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026 カラムシ
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朝食が終わると二手に分かれた。
俺のグループには沙耶と陽葵がつく。
凛はブタ君と海に残ることになった。
「凛、本当に来なくていいのかよー?」
沙耶が心配そうに尋ねる。
「大丈夫。これを作り上げたいから」
凛は朝に続いて手織機を作ろうとしている。
どうやら原始機をベースに独自のアレンジを加えるようだ。
原始機は最初期の手織機で、一般的な織機のイメージとは異なっている。
上下に寝かせた2本の棒に糸を固定して織るものなのだ。
仰々しいギミックが搭載された現代の織機と違って簡素である。
凛の作業速度は立派なもので、原始機自体は既に完成していた。
今は原始機を使った作業を快適にするための台を組み立てている。
これが彼女のアレンジ要素だ。
おそらく原始機の棒の1つを台に固定して作業するのだろう。
「ブタ君、凛のことは頼んだぜ」
「ブヒッ!」
俺は沙耶と陽葵を連れて森に向かった。
◇
森の中を一直線に進み、ある植物の群生地にやってきた。
「うひゃー、長いなぁ」
「1メートルはありそうだよ」
2人を驚かす植物の名はカラムシ。
真っ直ぐに伸びる長い茎が特徴的の多年草だ。
布団を作るための布――を作るための糸を作るのに使う。
「カラムシは色々な呼ばれ方をする植物で、有名な呼び名だと苧麻ってのがある。聞き覚えがあるんじゃないか?」
「いいや、全然」
「初耳だよー」
「そうか……」
沙耶が「苧麻ってなんだよ」と笑う。
どうやら「ちょま」という言葉の響き気に入ったようだ。
「俺が刈り取るから、2人は手分けして籠に詰めていってくれ」
「「了解!」」
俺達は竹の背負い籠を地面に置く。
「フンッ!」
手刀でカラムシを切断。
その際、意図的に根元を残しておく。
「どうして根元は切らないの?」と陽葵。
「切りにくいからっしょ! 単純に!」
「いや、違う。根元は繊維の質が悪いから残すんだ」
「そうなんだ! よく知ってるね、刹那君」
「繊維の質とかあるんだなー!」
怒濤の勢いでカラムシをカットする。
それが終わると、今度は運びやすいよう加工していく。
側枝を切り落とし、さらに茎も一部カットして長さを揃える。
綺麗に形を整えたら終了だ。
「重ッ! こんなにたくさん必要なのかよー!?」
「もっとあってもいいくらいだ」
「ひぇー」
沙耶は実に重そうな顔で籠を背負う。
籠の中ではカラムシがぎゅうぎゅう詰めにされている。
「カラムシから取った糸は何に使うの?」
陽葵が訊いてきた。
籠の重みが影響しているのか、何故か胸が揺れている。
全くもってけしからんボインちゃんだ。
「織って布にするんだ」
「布にして、それからどうなるの?」
「それは……凛だけが知っている」
布団を作っていることは言わないでおく。
陽葵の誕生日プレゼントだからだ。
とはいえ、この島で隠し通すことはできない。
凛の作業を見れば布団を作っていると気づく。
だから誕生日プレゼントということだけ伏せればいいようにも思う。
――が、その辺りのことは凛と相談してから決めるべきだ。
そんなわけで、今は最善手「分からない」で乗り切ることにした。
「作業はまだまだ残っている。川へ行こう」
話を切り上げ、籠を背負って移動を開始した。
◇
川に着いたら洗濯だ。
といっても、洗うのはカラムシである。
「刹那ー、こんな感じでオッケー?」
「おう、問題ないぞ。適当で問題ない」
「ほーい」
カラムシの洗い方に拘りなどない。
力を入れすぎて茎を折らないよう意識する程度。
「さて、戻るか」
洗い終わったら籠に戻してラフトに帰還だ。
と、思いきや。
「待って、せっかくだから見ていこうよ!」
沙耶が何やら言い出した。
「見ていくって?」
「ナマズだよ! あたしらのご馳走!」
「いい考えだ」
前に沙耶が釣り上げたナマズを指している。
今は泥抜き――竹筒に詰めて川に放置している最中だ。
竹筒の設置場所は現在地からそれほど離れていない。
なので沙耶の提案を快諾し、ナマズの確認に向かった。
「あった! あたしらのご馳走!」
川に浮かぶ竹筒に声を弾ませる沙耶。
「様子を確認してやろう」
俺は裸足になって川に入る。
竹筒に作った無数の穴の1つから様子を窺う。
ナマズは筒の中で大人しくしていた。
目を閉じてピクリとも動かない。
「もしかして死んでいるのか?」
だとすれば大変だ。
泥抜きの意味はなくなり、味が劣化してしまう。
「刹那、どんなもんよー?」
沙耶が川岸から尋ねてくる。
「眠っているのか死んでいるのか分からない」
「死んでいたらまずいじゃん!」
「だから確かめてみるよ」
穴の中に通せるような物がないかを探す。
残念ながら小枝や針、ワイヤー等は見つからない。
(わざわざ岸まで戻るのも面倒だし……)
川の中に転がっている小石を拾う。
それで竹筒をトントンと叩いてみた。
「おっ」
ナマズが目を開いた。
立派なヒゲをゆらゆらさせる。
「問題ない。生きている」
沙耶が「いいねー!」と笑みを浮かべた。
「泥抜きって明日には終わる?」
「おそらく終わるけど、念のために明後日まで待とう。このナマズは最高級のご馳走だからな。食べるなら最高の状態がいいだろ?」
「たしかに! それまでに調味料を増やしておかないとなぁ」
俺は岸に上がり、足を乾かしてから靴を履く。
寄り道を済ませたことだし、今度こそラフトへ戻るとしよう。
◇
「おかえり、みんな」
「そっちも順調か――って訊く必要もないな」
凛が「まぁね」と笑う。
彼女は既に手織機を作り終えていた。
つまり俺の糸を待っている状況だ。
「待たせて悪いな、サクッと用意するよ」
俺はベンチに腰を下ろし、足下に背負い籠を置く。
それからカラムシの茎を1本取り出して解説を始めた。
「糸の作り方は前にも説明したと思うが、カラムシも基本的には同じだ」
茎を裂いて繊維を取り出す。
カラムシの長い茎に相応しい真っ直ぐの繊維だ。
「それほど質に拘らないならこれを撚り合わせて完成だが、織物で使うような糸となればここからもう一手間加える」
取り出した繊維を専用の物干し竿に干す。
それを焚き火の近くに設置して乾燥させる。
「乾燥させてから撚り合わせることで、現代にも通用する立派な糸になる」
「「「おー」」」
「残りのカラムシからも同じ要領で糸を取り出していこう」
「私がやっておくよ、糸が手に入るまで暇だし」と凛。
「それならあたしも手伝うー! もう歩きたくなーい!」
沙耶が名乗りを上げた。
「じゃあ私も――」
と、続く陽葵を、「いや」と俺が止めた。
「陽葵は俺に付き合ってくれ。実は他にも必要なものがあるんだ。それも量が必要だから1人だと辛い」
「うん! いいよー!」
ニコッと微笑む陽葵。
そして何故か揺れる彼女のボインちゃん。
中に未知の生物でも詰まっていそうだ。
「じゃ、糸は頼んだぜ」
「任せて」
「いってらー!」
「ブヒーッ!」
立ち上がり、2人と1頭に背を向けて歩きだす。
「刹那君、何を採りに行くの?」
森に入ってしばらくすると陽葵が尋ねてきた。
さりげなく手を繋いでくる。
俺は陽葵の手をギュッと握ってから答えた。
「それは内緒だ。知らない方が感動できるぜ」
俺のグループには沙耶と陽葵がつく。
凛はブタ君と海に残ることになった。
「凛、本当に来なくていいのかよー?」
沙耶が心配そうに尋ねる。
「大丈夫。これを作り上げたいから」
凛は朝に続いて手織機を作ろうとしている。
どうやら原始機をベースに独自のアレンジを加えるようだ。
原始機は最初期の手織機で、一般的な織機のイメージとは異なっている。
上下に寝かせた2本の棒に糸を固定して織るものなのだ。
仰々しいギミックが搭載された現代の織機と違って簡素である。
凛の作業速度は立派なもので、原始機自体は既に完成していた。
今は原始機を使った作業を快適にするための台を組み立てている。
これが彼女のアレンジ要素だ。
おそらく原始機の棒の1つを台に固定して作業するのだろう。
「ブタ君、凛のことは頼んだぜ」
「ブヒッ!」
俺は沙耶と陽葵を連れて森に向かった。
◇
森の中を一直線に進み、ある植物の群生地にやってきた。
「うひゃー、長いなぁ」
「1メートルはありそうだよ」
2人を驚かす植物の名はカラムシ。
真っ直ぐに伸びる長い茎が特徴的の多年草だ。
布団を作るための布――を作るための糸を作るのに使う。
「カラムシは色々な呼ばれ方をする植物で、有名な呼び名だと苧麻ってのがある。聞き覚えがあるんじゃないか?」
「いいや、全然」
「初耳だよー」
「そうか……」
沙耶が「苧麻ってなんだよ」と笑う。
どうやら「ちょま」という言葉の響き気に入ったようだ。
「俺が刈り取るから、2人は手分けして籠に詰めていってくれ」
「「了解!」」
俺達は竹の背負い籠を地面に置く。
「フンッ!」
手刀でカラムシを切断。
その際、意図的に根元を残しておく。
「どうして根元は切らないの?」と陽葵。
「切りにくいからっしょ! 単純に!」
「いや、違う。根元は繊維の質が悪いから残すんだ」
「そうなんだ! よく知ってるね、刹那君」
「繊維の質とかあるんだなー!」
怒濤の勢いでカラムシをカットする。
それが終わると、今度は運びやすいよう加工していく。
側枝を切り落とし、さらに茎も一部カットして長さを揃える。
綺麗に形を整えたら終了だ。
「重ッ! こんなにたくさん必要なのかよー!?」
「もっとあってもいいくらいだ」
「ひぇー」
沙耶は実に重そうな顔で籠を背負う。
籠の中ではカラムシがぎゅうぎゅう詰めにされている。
「カラムシから取った糸は何に使うの?」
陽葵が訊いてきた。
籠の重みが影響しているのか、何故か胸が揺れている。
全くもってけしからんボインちゃんだ。
「織って布にするんだ」
「布にして、それからどうなるの?」
「それは……凛だけが知っている」
布団を作っていることは言わないでおく。
陽葵の誕生日プレゼントだからだ。
とはいえ、この島で隠し通すことはできない。
凛の作業を見れば布団を作っていると気づく。
だから誕生日プレゼントということだけ伏せればいいようにも思う。
――が、その辺りのことは凛と相談してから決めるべきだ。
そんなわけで、今は最善手「分からない」で乗り切ることにした。
「作業はまだまだ残っている。川へ行こう」
話を切り上げ、籠を背負って移動を開始した。
◇
川に着いたら洗濯だ。
といっても、洗うのはカラムシである。
「刹那ー、こんな感じでオッケー?」
「おう、問題ないぞ。適当で問題ない」
「ほーい」
カラムシの洗い方に拘りなどない。
力を入れすぎて茎を折らないよう意識する程度。
「さて、戻るか」
洗い終わったら籠に戻してラフトに帰還だ。
と、思いきや。
「待って、せっかくだから見ていこうよ!」
沙耶が何やら言い出した。
「見ていくって?」
「ナマズだよ! あたしらのご馳走!」
「いい考えだ」
前に沙耶が釣り上げたナマズを指している。
今は泥抜き――竹筒に詰めて川に放置している最中だ。
竹筒の設置場所は現在地からそれほど離れていない。
なので沙耶の提案を快諾し、ナマズの確認に向かった。
「あった! あたしらのご馳走!」
川に浮かぶ竹筒に声を弾ませる沙耶。
「様子を確認してやろう」
俺は裸足になって川に入る。
竹筒に作った無数の穴の1つから様子を窺う。
ナマズは筒の中で大人しくしていた。
目を閉じてピクリとも動かない。
「もしかして死んでいるのか?」
だとすれば大変だ。
泥抜きの意味はなくなり、味が劣化してしまう。
「刹那、どんなもんよー?」
沙耶が川岸から尋ねてくる。
「眠っているのか死んでいるのか分からない」
「死んでいたらまずいじゃん!」
「だから確かめてみるよ」
穴の中に通せるような物がないかを探す。
残念ながら小枝や針、ワイヤー等は見つからない。
(わざわざ岸まで戻るのも面倒だし……)
川の中に転がっている小石を拾う。
それで竹筒をトントンと叩いてみた。
「おっ」
ナマズが目を開いた。
立派なヒゲをゆらゆらさせる。
「問題ない。生きている」
沙耶が「いいねー!」と笑みを浮かべた。
「泥抜きって明日には終わる?」
「おそらく終わるけど、念のために明後日まで待とう。このナマズは最高級のご馳走だからな。食べるなら最高の状態がいいだろ?」
「たしかに! それまでに調味料を増やしておかないとなぁ」
俺は岸に上がり、足を乾かしてから靴を履く。
寄り道を済ませたことだし、今度こそラフトへ戻るとしよう。
◇
「おかえり、みんな」
「そっちも順調か――って訊く必要もないな」
凛が「まぁね」と笑う。
彼女は既に手織機を作り終えていた。
つまり俺の糸を待っている状況だ。
「待たせて悪いな、サクッと用意するよ」
俺はベンチに腰を下ろし、足下に背負い籠を置く。
それからカラムシの茎を1本取り出して解説を始めた。
「糸の作り方は前にも説明したと思うが、カラムシも基本的には同じだ」
茎を裂いて繊維を取り出す。
カラムシの長い茎に相応しい真っ直ぐの繊維だ。
「それほど質に拘らないならこれを撚り合わせて完成だが、織物で使うような糸となればここからもう一手間加える」
取り出した繊維を専用の物干し竿に干す。
それを焚き火の近くに設置して乾燥させる。
「乾燥させてから撚り合わせることで、現代にも通用する立派な糸になる」
「「「おー」」」
「残りのカラムシからも同じ要領で糸を取り出していこう」
「私がやっておくよ、糸が手に入るまで暇だし」と凛。
「それならあたしも手伝うー! もう歩きたくなーい!」
沙耶が名乗りを上げた。
「じゃあ私も――」
と、続く陽葵を、「いや」と俺が止めた。
「陽葵は俺に付き合ってくれ。実は他にも必要なものがあるんだ。それも量が必要だから1人だと辛い」
「うん! いいよー!」
ニコッと微笑む陽葵。
そして何故か揺れる彼女のボインちゃん。
中に未知の生物でも詰まっていそうだ。
「じゃ、糸は頼んだぜ」
「任せて」
「いってらー!」
「ブヒーッ!」
立ち上がり、2人と1頭に背を向けて歩きだす。
「刹那君、何を採りに行くの?」
森に入ってしばらくすると陽葵が尋ねてきた。
さりげなく手を繋いでくる。
俺は陽葵の手をギュッと握ってから答えた。
「それは内緒だ。知らない方が感動できるぜ」
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