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45話 心の声 2
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~那乃視点~
「どうして……来たの」
わたしのバカ……なんで一瞬でも蓮君だと思っちゃったの……それに、こんな言い方じゃ瑠魅ちゃんも気を悪くしちゃう。
あの場で逃げ出したわたしが悪いのに……。
今のわたしはたぶん最低だ。心のどこかでずっと瑠魅ちゃんの事を憎んで妬んじゃってる。
「隣、行っても良い?」
「………うん」
わたしは顔を俯せたままどうしようも出来なかった。あの一瞬だけしか顔を上げられなかった。
瑠魅ちゃんの顔が見られない。とても気まずい。
「那乃ちゃん……さっきは本当にごめんなさい」
「なんで……謝るの?」
「深く、傷付けたから」
いつも冷静な瑠魅ちゃんの声が初めて震えていた。わたし達はあまり長い時間一緒に居たわけじゃないし、瑠魅ちゃんについて知ってることはきっと少ない。
でも、少なくとも……わたしが知る中でこんな瑠魅ちゃん、初めて見た。
「…………」
「…………」
そこからは誰も何も喋らない沈黙が続いた。わたしは何をどんな顔をして話せば良いか分からなかった。今のわたしは、瑠魅ちゃんに対して少なからず悪い感情を持ってしまっている。
こんな状態のまま話せばきっとまたさっきみたいになると思う。
「私は……」
この沈黙を破るように、瑠魅ちゃんの凛として透き通った声が隣から聞こえてきた。
「………」
「私は、蓮翔のことが好き。短いようで長い時間の中で沢山の事を共有したから」
「………」
その言葉でわたしの中に対抗心のような嫉妬のようなものが生まれた。今すぐにでもそれを言ってしまいたかった。わたしの方が蓮君と沢山の時間を共有してきたこと、瑠魅ちゃんの知らない蓮君の事を知ってること、蓮君の昔話のこと……。沢山の事を言いたかった。
そしてまたわたしは自分の事を性格が悪いと思う。こんなことを言っても何にもならないのは知ってるのに……どうしても考えてしまう、言ってしまいたい欲が出る。
でも、わたしはグッと堪えた。この欲を全て飲み込んで沈黙を貫いた。わたしはこれ以上間違えたくない。これ以上瑠魅ちゃんに嫌いになって欲しくない、嫌いになりたくないから……。
「那乃ちゃん、私の事……どう思う?泥棒猫だと思う?」
「…………」
「私はそう思うよ。自分だってこんなぽっと出の人間に自分の好きな人を取られたらムカつくから」
「…………」
「本当は蓮翔が来るはずだったの。でも、自分の役目じゃないって言っていたの」
…………やっぱり蓮君はずるい。いつもそうだった。わたしの傍に居て欲しい時にはいつも居ないくせして……本当に近くに居て欲しいと思う時はいつも傍に居てくれる。
もし、今瑠魅ちゃんではなく蓮君が来ていたら……きっとわたしは蓮君に依存してしまう。わたしはそれが一番怖い。蓮君のことは好き。でも、蓮君に迷惑は極力掛けたくないから。
とても面倒くさい女だって思う。ホントに……。
「これだけは伝えたいの。私は蓮翔が好きだけど、蓮翔と付き合える資格は無い。私じゃ蓮翔を幸せに出来ないから……」
「………そんなの、ダメだよ」
初めて声が出た。震えた声で、小さくか細い声で、もしかしら届いてないかもしれない。
「瑠魅ちゃん、とっても悲しそう」
「っ……!」
「はっきり言ってね、わたし分かんないの。瑠魅ちゃんに対する感情がどんなものなのか」
前までは気にしてなかった。確かに瑠魅ちゃんは蓮君の傍に居る女の子の一人だった。でも、それだけだった。いつものように深く関わらなかった。知ろうともしなかった。ある程度仲良くなれれば良いくらいに思ってた。
もしこれが冬華なら変わっていた。もっとわたしの感情をぶつけられた。でも、瑠魅ちゃんは……ただ話して、ただ校内を一緒に行動するだけの友達。深くも浅くもない位置。
だから分からない。瑠魅ちゃんへの接し方が。
なんで今になってこんな事を考えるんだろう……。
「一人になりたいよね。私が居ても迷惑、だよね?」
「……………ないよ」
「えっ?」
「……迷惑、じゃないよ。わたし、もっと瑠魅ちゃんの事が知りたい。そしてわたしのことも瑠魅ちゃんに知ってもらいたい」
「那乃ちゃん……」
わたしはまだ瑠魅ちゃんがなんであんな事を言ったのか分からない。
それに、少なからず瑠魅ちゃんのことを妬んでいる。この事実も結局は変わらない。
でも、全部を否定するのは違うと思った。わたしは瑠魅ちゃんの事を何も知らない。もしかしら、あの発言にも、その事実にも何かしらの事情があるのかもしれない。
わたしはもう間違いたくない。それに、わたしはまだ縋りたいから……二人が理由もなく……一緒に暮らしている訳では無い、という希望に。
「どうして……来たの」
わたしのバカ……なんで一瞬でも蓮君だと思っちゃったの……それに、こんな言い方じゃ瑠魅ちゃんも気を悪くしちゃう。
あの場で逃げ出したわたしが悪いのに……。
今のわたしはたぶん最低だ。心のどこかでずっと瑠魅ちゃんの事を憎んで妬んじゃってる。
「隣、行っても良い?」
「………うん」
わたしは顔を俯せたままどうしようも出来なかった。あの一瞬だけしか顔を上げられなかった。
瑠魅ちゃんの顔が見られない。とても気まずい。
「那乃ちゃん……さっきは本当にごめんなさい」
「なんで……謝るの?」
「深く、傷付けたから」
いつも冷静な瑠魅ちゃんの声が初めて震えていた。わたし達はあまり長い時間一緒に居たわけじゃないし、瑠魅ちゃんについて知ってることはきっと少ない。
でも、少なくとも……わたしが知る中でこんな瑠魅ちゃん、初めて見た。
「…………」
「…………」
そこからは誰も何も喋らない沈黙が続いた。わたしは何をどんな顔をして話せば良いか分からなかった。今のわたしは、瑠魅ちゃんに対して少なからず悪い感情を持ってしまっている。
こんな状態のまま話せばきっとまたさっきみたいになると思う。
「私は……」
この沈黙を破るように、瑠魅ちゃんの凛として透き通った声が隣から聞こえてきた。
「………」
「私は、蓮翔のことが好き。短いようで長い時間の中で沢山の事を共有したから」
「………」
その言葉でわたしの中に対抗心のような嫉妬のようなものが生まれた。今すぐにでもそれを言ってしまいたかった。わたしの方が蓮君と沢山の時間を共有してきたこと、瑠魅ちゃんの知らない蓮君の事を知ってること、蓮君の昔話のこと……。沢山の事を言いたかった。
そしてまたわたしは自分の事を性格が悪いと思う。こんなことを言っても何にもならないのは知ってるのに……どうしても考えてしまう、言ってしまいたい欲が出る。
でも、わたしはグッと堪えた。この欲を全て飲み込んで沈黙を貫いた。わたしはこれ以上間違えたくない。これ以上瑠魅ちゃんに嫌いになって欲しくない、嫌いになりたくないから……。
「那乃ちゃん、私の事……どう思う?泥棒猫だと思う?」
「…………」
「私はそう思うよ。自分だってこんなぽっと出の人間に自分の好きな人を取られたらムカつくから」
「…………」
「本当は蓮翔が来るはずだったの。でも、自分の役目じゃないって言っていたの」
…………やっぱり蓮君はずるい。いつもそうだった。わたしの傍に居て欲しい時にはいつも居ないくせして……本当に近くに居て欲しいと思う時はいつも傍に居てくれる。
もし、今瑠魅ちゃんではなく蓮君が来ていたら……きっとわたしは蓮君に依存してしまう。わたしはそれが一番怖い。蓮君のことは好き。でも、蓮君に迷惑は極力掛けたくないから。
とても面倒くさい女だって思う。ホントに……。
「これだけは伝えたいの。私は蓮翔が好きだけど、蓮翔と付き合える資格は無い。私じゃ蓮翔を幸せに出来ないから……」
「………そんなの、ダメだよ」
初めて声が出た。震えた声で、小さくか細い声で、もしかしら届いてないかもしれない。
「瑠魅ちゃん、とっても悲しそう」
「っ……!」
「はっきり言ってね、わたし分かんないの。瑠魅ちゃんに対する感情がどんなものなのか」
前までは気にしてなかった。確かに瑠魅ちゃんは蓮君の傍に居る女の子の一人だった。でも、それだけだった。いつものように深く関わらなかった。知ろうともしなかった。ある程度仲良くなれれば良いくらいに思ってた。
もしこれが冬華なら変わっていた。もっとわたしの感情をぶつけられた。でも、瑠魅ちゃんは……ただ話して、ただ校内を一緒に行動するだけの友達。深くも浅くもない位置。
だから分からない。瑠魅ちゃんへの接し方が。
なんで今になってこんな事を考えるんだろう……。
「一人になりたいよね。私が居ても迷惑、だよね?」
「……………ないよ」
「えっ?」
「……迷惑、じゃないよ。わたし、もっと瑠魅ちゃんの事が知りたい。そしてわたしのことも瑠魅ちゃんに知ってもらいたい」
「那乃ちゃん……」
わたしはまだ瑠魅ちゃんがなんであんな事を言ったのか分からない。
それに、少なからず瑠魅ちゃんのことを妬んでいる。この事実も結局は変わらない。
でも、全部を否定するのは違うと思った。わたしは瑠魅ちゃんの事を何も知らない。もしかしら、あの発言にも、その事実にも何かしらの事情があるのかもしれない。
わたしはもう間違いたくない。それに、わたしはまだ縋りたいから……二人が理由もなく……一緒に暮らしている訳では無い、という希望に。
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