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第五部 番外編
腐女子とコミゲ、時々触手②
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ミモザはいったん心を落ち着けると、大きな瓶を抱えて森へ向かった。
ヴェルスング家の領地には自然豊かな広大な森が存在する。このヴェルスングの森で、気色悪いうねうね生物を瓶から出してみて、しばし様子を観察してみようと思ったのだ。
「いくらイゾルデ様(を経由した資本家)からの贈り物と申しましても、さすがにネフィリム様を危険な目に合わせるわけには参りません。もしも怪しい動きを見せたらその場で駆除してしまいましょう」
常に殺傷用短剣を3本忍ばせているミモザにとって、大旦那様への紅茶を用意するよりも殺生のほうが簡単だった。
森のおいしい空気を味わいながらミモザが向かったのは湖近くにある小さな洞穴である。
ここなら誰に見つかることもなく、うねうね生物を観察できる。
ミモザは固く締まった蓋を造作もなく開けると、瓶を逆さにした。
濃い緑色のうねうねがぼとりと落ちた。
「うーん……やっぱり気持ち悪いですわ……。人間の内臓みたい」
暗殺者っぽいことを呟きながらも目を逸らすことなく観察するミモザ。
うねうねはしばらくじっとしていたが、ゆっくりと動き出した。体を伸縮させながら進んでいく。どうやら洞穴から出ようとしているらしい。
「逃げるつもりでしょうか……。まあこの速さならすぐ追いつけますし少しくらいは猶予を差し上げましょう」
うねうねは洞穴の出口まで進むと、一度立ち止まり、近くに生えている草木の周辺を徘徊し始めた。
もしかしてこのうねうね、植物を食べるのだろうか。
するとうねうねは草花の中から1本の花を見つけ出した。触手のような部分を両手のように用い、花を摘む。
そして花を持つ触手はそのままに、器用に体を動かしてミモザの前に戻ってくると――――
その花をミモザに差し出した。
「!!!!!!!!!」
花はかわいらしい黄色のポピー。いかにも女性が喜びそうなものだった。
待て。
待って。
この触手……もしかしてメンタルがスパダリってコト!?
ミモザとうねうね触手の身長差は倍以上ある。触手を必死に伸ばしてプルプルさせながらもミモザに差し出す姿は正直言って健気ささえ感じさせる。
しかもミモザの髪の色に合わせてポピーをチョイスしたとなれば、外見は残念だがスパダリの要素を兼ね備える触手だと言わざるを得ない。
「これ……私へのプレゼントですか?」
うねうねは、空に向かって伸ばした触手を前方に折り曲げた。
これ「うん」って頷いてる!!!!!
意思疎通できる触手なんているの!?
ミモザは額に手を当ててその場に崩れ落ちた。
触手が花を投げ出して心配して駆け寄ってくる。
こんな……まさかこんなスパダリ触手がいるだなんて聞いてませんわ。
世界はアドベンチャーですわね……カルチャーショック受けまくり……
心配そうにわたわたしている触手にミモザは疲れた表情で語り掛けた。
「ふふ、あなたになら私の敬愛するネフィリム様をお任せしてもいいのかもしれません……。この世に2人といない黒髪黒目の美しい容姿……ちょっとこうイケナイ妄想をしてしまう中世的なお顔立ちと可愛らしいお声。そして何より、揺らぐことのないシグルズ様への愛……ああ、なんと尊いのでしょうか」
うねうねはじっとしてミモザの話を聞いていた。
「……こんなことを話しても仕方ありませんわね。さて、そろそろ屋敷に戻らなくては。あなたの処分はどうしましょうね……」
そういって立ち上がろうとしたとき、
「あ!ミモザじゃないか」
これ以上ないタイミングで黒髪黒目の推しの声が聞こえてきてしまったのである!
ミモザは慟哭した。
なんというBL的お約束展開……!
私の書く小説よりもコトがうまく運びすぎていっそずるいですネフィリム様……!!
「ネフィリム様!? なぜこんなところへいらしたのです!? しかもお一人で!?!?」
「え? いやあ、ベヌウがサニーベリーデラックスタルトを作ってくれるって言うから材料を採りに来たんだ」
えへへと笑う推しはとても可愛い。
わんぱくボーイみ御馳走様(?)。
ネフィリムは先日からベヌウと一緒にヴェルスング邸に滞在していた。
ヴェルスング家お抱えの料理人たちはベヌウの料理に感銘を受けており、有志一同が昨日から料理レッスンを受けている。
おそらくその流れでサニーベリーデラックスタルトを作ることになったのだろう。
ネフィリムはサニーベリーが大好物で、周囲の制止も聞かずに張り切って森に採集に来てしまったというのが真相だった。
「さあて張り切ってサニーベリーを取って……、ん?」
ミモザとネフィリムが同時に下を見る。
いつの間にかうねうね触手はネフィリムの右足に絡まっていた。
ヴェルスング家の領地には自然豊かな広大な森が存在する。このヴェルスングの森で、気色悪いうねうね生物を瓶から出してみて、しばし様子を観察してみようと思ったのだ。
「いくらイゾルデ様(を経由した資本家)からの贈り物と申しましても、さすがにネフィリム様を危険な目に合わせるわけには参りません。もしも怪しい動きを見せたらその場で駆除してしまいましょう」
常に殺傷用短剣を3本忍ばせているミモザにとって、大旦那様への紅茶を用意するよりも殺生のほうが簡単だった。
森のおいしい空気を味わいながらミモザが向かったのは湖近くにある小さな洞穴である。
ここなら誰に見つかることもなく、うねうね生物を観察できる。
ミモザは固く締まった蓋を造作もなく開けると、瓶を逆さにした。
濃い緑色のうねうねがぼとりと落ちた。
「うーん……やっぱり気持ち悪いですわ……。人間の内臓みたい」
暗殺者っぽいことを呟きながらも目を逸らすことなく観察するミモザ。
うねうねはしばらくじっとしていたが、ゆっくりと動き出した。体を伸縮させながら進んでいく。どうやら洞穴から出ようとしているらしい。
「逃げるつもりでしょうか……。まあこの速さならすぐ追いつけますし少しくらいは猶予を差し上げましょう」
うねうねは洞穴の出口まで進むと、一度立ち止まり、近くに生えている草木の周辺を徘徊し始めた。
もしかしてこのうねうね、植物を食べるのだろうか。
するとうねうねは草花の中から1本の花を見つけ出した。触手のような部分を両手のように用い、花を摘む。
そして花を持つ触手はそのままに、器用に体を動かしてミモザの前に戻ってくると――――
その花をミモザに差し出した。
「!!!!!!!!!」
花はかわいらしい黄色のポピー。いかにも女性が喜びそうなものだった。
待て。
待って。
この触手……もしかしてメンタルがスパダリってコト!?
ミモザとうねうね触手の身長差は倍以上ある。触手を必死に伸ばしてプルプルさせながらもミモザに差し出す姿は正直言って健気ささえ感じさせる。
しかもミモザの髪の色に合わせてポピーをチョイスしたとなれば、外見は残念だがスパダリの要素を兼ね備える触手だと言わざるを得ない。
「これ……私へのプレゼントですか?」
うねうねは、空に向かって伸ばした触手を前方に折り曲げた。
これ「うん」って頷いてる!!!!!
意思疎通できる触手なんているの!?
ミモザは額に手を当ててその場に崩れ落ちた。
触手が花を投げ出して心配して駆け寄ってくる。
こんな……まさかこんなスパダリ触手がいるだなんて聞いてませんわ。
世界はアドベンチャーですわね……カルチャーショック受けまくり……
心配そうにわたわたしている触手にミモザは疲れた表情で語り掛けた。
「ふふ、あなたになら私の敬愛するネフィリム様をお任せしてもいいのかもしれません……。この世に2人といない黒髪黒目の美しい容姿……ちょっとこうイケナイ妄想をしてしまう中世的なお顔立ちと可愛らしいお声。そして何より、揺らぐことのないシグルズ様への愛……ああ、なんと尊いのでしょうか」
うねうねはじっとしてミモザの話を聞いていた。
「……こんなことを話しても仕方ありませんわね。さて、そろそろ屋敷に戻らなくては。あなたの処分はどうしましょうね……」
そういって立ち上がろうとしたとき、
「あ!ミモザじゃないか」
これ以上ないタイミングで黒髪黒目の推しの声が聞こえてきてしまったのである!
ミモザは慟哭した。
なんというBL的お約束展開……!
私の書く小説よりもコトがうまく運びすぎていっそずるいですネフィリム様……!!
「ネフィリム様!? なぜこんなところへいらしたのです!? しかもお一人で!?!?」
「え? いやあ、ベヌウがサニーベリーデラックスタルトを作ってくれるって言うから材料を採りに来たんだ」
えへへと笑う推しはとても可愛い。
わんぱくボーイみ御馳走様(?)。
ネフィリムは先日からベヌウと一緒にヴェルスング邸に滞在していた。
ヴェルスング家お抱えの料理人たちはベヌウの料理に感銘を受けており、有志一同が昨日から料理レッスンを受けている。
おそらくその流れでサニーベリーデラックスタルトを作ることになったのだろう。
ネフィリムはサニーベリーが大好物で、周囲の制止も聞かずに張り切って森に採集に来てしまったというのが真相だった。
「さあて張り切ってサニーベリーを取って……、ん?」
ミモザとネフィリムが同時に下を見る。
いつの間にかうねうね触手はネフィリムの右足に絡まっていた。
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