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第1章 幼少期(7歳)
66 無属性の魔法
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「まず、現在の状況について話すね。今はヴィクトリア・シュベーフェルの屋敷を訪れた日の夜。意識がなかったのは数時間程度かな。魔力枯渇は状況によって回復に日を跨ぐこともあるから、あまり重症じゃなくて良かったよ」
「す、すみません……」
「ああ、いや。アーシャがそうなったのは姿隠しの魔道具を使ったと思われる女の襲撃を防ごうと魔法を使おうとした結果だから。あまり褒められたことではないけれど悪いことではないよ」
そう、イース様。
言葉ではそこまで責めるような言い方ではないけれど、語調が少し冷たい。
怒ってらっしゃるみたい……。
確かに、言われて考えてみればその通りなのよね。
前の私ならいざ知らず、今の私は7歳の幼子。魔法の訓練も一切していないのだもの。相当の無茶をしようとしたと言っていい。
怒られるのも当然のことだわ。
「アーシャが実際にやったのは、魔法ではなく魔力放出という現象だと騎士や気絶したアーシャを診察した魔法士は言っていた。要は、魔法の不発の結果魔力だけが体外に押し出された形かな?例の女はこれで吹き飛ばされたんだよ」
「まあ……」
「普通この、魔力放出にはあまり威力はないらしいから。相当魔力を込めたみたいだね?」
「え、あ、その、」
「制御もできない魔力を無理に使おうとするからだよ。もう絶対にそんな危険なことはしてはいけない。いいね?」
「は、はい……」
素直に頷くしかなかった。
これでは恐らく、魔法の訓練はすぐにはできないでしょうね……。
自業自得だわ。咄嗟のこととはいえ、考えが甘かった。
「心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした……」
「これから気を付けてくれればそれでいいよ。あとは……今日のことは情報がまとまってから話そう。それからオリオン・シュベーフェルの予言についてだけど、これは明日、婚約発表の件で母上がこちらに来て下さるそうだから、その時に一緒に話そう」
「分かりました」
「今日は食事を取ったら、そのまま休むこと。いい?」
「はい」
「うん。いい子だね」
イース様が私の頭を撫でる。
心配をかけてしまったのだもの、今日は言うことを聞くことにしましょう。
本当は、ラックと話をしたかったのだけど……、一応、呼びかけるくらいはしようかしら。
反応が無ければラックも私みたいに魔力を使った事で眠っているということでしょうし。
むしろその可能性の方が高いかもしれないわ。確認だけはしておきましょう。
今回は事が事だし……深く眠っているかもしれない。
さて、深夜になった。
私は今、眠ったふりをしている。
というのも、今日は隣の部屋にスージーがいるのよ。心配したイース様が、何かあったらすぐに駆け付けられるようにって手配したそうなの。
隣の部屋では、いつものように話していては起きていることに気付かれるし、誰と会話しているのかと怪しまれてしまう。
どうせ今日は確認だけのつもりだし少しくらい……と思ったけれど、やっぱり気付かれる方が怖いわ。
どうしようかと悩み、……多分無理だろうと思いながらも、声に出さず、心の中で問いかけてみよう、と思い至った。
ラックは私の中に居るのだから、届くのではないかしら?
仮に無理でもこの方法は無理、と分かる。
――――ラック?聞こえるかしら?
心の中だけで、ラックに呼びかける。
すると。
『 聞こえているよ 』
ごく当たり前のように、ラックから反応が返ってきた。
この方法でも話し掛けることができるんだわ。
なら、この方が誰にも気付かれずにラックと話せるわね。夜以外でも。
今後はこの方法で話すようにしましょう。
――――起きていたのね。良かったわ。聞きたいことがあるのだけれど。
『 駄目 』
えっ。
『 レイオスも言っていただろう?休まなければ駄目だよ。無理に魔法を使おうとしたのだから。アリィ、君は君が思っているより危険なことをしたんだ 』
――――それを、聞きたいのだけれど。それも駄目なの?
『 ……仕方ない。また楽観視して無理をされたら困る。でも、それだけだよ?……まずは第一に、下地のできていない幼い身体で魔法を使おうとしたこと。これは誰にでも言えることだ。前の、17歳の君と今の7歳の君は全く違うってことをきちんと自覚してほしい。次に、君の属性が現在無属性であること。無属性は普通の属性とは根本的に違うんだ 』
――――根本的に、違う?どう違うというの?
『 他の属性の魔法は基本的に、実体がない。なんといえばいいのか……火や水は、触れない。そこに確かにあるけれど、物質ではない。だけど無属性は実体のある物体を作ることに特化というか、むしろそれしかできないというか。アリィの場合光と水の適性を持っているから……氷、が一番作りやすいと思う 』
――――氷……光はないの?
『 光は物質にはなりえない。強いて言えば光の魔石だけど――――もう寝ようね、アリィ。僕もそろそろ限界だ 』
「あっ」
……言うだけ言って、反応は返ってこなくなった。
限界、って、そうよね。ラックも疲れているわよね。
悪いことをしてしまったわ。
私ったら本当に、自分の事ばかり。
……知りたいことは知れたのだし、もう今日は休みましょう。
「す、すみません……」
「ああ、いや。アーシャがそうなったのは姿隠しの魔道具を使ったと思われる女の襲撃を防ごうと魔法を使おうとした結果だから。あまり褒められたことではないけれど悪いことではないよ」
そう、イース様。
言葉ではそこまで責めるような言い方ではないけれど、語調が少し冷たい。
怒ってらっしゃるみたい……。
確かに、言われて考えてみればその通りなのよね。
前の私ならいざ知らず、今の私は7歳の幼子。魔法の訓練も一切していないのだもの。相当の無茶をしようとしたと言っていい。
怒られるのも当然のことだわ。
「アーシャが実際にやったのは、魔法ではなく魔力放出という現象だと騎士や気絶したアーシャを診察した魔法士は言っていた。要は、魔法の不発の結果魔力だけが体外に押し出された形かな?例の女はこれで吹き飛ばされたんだよ」
「まあ……」
「普通この、魔力放出にはあまり威力はないらしいから。相当魔力を込めたみたいだね?」
「え、あ、その、」
「制御もできない魔力を無理に使おうとするからだよ。もう絶対にそんな危険なことはしてはいけない。いいね?」
「は、はい……」
素直に頷くしかなかった。
これでは恐らく、魔法の訓練はすぐにはできないでしょうね……。
自業自得だわ。咄嗟のこととはいえ、考えが甘かった。
「心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした……」
「これから気を付けてくれればそれでいいよ。あとは……今日のことは情報がまとまってから話そう。それからオリオン・シュベーフェルの予言についてだけど、これは明日、婚約発表の件で母上がこちらに来て下さるそうだから、その時に一緒に話そう」
「分かりました」
「今日は食事を取ったら、そのまま休むこと。いい?」
「はい」
「うん。いい子だね」
イース様が私の頭を撫でる。
心配をかけてしまったのだもの、今日は言うことを聞くことにしましょう。
本当は、ラックと話をしたかったのだけど……、一応、呼びかけるくらいはしようかしら。
反応が無ければラックも私みたいに魔力を使った事で眠っているということでしょうし。
むしろその可能性の方が高いかもしれないわ。確認だけはしておきましょう。
今回は事が事だし……深く眠っているかもしれない。
さて、深夜になった。
私は今、眠ったふりをしている。
というのも、今日は隣の部屋にスージーがいるのよ。心配したイース様が、何かあったらすぐに駆け付けられるようにって手配したそうなの。
隣の部屋では、いつものように話していては起きていることに気付かれるし、誰と会話しているのかと怪しまれてしまう。
どうせ今日は確認だけのつもりだし少しくらい……と思ったけれど、やっぱり気付かれる方が怖いわ。
どうしようかと悩み、……多分無理だろうと思いながらも、声に出さず、心の中で問いかけてみよう、と思い至った。
ラックは私の中に居るのだから、届くのではないかしら?
仮に無理でもこの方法は無理、と分かる。
――――ラック?聞こえるかしら?
心の中だけで、ラックに呼びかける。
すると。
『 聞こえているよ 』
ごく当たり前のように、ラックから反応が返ってきた。
この方法でも話し掛けることができるんだわ。
なら、この方が誰にも気付かれずにラックと話せるわね。夜以外でも。
今後はこの方法で話すようにしましょう。
――――起きていたのね。良かったわ。聞きたいことがあるのだけれど。
『 駄目 』
えっ。
『 レイオスも言っていただろう?休まなければ駄目だよ。無理に魔法を使おうとしたのだから。アリィ、君は君が思っているより危険なことをしたんだ 』
――――それを、聞きたいのだけれど。それも駄目なの?
『 ……仕方ない。また楽観視して無理をされたら困る。でも、それだけだよ?……まずは第一に、下地のできていない幼い身体で魔法を使おうとしたこと。これは誰にでも言えることだ。前の、17歳の君と今の7歳の君は全く違うってことをきちんと自覚してほしい。次に、君の属性が現在無属性であること。無属性は普通の属性とは根本的に違うんだ 』
――――根本的に、違う?どう違うというの?
『 他の属性の魔法は基本的に、実体がない。なんといえばいいのか……火や水は、触れない。そこに確かにあるけれど、物質ではない。だけど無属性は実体のある物体を作ることに特化というか、むしろそれしかできないというか。アリィの場合光と水の適性を持っているから……氷、が一番作りやすいと思う 』
――――氷……光はないの?
『 光は物質にはなりえない。強いて言えば光の魔石だけど――――もう寝ようね、アリィ。僕もそろそろ限界だ 』
「あっ」
……言うだけ言って、反応は返ってこなくなった。
限界、って、そうよね。ラックも疲れているわよね。
悪いことをしてしまったわ。
私ったら本当に、自分の事ばかり。
……知りたいことは知れたのだし、もう今日は休みましょう。
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