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第三章
才能の覚醒
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朱の大会が始まる前に姫椿から与えられた魔力を自分に馴染ませるのに時間を費やしたおかげで、呪われた力を制御できる武器まで出せる様になった。
それでも残っている魔力は充分あって、姫椿の奴が余計に多く渡して来た事を後から知る。
いつもいつも自分の事は二の次で、その小さな背に何でも背負い込もうとする癖を知ってた筈なのに結局まだ自分はお荷物にしか思われてなくて頼り甲斐もないんだろうと思うと腹が立つ。
だが生憎、惚れた女の後ろに隠れる気なんざ、さらさら無い。
昨夜は浮かれて……ちょっと油断しただけだ。
もう操られる様なヘマはしない。絶対。誓って。
勝手に期待して傷つく事もない。
“黎明の鍵”が手元にある、その事実だけあれば立っていられる単純過ぎる自分は嫌いじゃなかった。
先が読めなくて無意識に出し惜しみしてた力を今ここで出し切ってやる。
そんな決意を胸に、王李は自分にかけていたリミッターを外した。
「翠」
王李が大鎌の柄の先端で床を叩くと緑色をした水の波紋が綺羅と真白を中心に広がり、淡く光を放つ輪を造った。
真白が恐る恐る触れてみると少しだけ暖かくて、上から降り注ぐ霧を弾く音がパチパチと聞こえる幻想的な空間に思わず声が漏れる。
「綺麗」
初めて魔法を目の当たりにして魅せられている真白の隣で、少しだけ毒に侵され滴った鼻血を拭いながら綺羅もそっと魔法陣に触れる。
静かに王李からの合図を待つと、更に2回、床を叩く音が響いた。
それに合わせて意識を集中させ姫椿を魔法陣の中へ転移させると、ドシャッと潰れた音と血の匂いを漂わせた姫椿が真白の隣に落ちるように現れた。
「っ、ざ、雑……」
起き上がる気力も残ってないのか、肘で上半身を支えながら微笑む姫椿を真白は抱きしめた。
「姫っ!!」
「まし、ろ。さっきは、ありがとう。怪我しなかった?」
「してない!してないよ!ごめんね、もっと早く行動していれば良かった。私、何にも出来てない。役に立ててない」
不甲斐ない自分に涙が出て来た真白の背中を、姫椿が優しく叩く。
「そんな事ない。私を助けてくれたよ」
「でも!私にもあんな風に綺麗な魔法が使えたら……姫の事を治療してあげられたかもしれないとか思っちゃうの」
少し間を空けて、姫椿は真白に問いかけた。
抱きしめていた真白の身体を少し離して、その表情を探る様に覗きながら慎重に、聞く。
「……真白、見えるの?」
姫椿に問われた意味を測りかねてしばらく首を傾げていた真白だったが、傍にいた綺羅に交戦中の王李と白椿を指さされてからハッとする。
もしかして、さっき見えた光の話?
それとも今見えているやつだろうか?
「え?あ、これ?うん。見えるよ!綺麗な色の線……糸、みたいなのが幾つもある。私と姫を繋いでいるのは青色。王李も同じ。綺羅は……あれ?見えない。けど繋がってるよ?」
ポカンとした表情で顔を見合わせている姫椿と綺羅に、真白は不安になった。
もしかして変な事を言ってしまっただろうか?と俯いて床に輝く魔法陣に触れる。
「ま、真白。赤いのは何処にある?」
「赤は……あそこ」
顔を上げて会場を見回した後、指差した先に居たのは白馬だった。
雪乃を連れて遅れてきた為に状況が読めず、扉の前で立ち尽くしている姿を確認しながら姫椿は再度確認する。念を押す様に、ゆっくりと。
「赤は、白馬に繋がってるんだね?」
「うん」
「……わかった」
姫椿が何かを決意した様に頷いた後で、すぐ横にいた綺羅に目配せをした。
その瞳は本当にそれで良いのか?と問いながらも、綺羅の意思を尊重し理解を示そうとしている。
綺羅は自分と真白を繋ぐ赤い糸を隠したまま、笑って誤魔化した。
学園生活の中で都合の良い様に過去を捏造され、俺の事もあまり覚えていない今の真白が見たら……ひたすら混乱するだけのものだ。
だから真白より先に気づいて見えなくしたのは正解だと思っている。
「姫椿姐さん、俺、まだやれます」
また王李の魔力に感化されて、覚醒しつつある真白の素質を羨ましく思ったのも事実だ。
王李の大鎌が綺麗な半円を描いて空を切る様子を見ながら、自分の身体に光る赤い鎖に手を這わせ綺羅は指示を仰いだ。
「使ってください」
少し躊躇う姫椿に頭を下げると、観念した溜息と共に計画を教えてくれた。
「……真白に教えている間、白馬を捕まえてて」
「はい」
「無茶はしない事。ちゃんと私のところに帰っておいで」
お母さんみたいな言い方に、綺羅は照れ臭くなりながら王李が張った魔法陣の外へ向かって駆け出していった。
その綺羅の後ろ姿を目で追いながら、真白は置いてかれた気持ちをむず痒く感じていた。
姫椿と綺羅の会話に、とても口を挟める空気じゃなくて力になれない自分が凄くもどかしい。
「絶対、無茶も無理もさせないから……」
そんな気持ちを姫椿は汲んでいた。
魔力も底をつき、身体は予想以上に死にかけている中、今は綺羅にかけた“使役”を操る事で正直精一杯だけど、久しぶりに見た素質ある原石を放置したりしない。
此方の戦力になるならむしろ有難い位で、真白を利用しているみたいで申し訳ないと思う部分もあるが事態は思っていた以上に深刻だ。
白馬はこの後、絶対逃げる気でいる。
今ここで白椿というリーダーを失ったら“暗夜”を建て直せる手腕の持ち主は彼しかいない。
仮に逃したら、いつかまた“朱の大会”に代わる催しを密かに始める危険性すらある。
そんな奴を野放しには絶対にしない。
「真白!やるぞ!!」
「うん!!」
詳細は分からないけど、何故かやる気に満ちている姫椿につられた真白は力強く返事をした。
それでも残っている魔力は充分あって、姫椿の奴が余計に多く渡して来た事を後から知る。
いつもいつも自分の事は二の次で、その小さな背に何でも背負い込もうとする癖を知ってた筈なのに結局まだ自分はお荷物にしか思われてなくて頼り甲斐もないんだろうと思うと腹が立つ。
だが生憎、惚れた女の後ろに隠れる気なんざ、さらさら無い。
昨夜は浮かれて……ちょっと油断しただけだ。
もう操られる様なヘマはしない。絶対。誓って。
勝手に期待して傷つく事もない。
“黎明の鍵”が手元にある、その事実だけあれば立っていられる単純過ぎる自分は嫌いじゃなかった。
先が読めなくて無意識に出し惜しみしてた力を今ここで出し切ってやる。
そんな決意を胸に、王李は自分にかけていたリミッターを外した。
「翠」
王李が大鎌の柄の先端で床を叩くと緑色をした水の波紋が綺羅と真白を中心に広がり、淡く光を放つ輪を造った。
真白が恐る恐る触れてみると少しだけ暖かくて、上から降り注ぐ霧を弾く音がパチパチと聞こえる幻想的な空間に思わず声が漏れる。
「綺麗」
初めて魔法を目の当たりにして魅せられている真白の隣で、少しだけ毒に侵され滴った鼻血を拭いながら綺羅もそっと魔法陣に触れる。
静かに王李からの合図を待つと、更に2回、床を叩く音が響いた。
それに合わせて意識を集中させ姫椿を魔法陣の中へ転移させると、ドシャッと潰れた音と血の匂いを漂わせた姫椿が真白の隣に落ちるように現れた。
「っ、ざ、雑……」
起き上がる気力も残ってないのか、肘で上半身を支えながら微笑む姫椿を真白は抱きしめた。
「姫っ!!」
「まし、ろ。さっきは、ありがとう。怪我しなかった?」
「してない!してないよ!ごめんね、もっと早く行動していれば良かった。私、何にも出来てない。役に立ててない」
不甲斐ない自分に涙が出て来た真白の背中を、姫椿が優しく叩く。
「そんな事ない。私を助けてくれたよ」
「でも!私にもあんな風に綺麗な魔法が使えたら……姫の事を治療してあげられたかもしれないとか思っちゃうの」
少し間を空けて、姫椿は真白に問いかけた。
抱きしめていた真白の身体を少し離して、その表情を探る様に覗きながら慎重に、聞く。
「……真白、見えるの?」
姫椿に問われた意味を測りかねてしばらく首を傾げていた真白だったが、傍にいた綺羅に交戦中の王李と白椿を指さされてからハッとする。
もしかして、さっき見えた光の話?
それとも今見えているやつだろうか?
「え?あ、これ?うん。見えるよ!綺麗な色の線……糸、みたいなのが幾つもある。私と姫を繋いでいるのは青色。王李も同じ。綺羅は……あれ?見えない。けど繋がってるよ?」
ポカンとした表情で顔を見合わせている姫椿と綺羅に、真白は不安になった。
もしかして変な事を言ってしまっただろうか?と俯いて床に輝く魔法陣に触れる。
「ま、真白。赤いのは何処にある?」
「赤は……あそこ」
顔を上げて会場を見回した後、指差した先に居たのは白馬だった。
雪乃を連れて遅れてきた為に状況が読めず、扉の前で立ち尽くしている姿を確認しながら姫椿は再度確認する。念を押す様に、ゆっくりと。
「赤は、白馬に繋がってるんだね?」
「うん」
「……わかった」
姫椿が何かを決意した様に頷いた後で、すぐ横にいた綺羅に目配せをした。
その瞳は本当にそれで良いのか?と問いながらも、綺羅の意思を尊重し理解を示そうとしている。
綺羅は自分と真白を繋ぐ赤い糸を隠したまま、笑って誤魔化した。
学園生活の中で都合の良い様に過去を捏造され、俺の事もあまり覚えていない今の真白が見たら……ひたすら混乱するだけのものだ。
だから真白より先に気づいて見えなくしたのは正解だと思っている。
「姫椿姐さん、俺、まだやれます」
また王李の魔力に感化されて、覚醒しつつある真白の素質を羨ましく思ったのも事実だ。
王李の大鎌が綺麗な半円を描いて空を切る様子を見ながら、自分の身体に光る赤い鎖に手を這わせ綺羅は指示を仰いだ。
「使ってください」
少し躊躇う姫椿に頭を下げると、観念した溜息と共に計画を教えてくれた。
「……真白に教えている間、白馬を捕まえてて」
「はい」
「無茶はしない事。ちゃんと私のところに帰っておいで」
お母さんみたいな言い方に、綺羅は照れ臭くなりながら王李が張った魔法陣の外へ向かって駆け出していった。
その綺羅の後ろ姿を目で追いながら、真白は置いてかれた気持ちをむず痒く感じていた。
姫椿と綺羅の会話に、とても口を挟める空気じゃなくて力になれない自分が凄くもどかしい。
「絶対、無茶も無理もさせないから……」
そんな気持ちを姫椿は汲んでいた。
魔力も底をつき、身体は予想以上に死にかけている中、今は綺羅にかけた“使役”を操る事で正直精一杯だけど、久しぶりに見た素質ある原石を放置したりしない。
此方の戦力になるならむしろ有難い位で、真白を利用しているみたいで申し訳ないと思う部分もあるが事態は思っていた以上に深刻だ。
白馬はこの後、絶対逃げる気でいる。
今ここで白椿というリーダーを失ったら“暗夜”を建て直せる手腕の持ち主は彼しかいない。
仮に逃したら、いつかまた“朱の大会”に代わる催しを密かに始める危険性すらある。
そんな奴を野放しには絶対にしない。
「真白!やるぞ!!」
「うん!!」
詳細は分からないけど、何故かやる気に満ちている姫椿につられた真白は力強く返事をした。
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