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第四章 魔剣 VS 妖刀

第33話 魔王の正体

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 長い廊下を渡り、大広間にたどり着く。そこには、扉のような壁で覆われていた。しかし、錠らしき部分は、遥か上空にある。

「扉の各所に、足場がありますね。ジャンプして渡って、上空の仕掛けを開けなければ」

「キャルさん、敵ですわ!」

 ナーガが、襲いかかってきた。黒いウミネコも、数匹出現する。

 それらを従えているのは、一つ目の大入道だ。フジツボやイソギンチャクが、表皮に寄生している。

『あいつは、海坊主だねぇ』

 このモンスターの、通り道だったのか。

「ちょうどいいですわ。トートさん、六番を」

 クレアさんから指示を受けて、トートが魔剣の六番である鉄塊を用意する。

「キャルさんはジャンプして、扉の仕掛けを操作してくださいまし。ザコは、ワタクシが引き受けますわ」

 ナーガの群れを、クレアさんが鉄塊で瞬殺した。

 わたしは足場をジャンプしつつ、ウミネコを火球で撃ち落とす。

 ウミネコも、氷の矢を飛ばしてきた。

 足場をジャンプしつつ、氷の矢をかわす。

「よっと!」

 カウンターで、火球を飛ばした。

 黒いウミネコが、黒焦げになる。

「ヤバ!」

 凍った足場で、わたしは足を滑らせた。一つ前の地点に、戻されてしまう。

 なるほど、ウミネコの役割がわかったぞ。優先的に倒さねば。

「うわっ! とっとっと!」

 ウミネコを撃墜していると、海坊主がわたしに殴りかかってきた。

「うわああ。足場まで引っ込んだ!」

 わたしは慌てて、来た道を引き返す。

 どうするか。あれでは、扉の仕掛けまで登れない。剣で扉を突いてみたが、刺さらなかった。やはり足場を登らないと、ダメなようである。

「あなたのお相手は、ワタクシですわ!」

 クレアさんが、海坊主の小指に五番の棍棒を叩きつけた。

 足の指を潰されて、海坊主がクレアさんを踏みつける。

「クレアさん!?」

 だが、海坊主の足が破裂した。

 クレアさんが、六番の両手斧を持って跳躍する。いつの間に、武器を変えたのか。

 海坊主が、ヒザをついた。

 クレアさんが、両手斧からレイピアを引き抜く。

 中腰状態な海坊主の目に、クレアさんはレイピアを突き刺した。

「これが、九番ですわ」

 六をひっくり返すと、九になる。

 わたしはクレアさんの魔剣を錬成する際、鉄塊にレイピアを仕込んでいたのだ。六番と九番は、対の魔剣なのである。

 扉にもたれながら、海坊主が事切れる。

「ちょっと通りますよっと」

 海坊主の亡骸を足場代わりにして、扉の仕掛けまで登っていった。

 今度はクレアさんが、ウミネコを弓で撃ち落としていく。

「開けますよ」

 敵が全滅したのを見計らい、わたしは扉の仕掛けを回す。

 巨大な扉が、ギギ、とゆっくり開く。

「ようこそ。私の神殿に」

 そこにいたのは、セイレーンだった。

「あっ」

 わたしは、そのセイレーンに見覚えが。片腕がない。

『アタシ様が、腕を切り落としたヤロウだね』

「そう。あのときに受けた屈辱は、忘れないわぁ」

 そういえば、言葉を話す個体は、コイツだけだったような。

「何者なの?」



「私? あなたたちの言葉を借りれば、【カリュブディス】っていうんだけど」



「魔王カリュブディス!?」

 なんと、街に攻めてきたのが、カリュブディス本人だったとは。

「といっても、妖刀を預けていた方の姉妹は、もうやられちゃったみたいだけど」

「姉妹?」

「そう。私たちは、二体で一つの魔王なの。私は偵察役。妹の方は、妖刀を守る」

 このセイレーンは、二体いるカリュブディスの一体だという。

「わたしたちは、この地に沈んでいたんだけど、逃げてきた妖刀【夜巡斗之神ヨグルトノカミ】が、この地に流れ着いたことで、復活できたのよ」

 東洋から来た悪徳商業船が嵐に巻き込まれて、妖刀が海底神殿付近に沈んだという。

「妖刀は巡り巡って、色んな人に買われていった。けれど全然使いこなせる相手がいなくて、退屈していたみたい。使い手も、みーんな死んじゃうんだもん。だから、魔王を選んだのかもね」

 ケラケラと笑いながら、妖刀の武勇伝を語る。

「でもさ、今はいい依代が見つかったみたい」

 まさか……。

「キャルさん、イヤな予感がしますわ」

 クレアさんが、拳を固めた。

 ヤトたちが危ない。ここを早く切り抜けて、ヤトたちと合流しないと。

「あなたたちを、止めますっ!」

「ンフフ。やってみなさいな。人間ごときに、なにができるかわからないけど」

 魔王カリュブディスが、帽子を脱ぐ。

「こっちは妖刀なんかなくたって、あんたたちくらい一捻りなのよねぇ」

 魔王らしく、傲慢な言葉を吐いた。とはいえ、彼女の話は本当だろう。一気に魔力が、膨れ上がった。

「このちぎれた腕の仇を、取らせてもらうわよ」

 魔王の切られた腕から、イソギンチャクの触手が生えてきた。うええ。

「キャルさん。行ってください。ヤトさんたちは、あの通路の向こうです」

 クレアさんが、魔王の後ろにある脇道を指差す。

「……クレアさん?」

 わたしは呼びかけて、一瞬ですべてを理解した。


 クレアさんは、怒っている。


「この怪物は、一〇番を叩き込むのに、ふさわしい相手ですわ」

 これは、手を貸すべきではない。

 初めて本気を出せる相手に巡り合った高ぶりと、人間の感情を踏みにじったことに対する激怒が、クレアさんの顔に混ざり合っていた。

「手出し無用。キャルさんは先を急いでくださいまし」
「はい!」

 わたしは秒で、判断する。大急ぎで、ヤトたちの救出に向かった。
 

                                        *
 

「逃さないわよ!」

 イソギンチャクの腕を伸ばし、魔王がキャルを撃破しようとする。

 だが、クリスは即座に四番の弓を射た。魔王の触手を、矢で切断する。

「やるもんね。人間も」

「あなたは、人間を舐めすぎです。誰かを守ろうとする時、人間は強くなる。あなただって、かつて人間を舐め腐ったせいで、負けたのでは?」

 クレアが挑発すると、さっきまで笑っていたカリュブディスが真顔になった。

「私の正体を、見せてあげる」

 魚だった下半身が、蛇のそれに変わる。身体も大きくなり、ナーガ以上の背丈に。

「どちらかがやられたら、片方に力が行くようになっているの。つまりあなたはたった一人で、私たち二人の魔王を相手にしなければならない!」

「そうですか。ちょうどいいハンデキャップですわ」

「なにい!?」

 あくまでも、クレアは負ける気がしない。キャラメ・F・ルージュが作った魔剣【地獄極楽右衛門ヘル・アンド・ヘブンがあるから。

 この剣は、本当によくできている。今の自分に、ちょうどいい武器を選択できるのだ。

「トートさん、五番を」

 今の自分は、頭にきている。

「まずはこのイキリ散らかしているあなたの頭を、一発ぶん殴ることにしますわ」

「イキリ散らかしているのは、どっちなのかしら?」

 魔王カリュブディスが、両方の腕を振り上げた。それだけで、嵐が巻き起こる。

「アハハ! 雷雨を存分に圧縮した竜巻に、身体を削られ続けなさい」

「一見棍棒にしか見えないこの五番が、どうして【魔剣】と称されているか、お教えいたしますわ」

 クレアは、棍棒をブン! っと振り回した。

 猛威を振るっていた竜巻が、一瞬にしてかき消える。

「なんだと?」

「この魔剣は、相手の武器や攻撃を、破壊するための武器なのですわ」

 攻撃を破壊するための魔剣として、この刃のない武器が作られた。

 しかし、魔王の攻撃さえも壊すとは。

 魔剣作りをキャラメ・ルージュに頼んで、本当によかった。

 学園に突き刺さっていた聖剣だったら、こんな面白い攻撃は、できなかっただろう。それこそ、オーソドックスな攻防しかできなかったに違いない。

「許さない。私の、この魔王カリュブディスをコケにしたことを、後悔しなさい」

「あなたこそ、人間を見下した罪は思いですわ。一〇番のサビにして差し上げます」

 トートがためらいながら、一〇番の剣を投げてよこした。

 その剣には、刃がない。

「アハハッ! バカね! 刀身のない剣で、どうやって戦うの?」

「まあ、あなたに見えなくて同然です。この魔剣の刀身は、バカには見えませんので」
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