上 下
5 / 22

5.婚約者との対面(1)

しおりを挟む
腹の立つことはあったものの、約一週間後には無事ダウンタイムも終わり顔の腫れや赤みが引いた。すると施術前よりもくすみのない内側から輝くような肌になりソユンにも褒められた。

そしてとうとう婚約者である御曹司と会う日になった。

その日は午後のティータイムに向こうが指定したホテルのラウンジでお茶をすることになっていた。約束の時間の30分前にミンジェとの予約を取り、先にホテル附近のカフェで待ち合わせる。先に着いて席で待っていると、窓から背の高いイケメンが歩いてくるのが見えた。

――ミンジェだ。やっぱり遠くから見てもスタイル良くて目を引くなぁ。

入店後店員と話している彼に向かって手を上げる。

「ミンジェ、こっちこっち!」
「あ、もう来てたんだ。待たせちゃったかな?」
「ううん、僕もさっき来たところ」

この日のミンジェは黒い襟付きシャツにグレーのパンツというスッキリキレイめな出で立ちだ。僕もホテルという場所を考えて白シャツに同色のジレ、リネンのスラックスを合わせていた。

「チカ、今日も綺麗だね。服も似合ってるよ」
「ありがとう。ミンジェもスタイルがいいからそういう服装だと見とれちゃいそう」
「今日は俺が先輩だろ? ヒョン兄さんって呼んで」
「わかりました、ヒョン」

韓国だと親しい目上の人に対する呼び方が男女で使い分けられている。男性が目上の男性に呼びかけるなら「ヒョン」、目上の女性に呼びかけるなら「ヌナ」。女性から目上の男性に呼びかける場合「オッパ」、目上の女性に呼びかけるなら「オンニ」となる。日本だと「お兄さん」とか「お姉さん」みたいな感じだろうか。日本だと身内以外にこういう言い方はしないと思うけど――儒教の思想が浸透している国柄で上下関係が厳しいのでこういう呼び方にバリエーションがあるのかもしれない。

「本番前に確認しておこう。まず僕たちはルームメイト」
「うん」
「ミンジェは――」

そう言うと彼が僕の目を覗き込んで首を横に振る。

「――じゃなくミンジェヒョンは、大学の先輩で、僕に対してかなり過保護なアルファ」
「うんうん」
「それで、僕がヒートのときにたまに相手もしてくれるけど付き合ってはいない」

これを聞いて彼が「ふふっ」と笑った。

「笑わないでよ。真剣なんだから」
「わかってる、ごめんねチカ。だって俺たちまだ会って二回目なのにそんな濃~い関係って設定だなんておかしくて」
「いいだろ。ミンジェ……ヒョンはいろんな人の彼氏役してきたんだからこれくらい軽いもんでしょ?」
「デートはしたことあるけど、こんな妙なシチュエーションは初めてだから楽しみでドキドキするよ」
「もう、面白がって。僕の人生かかってるんだよ!」
「たしかに。俺がうまくやれなかったら帰国してチカは御曹司のお嫁さんにならないといけないもんね」
「そう、イジュンに会えなくなっちゃう」
「でも日本公演だってあるんじゃないのか?」
「あるよ。でもこっちにいるのとは接する機会が全然ちがうし」
「ふーん。そんなに好きなんだね」
「好きだよ。そうだ、この間大事な写真を失くすところだったんだ」

僕はミンジェに大切な写真を出して見せた。この前思い切り握ってしまって、折れ目がついたから新しくプリントし直したんだよね。

「へぇ、アイドルってこんな仲良く写真まで撮ってくれるんだ」
「抽選で当たればね。でもいつもイジュンはこんなにサービス良くないんだ。この日は機嫌よかったのかも。この奇跡の一枚を外で見てたら風に飛ばされて」

その日会った失礼な日本人について僕はミンジェに話した。

「へえ、イジュンに似た人に会ったんだ」
「顔と声だけね! 中身は失礼な残念イケメンだよ」
「そう怒るなって。なあ、そろそろ時間じゃないか?」
「ん~、こっちにやる気ないってのを思い知らせたいから5分遅刻していくつもり」
「はは、徹底してるね。まあ大丈夫。俺はこういう演技慣れてるからチカは通訳に徹してくれればいいよ。俺がうまく話す。その御曹司がチカにふさわしい男か見極めてあげる」
「ミンジェヒョン、本当に過保護な先輩みたい」

僕がそう言うと彼は不敵な笑みを浮かべた。

「ヒョンに任せろ、チカ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嘘つきαと偽りの番契約

ずー子
BL
オメガバース。年下攻。 「20歳までに番を見つけないと不幸になる」と言う占いを信じている母親を安心させるために、全く違いを作るつもりのないオメガの主人公セイア君は、とりあえず偽の番を作ることにします。アルファは怖いし嫌いだし、本気になられたら面倒だし。そんな中、可愛がってたけどいっとき疎遠になった後輩ルカ君が協力を申し出てくれます。でもそこには、ある企みがありました。そんな感じのほのぼのラブコメです。 折角の三連休なのに、寒いし体調崩してるしでベッドの中で書きました。楽しんでくださいませ♡ 10/26攻君視点書きました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

ベータですが、運命の番だと迫られています

モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。 運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。 執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか? ベータがオメガになることはありません。 “運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり ※ムーンライトノベルズでも投稿しております

同情で付き合ってもらっていると勘違いして別れを切り出す話

よしゆき
BL
告白するときに泣いてしまって、同情で付き合ってもらっていると勘違いしている受けが別れを切り出す話。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたアルフォン伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 アルフォンのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

俺はすでに振られているから

いちみやりょう
BL
▲花吐き病の設定をお借りしている上に変えている部分もあります▲ 「ごほっ、ごほっ、はぁ、はぁ」 「要、告白してみたら? 断られても玉砕したら諦められるかもしれないよ?」 会社の同期の杉田が心配そうに言ってきた。 俺の片思いと片思いの相手と病気を杉田だけが知っている。 以前会社で吐き気に耐えきれなくなって給湯室まで駆け込んで吐いた時に、心配で様子見にきてくれた杉田に花を吐くのを見られてしまったことがきっかけだった。ちなみに今も給湯室にいる。 「無理だ。断られても諦められなかった」 「え? 告白したの?」 「こほっ、ごほ、したよ。大学生の時にね」 「ダメだったんだ」 「悪いって言われたよ。でも俺は断られたのにもかかわらず諦めきれずに、こんな病気を発病してしまった」

処理中です...