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5.婚約者との対面(1)
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腹の立つことはあったものの、約一週間後には無事ダウンタイムも終わり顔の腫れや赤みが引いた。すると施術前よりもくすみのない内側から輝くような肌になりソユンにも褒められた。
そしてとうとう婚約者である御曹司と会う日になった。
その日は午後のティータイムに向こうが指定したホテルのラウンジでお茶をすることになっていた。約束の時間の30分前にミンジェとの予約を取り、先にホテル附近のカフェで待ち合わせる。先に着いて席で待っていると、窓から背の高いイケメンが歩いてくるのが見えた。
――ミンジェだ。やっぱり遠くから見てもスタイル良くて目を引くなぁ。
入店後店員と話している彼に向かって手を上げる。
「ミンジェ、こっちこっち!」
「あ、もう来てたんだ。待たせちゃったかな?」
「ううん、僕もさっき来たところ」
この日のミンジェは黒い襟付きシャツにグレーのパンツというスッキリキレイめな出で立ちだ。僕もホテルという場所を考えて白シャツに同色のジレ、リネンのスラックスを合わせていた。
「チカ、今日も綺麗だね。服も似合ってるよ」
「ありがとう。ミンジェもスタイルがいいからそういう服装だと見とれちゃいそう」
「今日は俺が先輩だろ? ヒョンって呼んで」
「わかりました、ヒョン」
韓国だと親しい目上の人に対する呼び方が男女で使い分けられている。男性が目上の男性に呼びかけるなら「ヒョン」、目上の女性に呼びかけるなら「ヌナ」。女性から目上の男性に呼びかける場合「オッパ」、目上の女性に呼びかけるなら「オンニ」となる。日本だと「お兄さん」とか「お姉さん」みたいな感じだろうか。日本だと身内以外にこういう言い方はしないと思うけど――儒教の思想が浸透している国柄で上下関係が厳しいのでこういう呼び方にバリエーションがあるのかもしれない。
「本番前に確認しておこう。まず僕たちはルームメイト」
「うん」
「ミンジェは――」
そう言うと彼が僕の目を覗き込んで首を横に振る。
「――じゃなくミンジェヒョンは、大学の先輩で、僕に対してかなり過保護なアルファ」
「うんうん」
「それで、僕がヒートのときにたまに相手もしてくれるけど付き合ってはいない」
これを聞いて彼が「ふふっ」と笑った。
「笑わないでよ。真剣なんだから」
「わかってる、ごめんねチカ。だって俺たちまだ会って二回目なのにそんな濃~い関係って設定だなんておかしくて」
「いいだろ。ミンジェ……ヒョンはいろんな人の彼氏役してきたんだからこれくらい軽いもんでしょ?」
「デートはしたことあるけど、こんな妙なシチュエーションは初めてだから楽しみでドキドキするよ」
「もう、面白がって。僕の人生かかってるんだよ!」
「たしかに。俺がうまくやれなかったら帰国してチカは御曹司のお嫁さんにならないといけないもんね」
「そう、イジュンに会えなくなっちゃう」
「でも日本公演だってあるんじゃないのか?」
「あるよ。でもこっちにいるのとは接する機会が全然ちがうし」
「ふーん。そんなに好きなんだね」
「好きだよ。そうだ、この間大事な写真を失くすところだったんだ」
僕はミンジェに大切な写真を出して見せた。この前思い切り握ってしまって、折れ目がついたから新しくプリントし直したんだよね。
「へぇ、アイドルってこんな仲良く写真まで撮ってくれるんだ」
「抽選で当たればね。でもいつもイジュンはこんなにサービス良くないんだ。この日は機嫌よかったのかも。この奇跡の一枚を外で見てたら風に飛ばされて」
その日会った失礼な日本人について僕はミンジェに話した。
「へえ、イジュンに似た人に会ったんだ」
「顔と声だけね! 中身は失礼な残念イケメンだよ」
「そう怒るなって。なあ、そろそろ時間じゃないか?」
「ん~、こっちにやる気ないってのを思い知らせたいから5分遅刻していくつもり」
「はは、徹底してるね。まあ大丈夫。俺はこういう演技慣れてるからチカは通訳に徹してくれればいいよ。俺がうまく話す。その御曹司がチカにふさわしい男か見極めてあげる」
「ミンジェヒョン、本当に過保護な先輩みたい」
僕がそう言うと彼は不敵な笑みを浮かべた。
「ヒョンに任せろ、チカ」
そしてとうとう婚約者である御曹司と会う日になった。
その日は午後のティータイムに向こうが指定したホテルのラウンジでお茶をすることになっていた。約束の時間の30分前にミンジェとの予約を取り、先にホテル附近のカフェで待ち合わせる。先に着いて席で待っていると、窓から背の高いイケメンが歩いてくるのが見えた。
――ミンジェだ。やっぱり遠くから見てもスタイル良くて目を引くなぁ。
入店後店員と話している彼に向かって手を上げる。
「ミンジェ、こっちこっち!」
「あ、もう来てたんだ。待たせちゃったかな?」
「ううん、僕もさっき来たところ」
この日のミンジェは黒い襟付きシャツにグレーのパンツというスッキリキレイめな出で立ちだ。僕もホテルという場所を考えて白シャツに同色のジレ、リネンのスラックスを合わせていた。
「チカ、今日も綺麗だね。服も似合ってるよ」
「ありがとう。ミンジェもスタイルがいいからそういう服装だと見とれちゃいそう」
「今日は俺が先輩だろ? ヒョンって呼んで」
「わかりました、ヒョン」
韓国だと親しい目上の人に対する呼び方が男女で使い分けられている。男性が目上の男性に呼びかけるなら「ヒョン」、目上の女性に呼びかけるなら「ヌナ」。女性から目上の男性に呼びかける場合「オッパ」、目上の女性に呼びかけるなら「オンニ」となる。日本だと「お兄さん」とか「お姉さん」みたいな感じだろうか。日本だと身内以外にこういう言い方はしないと思うけど――儒教の思想が浸透している国柄で上下関係が厳しいのでこういう呼び方にバリエーションがあるのかもしれない。
「本番前に確認しておこう。まず僕たちはルームメイト」
「うん」
「ミンジェは――」
そう言うと彼が僕の目を覗き込んで首を横に振る。
「――じゃなくミンジェヒョンは、大学の先輩で、僕に対してかなり過保護なアルファ」
「うんうん」
「それで、僕がヒートのときにたまに相手もしてくれるけど付き合ってはいない」
これを聞いて彼が「ふふっ」と笑った。
「笑わないでよ。真剣なんだから」
「わかってる、ごめんねチカ。だって俺たちまだ会って二回目なのにそんな濃~い関係って設定だなんておかしくて」
「いいだろ。ミンジェ……ヒョンはいろんな人の彼氏役してきたんだからこれくらい軽いもんでしょ?」
「デートはしたことあるけど、こんな妙なシチュエーションは初めてだから楽しみでドキドキするよ」
「もう、面白がって。僕の人生かかってるんだよ!」
「たしかに。俺がうまくやれなかったら帰国してチカは御曹司のお嫁さんにならないといけないもんね」
「そう、イジュンに会えなくなっちゃう」
「でも日本公演だってあるんじゃないのか?」
「あるよ。でもこっちにいるのとは接する機会が全然ちがうし」
「ふーん。そんなに好きなんだね」
「好きだよ。そうだ、この間大事な写真を失くすところだったんだ」
僕はミンジェに大切な写真を出して見せた。この前思い切り握ってしまって、折れ目がついたから新しくプリントし直したんだよね。
「へぇ、アイドルってこんな仲良く写真まで撮ってくれるんだ」
「抽選で当たればね。でもいつもイジュンはこんなにサービス良くないんだ。この日は機嫌よかったのかも。この奇跡の一枚を外で見てたら風に飛ばされて」
その日会った失礼な日本人について僕はミンジェに話した。
「へえ、イジュンに似た人に会ったんだ」
「顔と声だけね! 中身は失礼な残念イケメンだよ」
「そう怒るなって。なあ、そろそろ時間じゃないか?」
「ん~、こっちにやる気ないってのを思い知らせたいから5分遅刻していくつもり」
「はは、徹底してるね。まあ大丈夫。俺はこういう演技慣れてるからチカは通訳に徹してくれればいいよ。俺がうまく話す。その御曹司がチカにふさわしい男か見極めてあげる」
「ミンジェヒョン、本当に過保護な先輩みたい」
僕がそう言うと彼は不敵な笑みを浮かべた。
「ヒョンに任せろ、チカ」
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