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熱々の鉄板に乗った牛ロースステーキが、じゅうじゅうと音を立てる。
立ち上る湯気。ソースの焦げる香ばしい匂い。付け合わせの野菜は、料理に彩りと華やかさを与えてくれる。

「……うまそーだなっ」

ナイフとフォークを持ったハイジが、器用に肉を切り分ける。

「うん……」

こんなご馳走なんて、初めてで。夢みたいだなんて思ってしまう。
見よう見まねでナイフとフォークをそれぞれ持ち、ステーキ肉の端を一口サイズに切る。
柔らかくて、赤みのある断面。溢れる肉汁。フォークの先に刺したその肉片を、鉄板の上で少しだけ煮詰まったソースに絡めて口に含めば、頬が落ちる程……美味しくて。

「……」

心が震える。
幸福感を味わう程に襲う、妙な不安感。
僕なんかが、こんな贅沢な思いをしてしまっていいのだろうか……

それまでの僕は、学校以外でまともに食事なんて摂れなくて。見兼ねたおばあちゃんが、その度に余ったご飯で塩おにぎりを作ってくれた。それが美味しくて。泣きながら頬張ったのを、今でも覚えてる。
それから……この先困る事が無いようにって、まだ幼い僕に料理を教えてくれた。初めて作った卵焼きは焦げてしまったけど。おばあちゃんと一緒に食べたあの食事は、今までで一番楽しくて。……とても、幸せな時間だった。

「……」

あの時と同じ位、幸せな気がする。
少し前の僕からは、想像できなかった。こんな未来が待ってるなんて……
でも、だからこそ怖い。
突然亡くなったおばあちゃんのように、……ハイジを、失いたくない。

「美味しい……」

喉を通り抜ける、多幸感。
声に出してしまえば、それまで心の中で蟠っていた不安まで、溶けて無くなっていったような気がした。

「……だろ?」

得意げな眼で答えながら、屈託のない笑顔を見せるハイジ。

「ん……」

頷きながら、つられて微笑む。


隣の席が気にならない造りの店内。
遠くから微かに聞こえるBGM。適度な雑音。暖色系のライトが、二人だけの空間を演出する。
それに。ランタンから溢れる光が、更に雰囲気を醸し出していて……

「……なんか、デートみたい」
「みたい、じゃねぇ。……デートだ」

──カチャン、
ナイフとフォークを皿の端に置き、口に入れたものを飲み下したハイジが真剣な眼差しを向ける。

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