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第二十一話〜姉リリアナ〜
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第二十一話~姉リリアナ~
「お父様!これはどういうことですの?」
アスタリオ島国バーミリオン公爵家。その広大な屋敷は今、手入れも行き届かず荒れ果てていた。庭木は枯れ、美しかった薔薇園は見る影もない。屋敷のそこかしこには埃がたまり、それを掃除するはずの使用人もほとんど残っていなかった。
「もうお金が無いなんてどういうこと?ちゃんと説明してくださいませ!」
公爵の執務室では渋顔のバーミリオン公爵に息子のリチャード、そして娘のリリアナが詰め寄っていた。
「あのお金があれば冬を越せると仰っておりましたでしょ!なのにお金がもう無いなんてどういうことですの!」
私達の質問にお父様は答えてくださいません。しかし金庫にお金がないことは事実です。
あのお金はリコリスが送ってきた織物や宝飾品を売ったお金です。この冬を越すためには絶対に必要な物ですのに!
「父上、まだあの女と続いているのですか?もう会うのはお止めくださいと言っているじゃありませんか!」
お兄様が言っているのはお父様の妾のことです。お父様にはお母様がご存命の頃から何人もの妾がおりました。まさかこんな状況になっても会っていたなんて。
「どうするのですか?このままでは冬の備えができません。年を越す前に我々は餓死してしまいます!また領民から税を徴収しますか?」
「ダメだ!それだけはならん!そんなことをすればまた貴族税が課される!」
貴族税とは、ドラガニアの属国になってから新たに設けられた税金のことです。
ドラガニアからやってきた領主はこの秋の税金を徴収してすぐに内政調査という調査を行ないました。それぞれの領民に調査という名の聞き込みを行い、税の徴収や暮らしぶりについて細かく評価をしたのです。
領民に慕われ、自分の家財や宝飾品を犠牲にしても領民の税を賄った貴族にはこの貴族税は課されませんでした。逆に領民への税を増やし、民の生活を顧みない貴族たちには多額の貴族税が課されたのです。
我がバーミリオン公爵家は、後者でした。
亡くなったお母様の宝飾品を売っても足りず、使用人たちを解雇してようやく払った税金です。これ以上払ったら私達は生きていけません。
「ならどうするのですか?!お父様は私達よりも妾のほうが大切なのですか?」
「そういうお前はどうなんだ!なんだそのドレスは!また新しい服を買ったのだろう!我が家のどこにそんな余裕がある!」
「こ、これは…城での茶会のために作ったのです!必要な物でしょう?」
私は先日行われた城での茶会を思い出し、下唇を噛みしめた。
領主の名のもとに開かれた茶会には、国中の貴族たちが集まっていた。その場で我々バーミリオン家を見る目が今までとは明らかに違っていた。
貴族たちは私達を嘲笑い、その目には軽蔑の色が宿っていた。領民を蔑ろにし、重い貴族税を課せられた私達は笑い者にされたのです。今まで私達に媚を売っていた貴族たちも手のひらを返したように寄ってこなくなりました。
「ふん、あんな茶会のためにドレスなんて作らせるべきではなかったな。」
お兄様には来年結婚するはずの婚約者がおりました。しかし先日そのお相手の家から婚約破棄したいという申し出があり、渋々承諾したところです。我々は貴族の恥というレッテルを貼られたのですわ。
そのせいでひっきりなしに来ていた私への縁談はぴたりと無くなりました。
「全部、全部。ドラガニアの蛮族のせいですわ!アイツらさえいなければ!」
「待てリリアナ。私は今ドラガニアに書状を送っている。」
「え?どうしてそんなことをするのです?」
あの不細工な妹は私達に一度贈り物をしてきたきり連絡が来ることはなく、何度も手紙で金品を送れと催促しましたが返事は帰ってきませんでした。
「リリアナ。おかしいと思わないか?あの醜いリコリスが気に入られ、美しいお前が気に入られないなんてあるわけがない。
あの将軍は戦場の鬼と呼ばれている化け物だそうじゃないか。化け物に選ばれないなんて当然のことだろう?
リリアナ、一緒にドラガニアへ行こう。そして向こうで成り上がるんだ!お前の美しさがあれば蛮族なんて簡単に手懐けられるぞ!」
リコリスの送ってきた宝飾品はこの国では見た事もないほど豪華な物ばかりでした。将軍と呼ばれる化け物でさえあんなに金持ちなら、他の貴族もさぞ裕福なのでしょう。
「えぇお父様!そのとおりだわ!ドラガニアの王族だって私をひと目見れば気にいるに決まっているわ!」
あの醜い妹が幸せになって、私が幸せになれないなんてあり得ないもの!
ドラガニアには蛮族だけでなく、他国からもたくさんの民族がやってくるそうよ?あぁどうしましょう。私に見合う麗しい殿方はいらっしゃるかしら。
そうしている間に、ドラガニアから我々を歓迎するという旨の書状が届いた。
ただし、公爵であるお父様と私の二人で来いとのこと。お兄様に領地での仕事を任せ、私達は意気揚々と船に乗り込んだのです。
「お父様!これはどういうことですの?」
アスタリオ島国バーミリオン公爵家。その広大な屋敷は今、手入れも行き届かず荒れ果てていた。庭木は枯れ、美しかった薔薇園は見る影もない。屋敷のそこかしこには埃がたまり、それを掃除するはずの使用人もほとんど残っていなかった。
「もうお金が無いなんてどういうこと?ちゃんと説明してくださいませ!」
公爵の執務室では渋顔のバーミリオン公爵に息子のリチャード、そして娘のリリアナが詰め寄っていた。
「あのお金があれば冬を越せると仰っておりましたでしょ!なのにお金がもう無いなんてどういうことですの!」
私達の質問にお父様は答えてくださいません。しかし金庫にお金がないことは事実です。
あのお金はリコリスが送ってきた織物や宝飾品を売ったお金です。この冬を越すためには絶対に必要な物ですのに!
「父上、まだあの女と続いているのですか?もう会うのはお止めくださいと言っているじゃありませんか!」
お兄様が言っているのはお父様の妾のことです。お父様にはお母様がご存命の頃から何人もの妾がおりました。まさかこんな状況になっても会っていたなんて。
「どうするのですか?このままでは冬の備えができません。年を越す前に我々は餓死してしまいます!また領民から税を徴収しますか?」
「ダメだ!それだけはならん!そんなことをすればまた貴族税が課される!」
貴族税とは、ドラガニアの属国になってから新たに設けられた税金のことです。
ドラガニアからやってきた領主はこの秋の税金を徴収してすぐに内政調査という調査を行ないました。それぞれの領民に調査という名の聞き込みを行い、税の徴収や暮らしぶりについて細かく評価をしたのです。
領民に慕われ、自分の家財や宝飾品を犠牲にしても領民の税を賄った貴族にはこの貴族税は課されませんでした。逆に領民への税を増やし、民の生活を顧みない貴族たちには多額の貴族税が課されたのです。
我がバーミリオン公爵家は、後者でした。
亡くなったお母様の宝飾品を売っても足りず、使用人たちを解雇してようやく払った税金です。これ以上払ったら私達は生きていけません。
「ならどうするのですか?!お父様は私達よりも妾のほうが大切なのですか?」
「そういうお前はどうなんだ!なんだそのドレスは!また新しい服を買ったのだろう!我が家のどこにそんな余裕がある!」
「こ、これは…城での茶会のために作ったのです!必要な物でしょう?」
私は先日行われた城での茶会を思い出し、下唇を噛みしめた。
領主の名のもとに開かれた茶会には、国中の貴族たちが集まっていた。その場で我々バーミリオン家を見る目が今までとは明らかに違っていた。
貴族たちは私達を嘲笑い、その目には軽蔑の色が宿っていた。領民を蔑ろにし、重い貴族税を課せられた私達は笑い者にされたのです。今まで私達に媚を売っていた貴族たちも手のひらを返したように寄ってこなくなりました。
「ふん、あんな茶会のためにドレスなんて作らせるべきではなかったな。」
お兄様には来年結婚するはずの婚約者がおりました。しかし先日そのお相手の家から婚約破棄したいという申し出があり、渋々承諾したところです。我々は貴族の恥というレッテルを貼られたのですわ。
そのせいでひっきりなしに来ていた私への縁談はぴたりと無くなりました。
「全部、全部。ドラガニアの蛮族のせいですわ!アイツらさえいなければ!」
「待てリリアナ。私は今ドラガニアに書状を送っている。」
「え?どうしてそんなことをするのです?」
あの不細工な妹は私達に一度贈り物をしてきたきり連絡が来ることはなく、何度も手紙で金品を送れと催促しましたが返事は帰ってきませんでした。
「リリアナ。おかしいと思わないか?あの醜いリコリスが気に入られ、美しいお前が気に入られないなんてあるわけがない。
あの将軍は戦場の鬼と呼ばれている化け物だそうじゃないか。化け物に選ばれないなんて当然のことだろう?
リリアナ、一緒にドラガニアへ行こう。そして向こうで成り上がるんだ!お前の美しさがあれば蛮族なんて簡単に手懐けられるぞ!」
リコリスの送ってきた宝飾品はこの国では見た事もないほど豪華な物ばかりでした。将軍と呼ばれる化け物でさえあんなに金持ちなら、他の貴族もさぞ裕福なのでしょう。
「えぇお父様!そのとおりだわ!ドラガニアの王族だって私をひと目見れば気にいるに決まっているわ!」
あの醜い妹が幸せになって、私が幸せになれないなんてあり得ないもの!
ドラガニアには蛮族だけでなく、他国からもたくさんの民族がやってくるそうよ?あぁどうしましょう。私に見合う麗しい殿方はいらっしゃるかしら。
そうしている間に、ドラガニアから我々を歓迎するという旨の書状が届いた。
ただし、公爵であるお父様と私の二人で来いとのこと。お兄様に領地での仕事を任せ、私達は意気揚々と船に乗り込んだのです。
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