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「昨日、デートらしい事してやれなかったろ。……だから、その埋め合わせのつもりだ」
「……え」

突然の告白に、一瞬戸惑う。
でも確かに……昨日は其れ処じゃなかった。
平屋の家を出てからずっと、何処までも何処までも続く道をただ只管に走っていて……僕を、何処か遠くへ連れ去ってしまうのかと思った。

「……」

……そっか。
これが、デート。
意識した途端、トクンと心臓が甘く揺れる。

今まで……僕には無縁だと思っていた絵空事が、ハイジと一緒になった途端、現実を帯びてくる。
灰色だった人生に、色味を差してくれる。
何より、……僕だけを見つめてくれる。

「……」

いいのかな、本当に。
このままハイジと、幸せになって……

長年虐げられてきたせいか、なかなか肯定的に捉える事ができない。
瞬きもせずにハイジを見つめていれば、ランタンの温かみのある光を取り込んだハイジの瞳が、僕を優しく包み込むように見つめ返す。

「さくら……」
「……」
「今夜、抱いても……いいか?」

蜂蜜色に蕩けた、二つの瞳。
合わせた目が、離せない。

「………うん」







紫とピンク色の妖しい光を放つ、煌びやかなラブホテル。
シンプルなデザインながら、要所要所に可愛らしさを散りばめた内装。
白を基調とした壁に飾られた、大小様々な形をした額縁のオブジェ。金縁の大きな鏡。革張りのソファにテーブル。煌びやかなシャンデリア。白に淡いピンクの刺繍が施された、キングサイズのベッド。


「……ん、」

腰を抱き寄せられ、性急に重ねられる唇。
一度離れた後、鼻先三寸の距離を保ったまま、お互いの吐息を交差させる。

「……」

熱情を孕む双眸。
僕の頬を包む、ハイジの手。
何方どちらともなく唇が近付き、柔く触れる。そして直ぐ、押し付ける様に強く重ねられ、ハイジの舌先が僕の唇の門戸を叩く。高揚する気持ちを抑え切れないままその門戸を開ければ、するりと濡れそぼつ熱い舌が滑り込む。

「っ、はぁ……」

歯列の裏、顎裏、頬裏……
ハイジの舌先が僕の咥内を愛撫した後、逃げ惑う僕の舌を執拗に追い掛ける。
観念して舌先を差し出せば、その表面を滑ってハイジの舌先が奥へと向かう。


くちゅ、ちぅ……

「……っ、ふぁ」

咥内を掻き混ぜられ、昂る感情。
熱い舌が僕のものを弄りながら絡み付く。そのまま少し吸い上げられれば、官能的な水音が耳の奥で響き、ゾクゾクと背筋が粟立つ。


熱くて、蕩ける。
初めて会った時とは、違う。
こんなに熱くて、貪るようなキスじゃなかった。

……優しくて、温かい。

ハイジの背後に手を回し、腰の辺りをきゅっと掴む。


「……我慢、出来ねぇ」

唇が離れ、切羽詰まった息を吐くハイジが、間近で僕を見つめる。

「ベッド、行こうぜ」


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