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第五部 番外編

腐女子とコミゲ、時々触手①

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ギャグだし時系列は不明。本編とは違う世界線ですきっと。
BL用語がたくさん出てきますので適度にスルーして読んでください。
次か次々はR-18
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 オレンジ色の柔らかくウェーブした髪の毛を上下させてルンルンと歩く花のような少女。
 名前はミモザ。
 ミドガルズ大帝国の中でも騎士名家として名高いヴェルスング家の15歳のメイドである。

 普段は見ているだけで人を笑顔にするような元気さが取柄の彼女だが、今は少しだけ落ちこんでいる。
 陽光にたっぷりあてたシーツを両腕に抱えたその表情は、何かに悩んでいる様子だった。

「なんということでしょう。コミックゲートウェイまであと1カ月……。シグネフィの新刊ネタでこんなに詰まるとは思いませんでした」



 説明しよう。
 コミックゲートウェイ―――通称「コミゲ」

 大陸各地の創作者が集まり、愛を詰め込んだ同人誌やグッズを頒布するという創作者のお祭りである。
 今回のコミゲは1カ月後。帝国の首都・アースガルズで開催される。


 ミモザは雇い主でありヴェルスング家の当主シグルズと、隣国ニーベルンゲンの戦乙女であるネフィリムとのカップリングを推す腐女子だ。メイド業のかたわらシグネフィ本(R-18)の創作活動に日夜精を出していたのである。

 イケメンスパダリ騎士が、儚げな戦乙女を颯爽と救い出し愛を交わす「薔薇園のメロディ」(二段組50p/R-18)は会場納品分が数分で完売と大盛況だった。再版分も次のイベントで完売。
「ミモザさんのシグネフィ本最高でした!涙なしには読めませんでした。これからも応援してます」と熱い感想も複数いただき、ミモザは新進気鋭のシグネフィCP同人作家として新たな道を歩んでいたのだ。

「今回は私の創作活動1周年記念ですし、最近勢いのある“皇帝総受け”から人気を奪還するためにも気合いを入れたシグネフィ本を出したいと思っていましたが、どうもその気合いが空回りしてしまっているようですわね……」

 これだ!と思って書き始めてもうまくまとまらず途中で筆を置く。では代わりにどんなネタで行こうか……と思ってもなかなか思いつかない。

 ミモザは今、大絶賛スランプ中だった。

 このままコミゲに間に合わなかったらどうしよう……。


 シーツを畳みながらため息を吐くミモザ。
 そこへ、自分の名を呼ぶ低いイケメンボイスが届いた。

「珍しいな、ミモザが何かに悩んでいるなんて」

 苦笑しながら現れたのはミモザにとって至高の攻め―――違う、一生の忠誠を誓うと定めた若当主、シグルズだった。

「わっ、若様! こんなところに……どうされたのですか?」
「うん、ちょうど俺宛ての手紙の中にミモザ宛のものが混じっていたんでな」
「私宛て、ですか」

 貴族同士が手紙でやりとりをすることは珍しくはないが、まさかそのメイドに手紙が来るとは驚きだ。
 シグルズから受け取った手紙の宛名を確認すると「イゾルデ・カロルスフェルト」とあった。

「イゾルデ様……?」

 イゾルデは隣国グルヴェイグの資本家の娘である。もともとはシグルズのお見合い相手だったが、そのお見合いの話もすでに解消している。

「へえ、意外だな。ミモザはイゾルデと親交があるのか」
「いえ、そういうわけでは……あっ」


 そうだ。
 グルヴェイグに滞在中、話をした。

 シグルズとネフィリムはグルヴェイグで思いを交わし合った。ミモザもようやく推しがくっついたということで三日三晩の祭り状態だった。
 そして興奮してうっかりイゾルデに話してしまったのだ。

 シグネフィの尊さを―――。

 そのときに同人誌の話になって、イゾルデが「文学を嗜むのですか?ぜひ読ませてください」というので鞄に入っていたA5版のものを一冊贈呈した。その場で読み始めたイゾルデは読みながら「あらまあ」などと言っていたが最後まで真剣に目を通し………

「とても、よかったです」

 との感想を頂戴した。それ以上の言葉はいらない。同志の誕生である。
 2人は熱い握手を交わしたのだった。


 そんなことを思い出しながら、ミモザは手紙を読み始めた。



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 ミモザ様


 今度のコミゲに参加するとのこと、風の噂で耳にいたしました。
 実はコミゲには私の知り合いでもあるグルヴェイグの資本家・カエルダンが後援として出資しています。

 カエルダン氏に「推し作家が今度帝都で開かれるコミゲに参加する」と話したら、ぜひ支援の品を贈りたいとのことでした。

 カエルダン曰く、「これは推しカプの距離を縮めるラブイベントを発生させる珍しい品で、先日南方の小島から取り寄せました。無害なものですので安心してお使いください。どうかあなたの作品のネタ提供に役立ちますよう」とメッセージをいただきました。


 コミックゲートウェイでのミモザ様のご活躍をお祈り申し上げます。



 イゾルデ・カロルスフェルト

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 “推しカプの距離を縮めるラブイベントを発生させる”―――?

 ミモザには嫌な予感しかなかった。


 ◇


 後日。


「ミモちゃーん、荷物届いてるわよ」
「はあい、今行きます!」

 先輩メイドから声をかけられ、慌てて邸宅の裏口に向かった。
 ミモザ宛の小包はすぐに分かった。ひとつだけ明らかに段違いに質の良い紙で梱包されていたからだ。
 小包にかけられたリボンも異様にサラサラしててむっちゃキラキラしていた。

「資本家ってこういう無駄遣い好きですよねえ……本当に理解できない。さて、中身は……」


 ミモザの目は点になった。

 両手で抱えるほどの大きさの瓶の中に、うねうねと動く緑色のもの。


「気持ち悪いですわ!!!!!!!!」


 そのまま放り投げてダガーでめった刺しにしようかと思ったが、イゾルデ経由のものをそう簡単に捨ててしまうわけにもいかない。
 仕方がないので、瓶に貼ってある「使用方法」に目を通した。


「これは優しい触手です。人体には決して害を与えません。乱暴しないであげてください。

 ①くっついてほしい推しカプの「受け」氏の写真を見せてあげてください。その後は適当に森や洞窟に放ってください。勝手に大きくなります。
 ②数日したら触手を放った場所に「受け」氏を連れていってください。
 ③触手が「受け」氏を優しく抱きしめたらラブイベントのスタートです。あなたは「攻め」氏のところにいって「(受け氏の名前)が大変なことになっている。早く助けてほしい」と伝えてください。
 ④~愛が成就~

 グダグダしていた推しカプも、これでばっちりくっつくことでしょう」


 ミモザは驚愕した。

 こ、これはBLにありがちな触手から受けを救う攻め展開を現実のものにする……ってコト!?

 確かに、むふふ展開もありかつイケメンスパダリが格好良くお相手を救い出す触手展開はその後の“治療行為”までも想定した最高級フルコースとも言える鉄板ネタ……!

 カエルダンという資本家はそこまで分かって……!?
 一体何者……。


 ていうか、


「すごく怪しいんだけどこれ本当に安全です!?!?!?」


 瓶の中で怪しく蠢く触手を見て、ミモザは絶叫した。
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