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第1章

136話 貴族らの相談 前

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ユウキとジーグルト伯爵家が三つの拠点を制圧し支配領域を広げていることは周囲の貴族らに伝わり始めていた。

足場固めをしている裏側の話―――

『ライル殿、それは本当なのか?』

ライル子爵とその周りには数人の男らがいた。どれもが世襲貴族家の当主である。彼らは男爵より下の準男爵や騎士爵位を国から任命されている者らだった。

「うむ、間違いなかろう。ジーグルト家はここら一帯で有数の鉱山資源を有する家柄ではあったが外部との接触は控え鉱石の産出と運搬だけを行っていた。しかし、先代のベルン殿が爵位を跡取りであるアルベルト殿に譲り渡したときの騒動をよく思い出してほしい」

先代のベルンが跡取りであるアルベルトに爵位を譲り渡す時の園遊会でラーズグリフ子爵の悪行を公開した時だ。通常であれば殺し屋が依頼主のことをしゃべるはずがないし事実だって分かるはずがない。各貴族家は身の回りの不幸を悲しんだが犯人は捕まえられなかったし首謀者すらも不明だった。

ラーズグリフ子爵とその周りには黒い噂が立っていたが誰も確認出来なかった。

だが、

『我々はラーズグリフ子爵に雇われた殺し屋だ。これまで行った悪行を包み隠さずに告白する』

その園遊会に出てきたのは一五人の男らである。

彼らはまるで夢に酔わされたかのように告白を始めた。

とある貴族の恋人の不幸、とある貴族の婦人の不幸、とある貴族の令嬢の不幸……、これまで貴族家の中だけで隠されていた事実をまるで当事者のごとく話始めたのだ。

その隠し続けた話が続けられるに従って雇い主であるラーズグリフ子爵に注目が集まる。

「こ、こんなのはデタラメだ!」

ラーズグリフ子爵は顔を赤らめ激昂しながら否定する。

「ええい!そのような醜い輩の発言を止めさせろ!!」

直接近づいて止めようとするがジーグルト家の家臣に止められる。

告白は止まらず騒ぎだす貴族ら、そして、確信する」

『貴様が首謀者か!?』

貴族らの怒りが爆発した。

参加者全員がラーズグリフ子爵に敵意と殺意を向ける子爵は必死に弁明しようとするがそれを認めるなどできなかった。そうして、子爵は去っていった。

貴族社会のコミュニティは強くそこで仲間外れにされるということがどれほど辛いのかは想像に難くない。これだけの貴族を敵に回した子爵はすぐさま周りから取引や商隊の移動を遮断した。いくら子爵といえどもこれだけの数から付き合いを拒否されれば領地の運営など不可能だ。

彼の家は遠くない未来、消え去るだろう。

その後、すぐさま実行犯を捕まえ子爵の悪事を暴いたアルベルト殿に期待と称賛の声が上がる。これで彼は『ただの大貴族家の跡取り』ではなく『非常に優秀な貴族家当主』という信頼と評価を得たのだ。

「あの事件を思い出したくはないが」

「うむ。我らでさえ犯人が誰なのかすら分からなかったのにどのようにして捕まえてきたのだ、と。考えさせられたものだ」

「間違いなく冒険者ギルドからの手助けであろう」

他の貴族らも同意見のようだ。

「それらの事実から考えた答えは一つだ」

今、ジーグルト家には軍師が存在しておりその人物がベルンやアルベルトに知恵を貸したのだとの答えだ。

「ジーグルト家はこれまで領地のことだけで一杯であり外に出てこなかった。しかし、代替わりをしてからアリム、ペトラ、ユードルトという商業の重要拠点を即座に制圧するという行動に出た。これは明らかに軍師が采配を振るっていることに間違いない」

以前からこの三拠点は需要な場所として認知されておりその統治を任されていた三つの男爵家は商人らから通行税を取っていた。だが、その守りが固く兵士も揃えていたので手が出せなかったのだ。冒険者ギルドに報告しようにも軍縮が進む今日では難しくほぼ黙認されいた。

それなのに、ジーグルト家の兵士らはあっという間に攻め落としたのだ。精強な兵士を抱えるのが難しい時代なのにこの短期間でそれを達成するのは普通ではない。

「大まかに拠点を見てきたが悪政を敷かれていた人民は皆兵士らに感謝し兵士らも横暴な振る舞いを取ろうとはしない」

これは明らかに軍規が厳しく教えられておりそれを守る忠実な兵士の証拠だった。

「すると、今後ジーグルト家はどのように動くと思う?」

「! そうか、輸送経路と防衛線の構築、ということなのだな」

「そうだ、これまで外部に出てこなかった軍勢が代替わりを切っ掛けに動き出した」

「すると、周囲で悪さをしている悪人らの成敗に動くわけなのだな」

「そう見てよかろう」

そうと分かれば話は早い。

「我らと親しく付き合っている貴族家や商人らと連絡を取り支援物資の融通や兵士らの派遣を取ろう」

どこの貴族家も財政は苦しいがここで支援をしておけば手荒な真似をせず爵位や地位を保全してくれるだろう、もしかしたら何か褒美をいただける可能性もある。

いくら伯爵家とは言え平和な時代なので動員できる人間はさして多くはないはず、送れる人数は多くても一家につき十名程度だが数が集まればそこそこ役立つ。

ジーグルト家の代替わりを切っ掛けに周囲の貴族らが動き始めることになった。ライル子爵は秘密裏に連絡を取り合い必要な物を揃えていくことにした。

「ここに集まっているのは五家だけだがジーグルト家の動きを危険視しているクルト子爵らは民兵らを徴募してくるだろう」

「そうなると厄介であるな」

「数任せの戦では勝負にならないが勝算はある」

戦闘経験もロクにせず堕落した貴族家の兵士と民兵では訓練された兵士と練られた戦術に勝てるわけがない。勝算は明らかに見えている。

以前の状態では無謀だが軍師が付いてるとなれば話は別問題だ。

おそらく、クルト殿もこれまでだろう。悲しいかな、それが貴族の宿命なのだ、同情は一切しない。それだけのことを隠し続けてきたのだから。

ともかく、出来る限り同意するという署名を集めて使者を送る。アルベルト殿は決して拒まないだろう。そうせざるを得ない証拠が上がっているのだから。

善は急げだ。
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