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第一章:役立たずから英雄へ
33.開戦③
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「レイ大隊長! ゼス大隊長は本当に大丈夫でしょうか!」
いくら特級スキル持ちとはいえ、敵陣のど真ん中で強敵と相対している。近くで取り囲んでいた敵兵士を倒したとはいえ、またすぐに囲まれるのは目に見えている。
「大丈夫です! ここにいるのは、ゼス大隊長だけではありませんから!」
「それはどういう……あれ? この音は……」
僕が聞き返そうとしている最中、金属音とはまた違う音が真横から聞こえてきたのでそちらに視線を向ける。
すると、視線の先では大量の土煙が舞い上がり、横一列になったバルザーリ軍の騎馬隊が現れた。
「敵を押し潰せええええっ!」
「「「「おうっ!」」」」
「あれは――ヒューイ隊長!」
ずっと姿を見せていなかったヒューイ隊長率いる騎馬隊が、アルスラーダ帝国陣営の真横へと突っ込んでいく。
馬に突っ込まれ、蹴とばされ、何とか回避しても馬上の兵士により串刺しにされる。
あらゆるところから悲鳴があがり、連合軍右翼の戦意は一気に向上した。
「リッツ殿! レイ大隊長!」
「ヒューイ! 後方でゼス大隊長が獣人の戦争奴隷と交戦中だ!」
「了解! すぐに行って露払いをしてきます! 他の者はリッツ殿とレイ大隊長の道を切り開け!」
「「「「おうっ!」」」」
二人のやり取りはとても短かったが、それでもレイ大隊長の意図を読み取り、ヒューイ隊長は騎馬を走らせる。
以心伝心とはこういう事を言うのだろう。
「急ぎましょう、リッツ様!」
「はい! よろしくお願い――っ!」
僕は咄嗟に防御魔法であるアースシールドを発動させた。
直後、アースシールドに火の玉がぶつかると、それが一気に爆発を起こした。
「だ、大丈夫ですか、皆さん!」
「……助かりました、リッツ様」
アースシールドはこの場にいたレイ大隊長や騎馬隊を包み込んでいたものの、周囲にいた敵兵士は爆発をまともに受けている。
……敵味方関係なく魔法を放つなんて、許せない!
「あらあら~? どうして生きているのかしら~?」
「あなたが魔法を放った魔法師ですか?」
「あら~? あなた、とっても綺麗な顔をしているわね~? 私のタイプよ~」
「こちらの質問に答えてもらう。あなたが魔法を放った魔法師ですか?」
爆煙の中から現れたのは、漆黒の法衣に身を包み、煙管を吹かせた謎の女性魔法師。
「うふふ~、そうだと言ったらどうするのかしら~?」
「ここで死んでもらいます」
「あなたにそれができるのかしら~?」
「できる」
はっきりと口にしたレイ大隊長が構えると、双剣に変化が起きた。
赤の剣からは炎が、青の剣からは冷気が現れてそれぞれの剣を包み込んだ。
「それ、魔剣かしら~?」
「えぇ、そうですよ」
「そっか~。それ、魔剣か~。……欲しいわねぇ」
女性魔法師は舌なめずりをしながら双剣を見つめ、一歩前に出る。
「リッツ様。私が斬り込んだら、真っすぐに敵大将のところへ向かってください」
「ですが、騎馬隊が狙われたら」
「彼らも動き回った方が助かる可能性が高くなります。僕はこいつの相手をしますので」
皆が、僕のために道を作ろうとしてくれている。
ならば、僕にできる事といえば……。
「死んでちょうだ~い!」
「やらせません!」
「アースバレット!」
女性魔法師が構え、レイ大隊長が駆け出したタイミングで、僕は攻撃魔法を発動させる。狙いは周囲の敵兵士だ。
ゼス大隊長のためにレイ大隊長が行ったことを、今度は僕がやるんだ!
「ぐがあっ!」
「ぶほっ!」
「い、いでええええぇぇっ!」
「後はお願いします、レイ大隊長!」
「「「「道を作るぞおおおおっ!」」」」
「うえっ!?」
光の下へ駆け出そうとした直後、騎馬隊がそちらへと突っ込んでいき道を作ってくれた。
「皆さん!」
「雑魚は騎馬隊が引き受けます!」
「リッツ様! 早く向かってください!」
「……はい! ありがとうございます!」
僕はお礼を口にしながら駆け出すと、横目でレイ大隊長を見る。
流れるような剣捌きはさすがの一言に尽きるが、それを魔法師でありながら接近戦で対応している女性魔法師の実力は恐ろしいものがある。
本当にここを離れていいのかと考えたが、すぐにその思いを振り払う。
今ここで足を止めたら、ゼス大隊長やレイ大隊長の期待を裏切る事になるからだ。
「……どけよ、あそこにレイリアがいるんだ!」
騎馬隊が道を作ってくれたとはいえ、先にはまだまだ敵兵士が大勢いる。もしかすると獣人や女性魔法師のような強敵だって残っているかもしれない。
それでも、僕は構う事なく魔法を放つ。
「ウッドストーム!」
ユーグリッシュ様から事前に受け取っていた神木を地面に突き刺すと、枝が伸びて渦を成す。
僕を取り囲もうとしていた敵兵士が一気に薙ぎ払われて吹き飛ばされた。
「まだまだ!」
ウッドストームの動きを円軌道から直線軌道へと変更し、攻撃手段も薙ぎ払いから突きへと変化していく。
武器を砕き、鎧をひしゃげさせ、運の悪い者は貫かれて傷を負った。
どれだけの数の敵兵士を傷つけ、殺しただろうか。僕の行動は、多くの人の命の上に立っている。
だから、途中で止まるわけにはいかない。投げ出すわけにはいかない。
僕が僕自身に言葉を投げかけ、迫る敵兵士から傷を受けながら、倒しながら、少しずつ光の方へと近づいていく。
――そして、息を切らせて、血を流しながら、ようやくたどり着いたその先に、彼女は立っていたんだ。
いくら特級スキル持ちとはいえ、敵陣のど真ん中で強敵と相対している。近くで取り囲んでいた敵兵士を倒したとはいえ、またすぐに囲まれるのは目に見えている。
「大丈夫です! ここにいるのは、ゼス大隊長だけではありませんから!」
「それはどういう……あれ? この音は……」
僕が聞き返そうとしている最中、金属音とはまた違う音が真横から聞こえてきたのでそちらに視線を向ける。
すると、視線の先では大量の土煙が舞い上がり、横一列になったバルザーリ軍の騎馬隊が現れた。
「敵を押し潰せええええっ!」
「「「「おうっ!」」」」
「あれは――ヒューイ隊長!」
ずっと姿を見せていなかったヒューイ隊長率いる騎馬隊が、アルスラーダ帝国陣営の真横へと突っ込んでいく。
馬に突っ込まれ、蹴とばされ、何とか回避しても馬上の兵士により串刺しにされる。
あらゆるところから悲鳴があがり、連合軍右翼の戦意は一気に向上した。
「リッツ殿! レイ大隊長!」
「ヒューイ! 後方でゼス大隊長が獣人の戦争奴隷と交戦中だ!」
「了解! すぐに行って露払いをしてきます! 他の者はリッツ殿とレイ大隊長の道を切り開け!」
「「「「おうっ!」」」」
二人のやり取りはとても短かったが、それでもレイ大隊長の意図を読み取り、ヒューイ隊長は騎馬を走らせる。
以心伝心とはこういう事を言うのだろう。
「急ぎましょう、リッツ様!」
「はい! よろしくお願い――っ!」
僕は咄嗟に防御魔法であるアースシールドを発動させた。
直後、アースシールドに火の玉がぶつかると、それが一気に爆発を起こした。
「だ、大丈夫ですか、皆さん!」
「……助かりました、リッツ様」
アースシールドはこの場にいたレイ大隊長や騎馬隊を包み込んでいたものの、周囲にいた敵兵士は爆発をまともに受けている。
……敵味方関係なく魔法を放つなんて、許せない!
「あらあら~? どうして生きているのかしら~?」
「あなたが魔法を放った魔法師ですか?」
「あら~? あなた、とっても綺麗な顔をしているわね~? 私のタイプよ~」
「こちらの質問に答えてもらう。あなたが魔法を放った魔法師ですか?」
爆煙の中から現れたのは、漆黒の法衣に身を包み、煙管を吹かせた謎の女性魔法師。
「うふふ~、そうだと言ったらどうするのかしら~?」
「ここで死んでもらいます」
「あなたにそれができるのかしら~?」
「できる」
はっきりと口にしたレイ大隊長が構えると、双剣に変化が起きた。
赤の剣からは炎が、青の剣からは冷気が現れてそれぞれの剣を包み込んだ。
「それ、魔剣かしら~?」
「えぇ、そうですよ」
「そっか~。それ、魔剣か~。……欲しいわねぇ」
女性魔法師は舌なめずりをしながら双剣を見つめ、一歩前に出る。
「リッツ様。私が斬り込んだら、真っすぐに敵大将のところへ向かってください」
「ですが、騎馬隊が狙われたら」
「彼らも動き回った方が助かる可能性が高くなります。僕はこいつの相手をしますので」
皆が、僕のために道を作ろうとしてくれている。
ならば、僕にできる事といえば……。
「死んでちょうだ~い!」
「やらせません!」
「アースバレット!」
女性魔法師が構え、レイ大隊長が駆け出したタイミングで、僕は攻撃魔法を発動させる。狙いは周囲の敵兵士だ。
ゼス大隊長のためにレイ大隊長が行ったことを、今度は僕がやるんだ!
「ぐがあっ!」
「ぶほっ!」
「い、いでええええぇぇっ!」
「後はお願いします、レイ大隊長!」
「「「「道を作るぞおおおおっ!」」」」
「うえっ!?」
光の下へ駆け出そうとした直後、騎馬隊がそちらへと突っ込んでいき道を作ってくれた。
「皆さん!」
「雑魚は騎馬隊が引き受けます!」
「リッツ様! 早く向かってください!」
「……はい! ありがとうございます!」
僕はお礼を口にしながら駆け出すと、横目でレイ大隊長を見る。
流れるような剣捌きはさすがの一言に尽きるが、それを魔法師でありながら接近戦で対応している女性魔法師の実力は恐ろしいものがある。
本当にここを離れていいのかと考えたが、すぐにその思いを振り払う。
今ここで足を止めたら、ゼス大隊長やレイ大隊長の期待を裏切る事になるからだ。
「……どけよ、あそこにレイリアがいるんだ!」
騎馬隊が道を作ってくれたとはいえ、先にはまだまだ敵兵士が大勢いる。もしかすると獣人や女性魔法師のような強敵だって残っているかもしれない。
それでも、僕は構う事なく魔法を放つ。
「ウッドストーム!」
ユーグリッシュ様から事前に受け取っていた神木を地面に突き刺すと、枝が伸びて渦を成す。
僕を取り囲もうとしていた敵兵士が一気に薙ぎ払われて吹き飛ばされた。
「まだまだ!」
ウッドストームの動きを円軌道から直線軌道へと変更し、攻撃手段も薙ぎ払いから突きへと変化していく。
武器を砕き、鎧をひしゃげさせ、運の悪い者は貫かれて傷を負った。
どれだけの数の敵兵士を傷つけ、殺しただろうか。僕の行動は、多くの人の命の上に立っている。
だから、途中で止まるわけにはいかない。投げ出すわけにはいかない。
僕が僕自身に言葉を投げかけ、迫る敵兵士から傷を受けながら、倒しながら、少しずつ光の方へと近づいていく。
――そして、息を切らせて、血を流しながら、ようやくたどり着いたその先に、彼女は立っていたんだ。
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