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第3部 第1章 魔王の技術 -武装工房車-

第150話 凄い機能があるなら、早く見せてくれないか

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「甘く見るなよ、おれたちの技術の結晶を!」

 武装工房車は敵の攻撃を無傷で耐えきった。今度はこちらの番だ。

「ショウ、反撃する?」

「ああ、ノエル。せっかくだ。仮説を試そう!」

「オッケーイ」

 操縦席の傍らにある、魔力を増幅する魔導器の前でノエルが構える。

 わずかな集中ののち、ノエルが魔法を発動させた。

 増幅された魔法は、武装工房車の大砲から発射され、敵の装甲車へ直撃する。

 直後、装甲車の中で、金属が弾ける音がした。

「なんだ!? なんの音だ、どうした!?」

「こ、壊れ! 機構が壊れてしまったんです!? なんで!? もう動けません!」

「大砲はどうだ!? もう一発叩き込め!」

「ダメです! そちらの機構も動きません!」

「なんだと!?」

 兵士たちは慌てふためき、わめき合っている。

 その様子をおれたちは武装工房車の中から眺める。

「おー! 上手くいったみたい!」

「やったね。やっぱり思ったとおりだったんだ」

 おれたちは魔王軍が使う装甲車も、モリアス鋼を使っていると考えていた。となれば弱点は、こちらのモリアス車と同じだろう、と。

 モリアス車は、搭載した魔力石から魔力を受けて駆動する。不必要なときには魔力の供給をカットする機構や、流れる魔力量を調節して走行速度を変える機構がある。

 だが、外部から強力な魔力を与えると、それらの機構を無視してモリアス鋼に直接作用してしまう。本来動いてはいけないときにモリアス鋼が縮む。想定以上に。すると駆動部品はその負荷に耐えきれず壊れてしまうのだ。

 ノエルの放った魔法は、強力な魔力を供給するだけのもの。これで壊れたということは、おれたちの仮説は正しかったというわけだ。

 やがて装甲車を諦めたのか、中から数名の兵士が降りてくる。

「く、くそ! こうなったら全員で取り付け! やつらの車を奪ってしまえ!」

「来るぞ、ショウ。出るか?」

「しょうがない。蹴散らしちゃおう」

 おれとアリシアは頷き合い、素早く武具を身につける。

「ソフィア、おれたちが出たら後退するんだ。万が一乗り込まれたら面倒だからね」

「はい。ノエルさんがいてくれるので、大丈夫だとは思いますが」

「念のためだよ。よろしく」

 言って、おれとアリシアは武装工房車から飛び降りる。武装工房車は、指示通り後進していく。

 兵士たちがおれたちを取り囲む。

「降りてきたか、バカめ! 俺たちに、たったふたりで敵うと思うのか!?」

「いや、君たち全部で六人しかいないじゃないか。大した数じゃない」

「なんだと!?」

 いきりたつ兵士に、アリシアも肩をすくめて苦笑する。

「メイクリエの騎士や、スートリアの勇者の強さを知らないのか」

「まあおれは勇者だし、その中でも弱いほうだったけど」

「知らんのはお前たちのほうだ! 俺たちの鎧は魔王様謹製だぞ、どれほどの力があるか知るまい!」

 言っている間に、おれとアリシアはそれぞれ手近にいた兵士の顔面を殴り、失神させてしまっていた。残りはもう四人。

「え、なにか凄い機能があるなら、早く見せてくれないか」

 おれは興味が勝り、攻撃の手を緩める。一方、アリシアは構わず、さらにふたりを殴り倒していた。

「こ、この! 舐めるな!」

 隊長と思わしきその兵士は、一瞬の間のあと、目にも止まらぬ速度でおれに突進してきた。回避しきれず、おれは隊長に捕まってしまう。

 その勢いはどんどん加速していく。やがて勢いの角度が上方へ変わり、急激に上昇していく。

「空を飛んでる!? 凄いな! 君の鎧の機能かい!?」

「そうだ! 叩き落してやる! 惨めに潰れて死ねぇ!」

「そうはいかない。落ちるなら一緒に来てもらう!」

 おれは逆に、左手で相手の腕をしっかり捕まえる。そして右手の槍を手の中で反転。石突を隊長の鎧に押し当てる。

 すると推力が失われ、上昇は緩やかになり、すぐ落下し始める。

「うああ!? なにをしたなにをしたなにをした!?」

 混乱し、空中で暴れる隊長。おれはその動きを押さえ、石突を当て続ける。

 実を言えば、敵の鎧に特殊な能力が備わっていることは事前に情報を得ていた。おそらく射出成形インジェクションで量産された魔力回路だ。装着者自身の魔力で作動するタイプだろう。

 だから、おれたちは対抗手段を武器に仕込んでおいた。武装工房車での移動中に。

 それが、おれの槍の石突に刻まれた魔力回路だ。魔力石は付いていないし、たとえ付いていても単体ではなんの効果も発揮しない。

 だが、石突を他の魔力回路に接触させることで、強引にこちらの回路に繋げることができる。その効果は、魔力の遮断。

 つまり、触れている魔力回路の効果を無効化してしまえるのだ。

 地上が近づいてくる。おれは石突を、相手の鎧から離す。

 魔力回路が復活し、推力が戻る。

「直った!?」

 隊長は姿勢を整え、推力を上方へ向け、落下速度を減速させる。

 地上ギリギリで上昇に転じるが、その瞬間、おれは隊長の顔面をぶっ叩いた。

 隊長が失神したことで魔力供給が途絶え、鎧の推力は再び失われる。隊長は大の字で地面に放り出された。おれはその近くに着地する。

 見れば、アリシアは残りの兵士もすでに殴り倒していた。他の兵士は鎧の魔力回路を作動させる暇もなかったのだろう。

「ショウ、無事だったか」

「まあね。冒険者時代に大型の鳥の魔物と何度も戦った経験が活きたよ」

「兵士は大したことなかったが、装備はさすが魔王といったところだったな」

「はい。さっそく検分しましょう」

「って、ソフィア? いつの間に?」

 武装装甲車で後方へ下がったはずのソフィアが、なぜかもうすでにいて、隊長の鎧を剥がし始めている。

「おふたりが勝つのはわかっていましたら。さあ、お楽しみの時間ですよ?」

 おれは思わず笑ってしまう。

「そうだね。魔王の技術、見せてもらっちゃおう」
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