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第五部 第二章 戦乙女の真意を知るまで

102話 わたしは、たぶん、ずっと②(※)

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性行為(作中で言ういわゆる“儀式”)の描写が入ります。
描写はそれほど多くはありませんが、内容的にはモブレに該当するので苦手な方はご注意ください。
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「あ、ああ、あ」


 ネフィリムの下にいる男は、ヘルゲほど豪奢ではないがエインヘリヤルの神官服を着ていた。下半身のまといは解いてある。性器はネフィリムのはらの中に飲み込まれ、ネフィリムが男の上で動くたびに性器の一部が露出した。

 そして台座の脇には男が2人。一人は変異しているのか足がなく、黒く膨張した体の一部が想像上の人魚のようにくっついている。もう一人は人の形をしているが、口から漏れ出る声が人の言葉を逸脱していた。

 人魚の男は必死にネフィリムの性器を咥え、もう一人の男は右胸にむしゃぶりついていた。


「んっ、ああ、やっ! 強い……やだぁ!」

 ネフィリムが涙を流しながら腰を振っている。
 美しい黒髪が無様に揺れた。



 目の前の光景を現実として認識できない。
 視界が真っ赤に染まる。


「ネ、フィリム」


 ネフィリムが、儀式に興じているのだ。
 俺の目の前で。



「君が私怨で振るったノートゥングの剣は、エインヘリヤルの民を傷つけ大地を割った。バナヘイムとの戦いに投入した変異体だって、のに人間数十人分が必要だったんだよ」

 目の前で複数の男とまぐわっている戦乙女ヴァルキリーの官能的な光景の中に、子どもの拗ねた声が混じって聞こえてくる。あまりにも非現実的だった。

「こっちとしては多大な損害を被ったわけ。その気になればバナルトゥスシティに変異体を飛ばしてもいいし、バナヘイムの人間を変異させたって構わない。でも彼が『何でもする』って言うから」


 10歳の子どもの姿をした神官が、戦乙女ヴァルキリーの喘ぐ台座に近づいていく。

 小部屋の手前に、ネフィリムのまぐわいを無表情で見つめている神官3人が座っていた。ヘルゲが通り過ぎる際に五体投地をする。


「あ、出る……! シグルズ……シグルズぅ……」



 ヘルゲが笑いながら行為中のネフィリムの頬に手を伸ばす。

 その瞬間、ネフィリムは甘い声を上げて達した。人魚の男が必死に口を動かして、放たれた液体を飲み込んでいた。






 シグルズは剣に手をかける。

「………やめさせろ、今すぐにだ」
「やめさせてどうするの」

 ヘルゲが心から疑問だと言うように目を見開く。

「彼は君の贖罪をしてくれているんだよ? 何も知らずにエインヘリヤルで過ごしていた無辜の民を、君は戦乙女ヴァルキリーへの執着心だけで殺害した。バナヘイムの軍人だって被害に遭っているはずだ」
「ネフィリムは俺のものだ。彼を害するというならお前も殺す」
「……あれだけ寝ていたのにまだ冷静になっていないんだね。頭も空っぽなのか、ジークフリード」



 徐々に思い出す。バナヘイム攻防戦での出来事を。


『私がお前の傍にいたらお前は死んでしまう。そんなのは嫌なんだ……! 』


 俺が剣を振るう直前、ネフィリムは泣いていた。

 なぜ泣く?
 俺が傍にいるのに。




「あ、んん……シグルズ、ねえ、気持ち、いい……?」

 名前を呼ばれてはっとする。
 台座の上のネフィリムは、一言も言葉を発しない男に顔を近づけて嬉しそうに話しかけていた。

「私は、あなたとひとつになれて、とても、きもちが、いい……よ」
「ネフィリム……?」

 なんだ、何を言っているんだ。


「幻覚を見ているんだ。戦乙女ヴァルキリーは今、君と行為を交わしていると思っている」


 ヘルゲの説明に、シグルズの呼吸が止まる。
 祭壇内に漂っている甘い香りにようやく合点がいく。カドモスの媚薬だ。

「君が寝ている間、多くの男女を相手にしてもらった。辛い中で行為に及ぶより楽しいほうがいいかなと思って。だって彼、本当に君のことが好きみたいだから」

 言葉が継げないシグルズを前に、ネフィリムは幻覚の中で笑っていた。
 多幸感に満ちた笑顔。

 見たくない。

「ねえ、シグルズ……この行為に幸せを見出してくれている?  なら、とても、嬉しい……」
「やめろ、ネフィリム。それは」

 俺じゃない。
 制止しようとしても、口が渇いてしまって言葉が喉にへばりつく。

 腰をくねらせて、必死に台座の上の男を気持ちよくさせようとするネフィリムは、時折喘ぎながらも必死に言葉を紡いでいた。



「わたしね、あなたに、わたし自身を見つけてもらった。それはあなたにとっては大したことがない出来事だったかも、しれ、ないけど、」

「わたしは、誰かを大切におもうきもちを、しることができて、」

「たとえあなたが誰であっても、」

「あなたが誰を好きで、どんな罪をおかしたと、しても」


「わたしは、たぶん、ずっと、あなたがすき」



 お前の下にいるそれは、もう人間から逸脱しかけている化け物で、
 全く別の男に投げかけられている言葉なのに、
 まるで自分に向けられた刃物のようで、


「ネフィ、リム」


 シグルズは自分の心が血を流していることを自覚した。

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