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第1章
135話 捕虜に取る
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ライル殿とクルト殿を帰してからすぐに。
「彼ら二人の反応を見てどうだったと思う?」
アランやウィニーらを集めて今後の対応を考えることにした。
「ライル殿は終始冷静でありましたがクルト殿には明らかに焦りと不安の色が見えました。何かを企んでいるのは間違いないでしょう」
「自分も考えたくないのですが頷くしかありません。どうしてこんな争いを引き起こしてるのでしょうか」
ウィニーはともかくアランの顔はさえなかった。
争いの原因の大本は土地による地代収入と商業路による通行税によるところが大きい。この辺りは男爵以上の貴族はほとんどおらず大半がそれより下の下級貴族で構成されている。
そのため、預かる土地を有しているかで資金力に差が出るのだ、
拠点や村を一つ預かるだけでも結構な違いが出てくる、それが人口数百人程度だとしても。土地の価値は査定はいろいろあるがまずは商人らが通る道であるかないか、商人らが多く通る場所を押さえれば税を取るという構図が成り立つ。
ただ、通行税にも善し悪しがあるのだ。
通行税がなかったり軽い方が商人らの移動が活発となり結果として栄える。だけども、三拠点とも相当な税を徴収していた書類が見つかっている。さらに警備と称する連中が計算よりもはるかに多かった。これでは経営はかなり危ういものだっただろう。
それに加えて移動先の分からない金の存在だ。ウィニーらにも確認を取らせたが商人などから取り立てた通行税などはどこに行ったのか足取りを追うのは難しい、何しろ金に名前など入れられないからだ。誰が所有者になったのかすら不明である。
健全な経営をしていれば通行税を取る必要はほとんどないのだが冒険者ギルドに送る金額とは明らかに違う移動先。これは冒険者ギルドも気づいていない。
当然不法所得となるのだがこの世界でも汚れた金の洗浄を企む輩がいるということだ。何しろ目が行き届いてない場所で行うのだからそうした悪人も出てきて仕方ない。
そのため、証拠を冒険者ギルドに複写して送ったのだ。
この事実を知れば冒険者ギルドは激怒して調査に乗り出すのは間違いない。村町拠点に監査役を送り込むだけでは済まないだろう。貴族家の本拠地にまで乗り込んで調査されるかもしれない。
不法な所得をしていたことがバレたらその家は相当な制裁を受ける。家は大きな借金を背負わされ罪状持ち扱いにあるかもしれない。
自業自得だから仕方がないだろう。
どちらにしても、敵対勢力であることは間違いない。彼らにとって事実を暴露されると大変に困るからだ。
さて、そうなると。動かなくてはならないだろう。
「この三つの世襲貴族家に兵を送れ。相手の言い分は絶対に聞くな。言うことを聞かないようなら奥方や跡取りや娘を人質に取ってこい」
『ハハッ!』
兵士らに命令を下す。
政治闘争において受け身は絶対にダメだ。行動を起こし先手を取って反撃を封じるのは常道だ。何しろ兵士の人数が圧倒的に足りない、倍ぐらいの数があれば問題ないがジーグルト家から借りてきた兵士の人数はこれが限界だった。
そうなると兵士の人数で押し込むという手段が取れない。少数の兵で勝つには相手がとる行動に常に先手で対応しなくてはならないのだ。
そうして、水面下で策謀を巡らす。
しばらくのち――
「嫌ッ!なぜ私達が連れてこられることになるのですか!?」
「はなっ、せっ!」
「お母様!」
ユードルトに世襲貴族家の奥方跡取り娘らが連れてこられた。人数は十人。いずれも押収した証拠に名前があった世襲貴族家の関係者だった。
「初めまして。自分はアランと申します」
『くっ!ジーグルト家の家臣が何の要件で私達をここに連れてきたのですか!!』
全員が怒りと不安の表情を浮かべる。
アランは僕が命じたことをそのままに伝える。
「あなた方の主君や夫は各地の拠点から不法な財を巻き上げておりました。それを知ったジーグルト家は正しく利益を回収し元の持ち主の所に帰すべきだと判断いたしました」
『領地から税を取って何が悪いのですか!」
当然の反応。それでもなお理屈で対応する。
「税を取ることに対して罰があるわけではありません。事情によりそれも仕方ないこともあるでしょう。しかしながら取った金の額があまりにも大きいのです」
これを冒険者ギルドなどが知ればどのようなことになるか?少しばかり威圧を込める。
「貴族として恥ずかしくない身なりと生活をするのは当然でしょう!」
一人の婦人が反抗する。服装も派手で装飾品が目に痛い。
「さっさと帰しなさい!下郎が!!」
女が手を上げようとするが、
「そんな風に振舞うから我らが武器を抜かねばならないのですよ!」
アランは頬に剣の刀身を当てる。
「ヒイッ!ぶ、武器を抜いて、脅すのですか!?」
女は怯えながら抵抗する。
「その服や装飾品を買った金は元は誰のものですか!食事に使った金は?遊ぶための金は?貴族の爵位でもらう年金を遥かに超えた金を使い散々遊んだでしょうが!」
もう十分世を楽しんだはず、ならば。どこかで必ず精算をしなければならないはずだと。
「我が主君は寛大ではありますが貴族の誇りと精神を守る御方。お前達のような放蕩三昧の貴族の家族を見れば大層心を痛めるでしょう。でも、それもこれもすべてあなた方に責任があります」
それで周りの兵士らも武器を抜く。
「武器を血で染めるのですか!」
「いいえ、大人しくなっていただくだけです。これ以上あなた方の戯言に付きあっても仕方がない。捕虜は捕虜らしくしていただきましょう。逆らうならば、家を断絶させるだけです」
『……』
それで全員が大人しくなり軟禁されることになった。
「これで、よろしいのでしょうか?」
アランは僕に平伏した。
「まぁ、赤点ではないけど合格点にはちょっと届かない、かな」
彼の心はとても複雑であろう。それも仕方ないことだが、こうしなければ自分らがどうなるのか分からなくなる。一方的に世襲貴族三家に攻撃を仕掛けたため反撃すらさせずに制圧した。
そうして出てきたのは年金を上回る贅沢品の数々であった。
調度品から装飾品まで生活水準を上回る品々を見て兵士らは少し言葉を失ったほどだ。一時的に制圧下においてあとで現金化、社会に還元するように配慮する。
この事実を見て相当な搾取をしていたのだろう。
世襲貴族の愚かさは止まることがない。
そろそろ周囲が騒ぎ始めるだろう。奴らがどういう行動を起こすのかについて。多分交渉は決裂するだろう。こうなると武力で解決するしかない。
まともであれば敵はこちらより数で大きく勝る。そのため、先手を取って数を減らしていく必要があった。今回の行動で家族らを捕らえたのは事前予防である。
冒険者ギルドの援軍は期待しない方が良いだろう。下手に参加させると火事が大きくなる。出来る限り貴族間の争いで解決しなければならない。
さ~て、相手側はどのような駒を使ってくるのか。それもこれもお前らが撒いた火種だ、しかるべき形で始末を付けてもらう。とはいえ、それだけで勝てるほど世の中は甘くない。
「ウィニー」
「はっ」
「噂は撒いてきた?」
「はい」
数が勝る相手に勝つには流言飛語が最も手軽で効果的だ。何しろ、狭い範囲のコミュニティが殆どの異世界、こうした噂が広まるのは早く根強く残る。
事実とちょっとばかりの嘘を混ぜて飛ばすことにより人々は近くの人間を簡単に疑うようになる。貴族であるならばなおさらだ。
彼らの評判は元から悪い、近くに火種を置いて風を送ればあっという間に燃え盛る。その消火作業は簡単ではない。直接戦えば数で負けるのだからこうした策謀は当たり前だ。それを『悪党』などと言われる筋合いはない。民衆から金を巻き上げて贅沢してるのだからお前らの方が直接的な悪党だ。
しばらくすれば消火作業で必死になるだろう。民衆を抑え込もうとすればするほどに火は勢いを増す。
さ~て、状況が動くまで慌てふためく愚か者らを観察することにしようか。
「彼ら二人の反応を見てどうだったと思う?」
アランやウィニーらを集めて今後の対応を考えることにした。
「ライル殿は終始冷静でありましたがクルト殿には明らかに焦りと不安の色が見えました。何かを企んでいるのは間違いないでしょう」
「自分も考えたくないのですが頷くしかありません。どうしてこんな争いを引き起こしてるのでしょうか」
ウィニーはともかくアランの顔はさえなかった。
争いの原因の大本は土地による地代収入と商業路による通行税によるところが大きい。この辺りは男爵以上の貴族はほとんどおらず大半がそれより下の下級貴族で構成されている。
そのため、預かる土地を有しているかで資金力に差が出るのだ、
拠点や村を一つ預かるだけでも結構な違いが出てくる、それが人口数百人程度だとしても。土地の価値は査定はいろいろあるがまずは商人らが通る道であるかないか、商人らが多く通る場所を押さえれば税を取るという構図が成り立つ。
ただ、通行税にも善し悪しがあるのだ。
通行税がなかったり軽い方が商人らの移動が活発となり結果として栄える。だけども、三拠点とも相当な税を徴収していた書類が見つかっている。さらに警備と称する連中が計算よりもはるかに多かった。これでは経営はかなり危ういものだっただろう。
それに加えて移動先の分からない金の存在だ。ウィニーらにも確認を取らせたが商人などから取り立てた通行税などはどこに行ったのか足取りを追うのは難しい、何しろ金に名前など入れられないからだ。誰が所有者になったのかすら不明である。
健全な経営をしていれば通行税を取る必要はほとんどないのだが冒険者ギルドに送る金額とは明らかに違う移動先。これは冒険者ギルドも気づいていない。
当然不法所得となるのだがこの世界でも汚れた金の洗浄を企む輩がいるということだ。何しろ目が行き届いてない場所で行うのだからそうした悪人も出てきて仕方ない。
そのため、証拠を冒険者ギルドに複写して送ったのだ。
この事実を知れば冒険者ギルドは激怒して調査に乗り出すのは間違いない。村町拠点に監査役を送り込むだけでは済まないだろう。貴族家の本拠地にまで乗り込んで調査されるかもしれない。
不法な所得をしていたことがバレたらその家は相当な制裁を受ける。家は大きな借金を背負わされ罪状持ち扱いにあるかもしれない。
自業自得だから仕方がないだろう。
どちらにしても、敵対勢力であることは間違いない。彼らにとって事実を暴露されると大変に困るからだ。
さて、そうなると。動かなくてはならないだろう。
「この三つの世襲貴族家に兵を送れ。相手の言い分は絶対に聞くな。言うことを聞かないようなら奥方や跡取りや娘を人質に取ってこい」
『ハハッ!』
兵士らに命令を下す。
政治闘争において受け身は絶対にダメだ。行動を起こし先手を取って反撃を封じるのは常道だ。何しろ兵士の人数が圧倒的に足りない、倍ぐらいの数があれば問題ないがジーグルト家から借りてきた兵士の人数はこれが限界だった。
そうなると兵士の人数で押し込むという手段が取れない。少数の兵で勝つには相手がとる行動に常に先手で対応しなくてはならないのだ。
そうして、水面下で策謀を巡らす。
しばらくのち――
「嫌ッ!なぜ私達が連れてこられることになるのですか!?」
「はなっ、せっ!」
「お母様!」
ユードルトに世襲貴族家の奥方跡取り娘らが連れてこられた。人数は十人。いずれも押収した証拠に名前があった世襲貴族家の関係者だった。
「初めまして。自分はアランと申します」
『くっ!ジーグルト家の家臣が何の要件で私達をここに連れてきたのですか!!』
全員が怒りと不安の表情を浮かべる。
アランは僕が命じたことをそのままに伝える。
「あなた方の主君や夫は各地の拠点から不法な財を巻き上げておりました。それを知ったジーグルト家は正しく利益を回収し元の持ち主の所に帰すべきだと判断いたしました」
『領地から税を取って何が悪いのですか!」
当然の反応。それでもなお理屈で対応する。
「税を取ることに対して罰があるわけではありません。事情によりそれも仕方ないこともあるでしょう。しかしながら取った金の額があまりにも大きいのです」
これを冒険者ギルドなどが知ればどのようなことになるか?少しばかり威圧を込める。
「貴族として恥ずかしくない身なりと生活をするのは当然でしょう!」
一人の婦人が反抗する。服装も派手で装飾品が目に痛い。
「さっさと帰しなさい!下郎が!!」
女が手を上げようとするが、
「そんな風に振舞うから我らが武器を抜かねばならないのですよ!」
アランは頬に剣の刀身を当てる。
「ヒイッ!ぶ、武器を抜いて、脅すのですか!?」
女は怯えながら抵抗する。
「その服や装飾品を買った金は元は誰のものですか!食事に使った金は?遊ぶための金は?貴族の爵位でもらう年金を遥かに超えた金を使い散々遊んだでしょうが!」
もう十分世を楽しんだはず、ならば。どこかで必ず精算をしなければならないはずだと。
「我が主君は寛大ではありますが貴族の誇りと精神を守る御方。お前達のような放蕩三昧の貴族の家族を見れば大層心を痛めるでしょう。でも、それもこれもすべてあなた方に責任があります」
それで周りの兵士らも武器を抜く。
「武器を血で染めるのですか!」
「いいえ、大人しくなっていただくだけです。これ以上あなた方の戯言に付きあっても仕方がない。捕虜は捕虜らしくしていただきましょう。逆らうならば、家を断絶させるだけです」
『……』
それで全員が大人しくなり軟禁されることになった。
「これで、よろしいのでしょうか?」
アランは僕に平伏した。
「まぁ、赤点ではないけど合格点にはちょっと届かない、かな」
彼の心はとても複雑であろう。それも仕方ないことだが、こうしなければ自分らがどうなるのか分からなくなる。一方的に世襲貴族三家に攻撃を仕掛けたため反撃すらさせずに制圧した。
そうして出てきたのは年金を上回る贅沢品の数々であった。
調度品から装飾品まで生活水準を上回る品々を見て兵士らは少し言葉を失ったほどだ。一時的に制圧下においてあとで現金化、社会に還元するように配慮する。
この事実を見て相当な搾取をしていたのだろう。
世襲貴族の愚かさは止まることがない。
そろそろ周囲が騒ぎ始めるだろう。奴らがどういう行動を起こすのかについて。多分交渉は決裂するだろう。こうなると武力で解決するしかない。
まともであれば敵はこちらより数で大きく勝る。そのため、先手を取って数を減らしていく必要があった。今回の行動で家族らを捕らえたのは事前予防である。
冒険者ギルドの援軍は期待しない方が良いだろう。下手に参加させると火事が大きくなる。出来る限り貴族間の争いで解決しなければならない。
さ~て、相手側はどのような駒を使ってくるのか。それもこれもお前らが撒いた火種だ、しかるべき形で始末を付けてもらう。とはいえ、それだけで勝てるほど世の中は甘くない。
「ウィニー」
「はっ」
「噂は撒いてきた?」
「はい」
数が勝る相手に勝つには流言飛語が最も手軽で効果的だ。何しろ、狭い範囲のコミュニティが殆どの異世界、こうした噂が広まるのは早く根強く残る。
事実とちょっとばかりの嘘を混ぜて飛ばすことにより人々は近くの人間を簡単に疑うようになる。貴族であるならばなおさらだ。
彼らの評判は元から悪い、近くに火種を置いて風を送ればあっという間に燃え盛る。その消火作業は簡単ではない。直接戦えば数で負けるのだからこうした策謀は当たり前だ。それを『悪党』などと言われる筋合いはない。民衆から金を巻き上げて贅沢してるのだからお前らの方が直接的な悪党だ。
しばらくすれば消火作業で必死になるだろう。民衆を抑え込もうとすればするほどに火は勢いを増す。
さ~て、状況が動くまで慌てふためく愚か者らを観察することにしようか。
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