒い噂があって、まったくお咎めなしだったそうで、なんだかいやな事件でした。メンバーの名前ですね。懐かしくなって、「ロック・フリーク」のバックナンバーを引っ張り出してみました。Vo高村ユージ、G蛭田ルシファー、B佐竹ゴー、D速水コージーと書いてあります。みんな今どうしてんのかな?
by管理人>
思ったとおりだった。それに、キイチゴ城の元住人は蛭田という名前だった。偶然の同名の可能性もあるけど、高村はキイチゴ城に来たことがあるのだろう。ラックの奥にあるCDを取り出してきたことがあった。ジャケ写が破れているのは、たまたまそうなったのではなく、蛭田が意図的に破ったものなのだろう。駄目になってしまったバンド。潰えた可能性。そんなものに対する想い。
復活をエサに、りり子たちの動きを監視するように言われたと言っていた。二十年も前に、高村を騙し、前科まで負わせた栗田にまた騙されるなんて、学習能力というものが不足している。
母が階段を上がる音がした。またりり子を縛りに来るのだろうか。
「百合子ちゃん。ごはん」
お腹が空いていた。早朝のカラオケボックス以来、何も食べていなかった。逆らう気力もなかった。りり子が母のような女になるまで、それほど時間はかからないだろう。お父さまの子を妊娠すればいいと思う。娘が生まれたら、りり子の代役を務めさせることができる。そうしたら、りり子は母と仲良くなれるような気がした。あまりに歪んだ考えに鳥肌が立つ。
母について、一階に降りた。食事はりり子の分だけテーブルに並べてある。おいしそうに煮えたいわしのつみれと、青菜の白和えとわかめの味噌汁。何の変哲もない普段の夕食だった。母が家族と共に食事をすることはない。ひとりでないとものを食べることができないのだ。こんな家で、ちゃんとした食事が出てきて、しかもこんな状況で敗北を宣言するようにそれを食べているという事実が耐えがたく、母とは一言も言葉を交わさずに食事を終えてから、トイレで吐いた。
「ゆりちゃん、ごめんね。お父さまに言われたことだから」
そう言いながら、母は無表情に律義にりり子を縛った。どうせなら、首も絞めればいいのに、と思いながら、視界の端でPPPのジャケ写を見ていた。すべては終わってしまった。これから、この家の中で一生監視されて過ごすのだ。
小一時間ほどで母が戻ってくると、りり子はコメントを書き込んだブログを再び開いてみた。すでにブログの持ち主からの返信コメントが書き込まれていた。
<蛇苺畑の小娘さん、コメントありがとう。たしか、レーベル側との条件に行き違いがあって、ユージさんが、そこの代表者に暴力を振るったんだと思います。ユージさん自身も大怪我をしたのに、傷害罪で逮捕されて、それから活動が上手く行かなくなったんだと思います。そのレーベルはなんかいろいろな黒い噂があって、まったくお咎めなしだったそうで、なんだかいやな事件でした。メンバーの名前ですね。懐かしくなって、「ロック・フリーク」のバックナンバーを引っ張り出してみました。Vo高村ユージ、G蛭田ルシファー、B佐竹ゴー、D速水コージーと書いてあります。みんな今どうしてんのかな?
by管理人>
思ったとおりだった。それに、キイチゴ城の元住人は蛭田という名前だった。偶然の同名の可能性もあるけど、高村はキイチゴ城に来たことがあるのだろう。ラックの奥にあるCDを取り出してきたことがあった。ジャケ写が破れているのは、たまたまそうなったのではなく、蛭田が意図的に破ったものなのだろう。駄目になってしまったバンド。潰えた可能性。そんなものに対する想い。
復活をエサに、りり子たちの動きを監視するように言われたと言っていた。二十年も前に、高村を騙し、前科まで負わせた栗田にまた騙されるなんて、学習能力というものが不足している。
母が階段を上がる音がした。またりり子を縛りに来るのだろうか。
「百合子ちゃん。ごはん」
お腹が空いていた。早朝のカラオケボックス以来、何も食べていなかった。逆らう気力もなかった。りり子が母のような女になるまで、それほど時間はかからないだろう。お父さまの子を妊娠すればいいと思う。娘が生まれたら、りり子の代役を務めさせることができる。そうしたら、りり子は母と仲良くなれるような気がした。あまりに歪んだ考えに鳥肌が立つ。
母について、一階に降りた。食事はりり子の分だけテーブルに並べてある。おいしそうに煮えたいわしのつみれと、青菜の白和えとわかめの味噌汁。何の変哲もない普段の夕食だった。母が家族と共に食事をすることはない。ひとりでないとものを食べることができないのだ。こんな家で、ちゃんとした食事が出てきて、しかもこんな状況で敗北を宣言するようにそれを食べているという事実が耐えがたく、母とは一言も言葉を交わさずに食事を終えてから、トイレで吐いた。
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