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夢のはじまり

第36話 二号店

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「二号店の準備を始めるわ」

 エスニアとの問題が解決して早二ヶ月、季節は夏に差し掛かったところ。私はかねてよりの計画通りグレイ、エレン、ディオンの三人で最終の打ち合わせをする。

 ローズマリー二号店、これが元々私が考えていた計画の最終段階。

 この二号店は一号店と全く趣旨が異なる。
 一号店は材料をコストを抑えた庶民向けの販売、一方二号店は貴族向けの販売を主とする事になる。
 本来二号店を展開するにはもう少し実績や経験が欲しいところではあるが、私にはどうしても急ぐ必要があった。

 以前ライナスとのいざこざがあったが、やはり貴族と庶民が一緒の空間にいると言うのは何かと問題がある。
 実は貴族の方が何度かカフェに来られた事があったのだが、やはり少々嫌な空気になってしまったのだ。
 全員がそうだとは言わないが、貴族の方からすれば周りのテーブルでワイワイ聞こえる話し声は気にくわないし、庶民の方からすればその服装から別世界の人だと言う事は明らかなのだろう。
 パフェを始めた頃からますます貴族間でも有名になってきており、早急に貴族の方を受け入れる体制を用意する必要があったと言うわけだ。



「グレイ、店舗の手配は上手くいきそう?」
「はい、この辺りはどうも買い手が付きにくいようなので、購入の意思を伝えましたら幾らかの値引き交渉をしていただけるとの事です」
「それは助かるわ。の改造にも費用が嵩張かさばってしまうでしょうし、家具なんかも必要になってくるからね、購入金額は出来るだけ安く交渉しないと」

 二号店の場所の目安はすでに付けてある。
 最初はただレトロ調でオシャレなお屋敷だと思っていただけで、店舗にしようとは考えてすらいなかった。

 だけどこの立地は今の私たちには好都合の上、貴族向けに店舗展開するには打って付けの物件だったのだ。
 少々年季の入った屋敷だけど修理すれば問題ないだろう、おまけに馬車止めのスペースやガーデニングテラスもあり、いろんな用途で活躍してくれるのは明らかだ。

「グレイ、早速だけど明日にでも物件を確認したいの。手配をお願いできるかしら?」
「畏まりました」





 翌日、私とグレイはローズマリーのにあるへとやって来た。

「如何でございましょうか?」
 商業ギルドの不動産を専門を扱っている担当さんと共に屋敷内を見回る。
 一号店を始める以前から空き家状態だったので、それなりの汚れ埃やはあるが建物自体は問題はないだろう。
 だがここで欲しがってはいけない、その場合値段交渉で不利な立場に立たされてしまう。

「そうね、思っていたより随分古びているわね」
 ワザとらしく柱や手すりを触り痛み具合を確認する。

「少々築年数は経っておりますが、以前子爵様の遠縁の方が使われていたお屋敷ですので、建屋自体はしっかりとした作りでございます」
 ギルド職員は物件のいい処をアピールし値段を釣り上げようと試みているのだろう。

「そうかしら、建屋自体はしっかりしていうようだけど随分使われていないみたいだし、所々に目立つ傷があるわね」
 中古物件なのだから傷があるのは当たり前だ、だけど上手く駆け引きをし出来るだけ安く購入する必要がある。出費は出来るだけ抑えたいからね。

 一通り屋敷内を見学した結果中々の優良物件と見た。
 確かに築年数と長年誰も住んでいなかったせいで傷んでる所はあるけれど、修理や壁紙などの張り替えをすれば十分に使える。
 どうせ一階の間取りはカフェと調理場に改造するため、大きな工事をするつもりだったので問題ないだろう。

 この二号店では今まで出来なかったオリジナルの紅茶やハーブティーを茶葉のまま販売する予定なので、作業スペースとして調理場を広くとる予定だ。
 他にもチョコレートを使ったお菓子や生チョコのお持ち帰り考えているし、を新たに製造するためにも調理場は最重要な場所になる。

 他にも本格的にガーデンパーティーができる庭園があったり、馬はいないが馬車と荷馬車の車だけがあったりする。馬車は使う用途がないが、荷馬車は大いに活躍させたい。
 ゆくゆくは庭園で貸切パーティーなんかも出来ればと思っている。

 続く二階は個室部屋を用意するつもりだ。
 カフェスペースではどうしても見知らぬ者同士が顔を合わせてしまうが、貴族の中には会いたくない人もいると言うもの。
 その為に個室部屋を何部屋か用意する予定だ。
 まぁ、個室対応の分値段が少々高くなっても問題ないだろう、貴族にとては特別扱いはある種のステータスだ。

 そして三階、ここは以前使用人たちの部屋だったのだろう。
三階へと上がる階段もひとつしかなく、更に小さな部屋がいくつもあるので皆んなの部屋にも事足りるだろう。
 私とエリスの部屋もいるしね。

 今後二号店をオープンするにあたり、一号店はしばらくグレイに見てもらうことにして、私たちの住居は二号店に移るつもりだ。
 そして問題は一号店の補充スタッフ。私とエレンそしてディオンは二号店に移るからホールに1名、調理場に2名の補充が必要となる。

 ホールにはグレイとエスニアがいるから問題はないが、調理場をエリクに任せるには少々不安な所もある。
 エリクはおかし作りの腕は間違いなくプロと言ってもいいが、性格が少々弱気なのだ。
 上手く入ってくる調理人を指導出来ればいいが最悪の場合確執が生まれてしまう。
 まぁ、この辺りは私たちがフォローしなければならないだろう。エスニアもいるからビシバシしごいてもらおう。

 実はエスニアとエリクはいい感じに成り掛けているのだ。
 ちょっと頼りないエリクをしっかりとしたエスニアがフォローする。そんな関係が出来上がっている。
 本人たちは否定しているが、側からみれば『もう付き合っちゃえよ。』って感じなのだ。若いっていいわね。


 おっと、話が大分それてしまったわね。
 担当さんと屋敷を一回り見て早速値段交渉。

「建物としてはいいけれど、ここは随分長いこと買い手が付かなかったのよね」
 私が買わないと誰も買わないよっと遠回しにアピールする。
 私が知っている限りでも一年以上は買い手がないんだ、いくら建物自体は優良物件だといっても売れなければただの空き家だ。

「ええまぁ、これぐらいではいかがでしょうか?」
 提示された金額はまぁ妥当なところだろう。

「そうね、悪い金額ではないけれど、もう少し勉強してもらえないかしら? これから店を始めるので色々物入りになるのよ。家具なんかの購入もギルドを通すつもりだし、輸入も増えてくるでしょうからあなた達にも利益になるんじゃないかしら?」
 ここで売っとけば他にも利益が出るよと更に追い込む。
 前世では結局お店は開けなかったが、お店の手配までは私の値引き交渉で手に入れたのだ。なにわの商人魂を甘く見てもらっては困ると言うもの。あ、別に浪速なにわに住んでいた訳じゃないわよ? ただの気分だから気にしないで。

 結局私の値引き交渉に諦めたのか、随分安い価格でお買い上げする事ができた。
 さすがに現金一括払いとはいかないので、生まれて初めて借金と言うものを背負う事になるが、回収は十分に出来るだろう。

 こうして二号店の元となる屋敷を手に入れたのだった。
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