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第一章:役立たずから英雄へ
32.開戦②
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魔法同士の爆発音ではなく、物理的な音がぶつかり合い、耳をつんざくような金属音があちらこちらから響き渡ってくる。
その中に交ざり合っている兵士たちの雄叫びが、罵声が、悲鳴が、さらに兵士たちの前進を加速させていく。
「うおおおおおおおっ!」
「ふっ!」
そんな中において、ゼス大隊長とレイ大隊長は全く異なる戦い方を見せていた。
ゼス大隊長を例えるなら、抗う事の出来ない暴風といった感じだろうか。
大戦斧を一振りすれば、不運にも間合いにいた兵士が紙切れの如く飛んでいってしまう。
鎧がひしゃげる者もいれば、鎧ごと真っ二つになって血しぶきを舞わせる者までいるくらいだ。
イシス兄上がゼス大隊長も特級スキル持ちだと言っていたが、なんというスキルなんだろうか。
一方のレイ大隊長を例えるなら、森の中を漂う蝶のようだ。
双剣を華麗に振るい、敵味方がひしめき合う戦場の中でも的確に鎧の隙間に剣身を滑り込ませて斬り捨てていく。
ここが戦場でなければ、美しい見世物を見せられているのではないかと思うくらいに華麗な双剣捌きなのだ。
そして、レイ大隊長の通り名の意味を理解する事もできた。
相手兵士からすると恐ろしさしか感じないはずだ。何故なら、レイ大隊長は剣を振るいながらも微笑を浮かべているからだ。
「なかなかやるじゃないか! 微笑のレイ!」
「そちらはさすがですね、大戦斧のゼス」
互いに目が合い、声を掛けて、一方は獰猛に、もう一方は普段と変わらない笑みを浮かべる。
「……凄い。これが、特級スキルと一級スキルの戦いなんだ」
だが、僕だって二人の戦いに見惚れているだけじゃダメだ。
二人の尽力によりアルスラーダ帝国軍の数が一気に減った。見通しも良くなり、今ならレイリアを見つけられるかもしれない。
僕は周囲に警戒をしながらも相手陣営に視線を送り必死になってレイリアを探した。
時折僕めがけて剣や槍が突き出される事もあったのだが、いつこちらを見ているのかと疑問に思うくらいの速度でレイ大隊長が戦線を離脱して助けに来てくれた。
「ご存分にお探しください」
「あ、ありがとうございます!」
他の事に気を取られている場合ではない。しっかりと探さなくちゃ。
……いない……あっちにもいない……くそ、こっちにもだ! レイリアは本当に左翼にいるのだろうか。
そんな不安が徐々に胸の中へと生まれ始めたその時である。
――パアアアアァァ。
アルスラーダ帝国軍の左翼最後方から、美しい白い光が天へと駆け上がり、上空に癒しの魔法陣を映し出したのだ。
「あれは……レイリアの【癒しの加護】!」
ついに見つけた! あの光の出所へと向かえば、レイリアがいるはずだ!
……だが、状況は悪い方へと向かっている。
レイリアが【癒しの加護】を使ったという事は、アルスラーダ帝国軍の傷が癒えてしまうという事だ。
死んだ者が生き返る事はないが、傷を負って後方へと避難した兵士が再び武器を手にやって来るだろう。
「ゼス大隊長! レイ大隊長! 僕のために道を作ってください!」
「「――! かしこまりました!」」
癒しの魔法陣がある限り、殺す以外にアルスラーダ帝国軍を止める事はできないだろう。
もしくは、レイリアの魔力が尽きるのを待つという選択肢もあるが、その前にこちらの体力が尽きてしまう。
そして、こちらが敗北すればレイリアは中央、右翼へと癒しの魔法陣を移動させるはずだ。
それだけは阻止しなければならない。アーク兄上とイシス兄上を助けるためにも。
「――グルアアアアッ!」
アルスラーダ帝国軍左翼の中央を突破していた僕たちだったが、突如として獣にも似た咆哮と合わせて何かが突っ込んできた。
「うらああああっ!」
しかし、その突っ込んできた何かへゼス大隊長の大戦斧が振り下ろされる。
地面を穿ち、小さなクレーターを作り出した一撃だったが、相手は間一髪で回避したようだ。
「……グルルルルゥゥ」
「獣人だと? まさか、戦争奴隷か?」
「アルスラーダ帝国が戦争奴隷を従えているとなれば、厄介ですね」
突っ込んできたのは狼の顔を持つ大柄な獣人だった。
獣人は知能が低いとされているが、その分を埋めるに余りある身体能力を持っている。
ゼス大隊長の一撃だって、カウンター気味に放たれたにもかかわらず瞬時の判断で回避してみせたのだから。
「こいつは私が引き受ける。リッツ様とレイ大隊長は大将の下へ急げ!」
「わかりました。……死なないでくださいね」
「ふん! 誰にものを言っているんだ? 貴様こそ、リッツ様を守り抜けよ!」
「言われなくても!」
「ありがとうございます! ゼス大隊長!」
レイ大隊長は先ほどよりもさらに加速し、取り囲んでいたアルスラーダ帝国軍の兵士を仕留めるてから一気に駆け出す。
僕も置いていかれまいと駆け出すと、あっという間にゼス大隊長の姿は見えなくなってしまった。
その中に交ざり合っている兵士たちの雄叫びが、罵声が、悲鳴が、さらに兵士たちの前進を加速させていく。
「うおおおおおおおっ!」
「ふっ!」
そんな中において、ゼス大隊長とレイ大隊長は全く異なる戦い方を見せていた。
ゼス大隊長を例えるなら、抗う事の出来ない暴風といった感じだろうか。
大戦斧を一振りすれば、不運にも間合いにいた兵士が紙切れの如く飛んでいってしまう。
鎧がひしゃげる者もいれば、鎧ごと真っ二つになって血しぶきを舞わせる者までいるくらいだ。
イシス兄上がゼス大隊長も特級スキル持ちだと言っていたが、なんというスキルなんだろうか。
一方のレイ大隊長を例えるなら、森の中を漂う蝶のようだ。
双剣を華麗に振るい、敵味方がひしめき合う戦場の中でも的確に鎧の隙間に剣身を滑り込ませて斬り捨てていく。
ここが戦場でなければ、美しい見世物を見せられているのではないかと思うくらいに華麗な双剣捌きなのだ。
そして、レイ大隊長の通り名の意味を理解する事もできた。
相手兵士からすると恐ろしさしか感じないはずだ。何故なら、レイ大隊長は剣を振るいながらも微笑を浮かべているからだ。
「なかなかやるじゃないか! 微笑のレイ!」
「そちらはさすがですね、大戦斧のゼス」
互いに目が合い、声を掛けて、一方は獰猛に、もう一方は普段と変わらない笑みを浮かべる。
「……凄い。これが、特級スキルと一級スキルの戦いなんだ」
だが、僕だって二人の戦いに見惚れているだけじゃダメだ。
二人の尽力によりアルスラーダ帝国軍の数が一気に減った。見通しも良くなり、今ならレイリアを見つけられるかもしれない。
僕は周囲に警戒をしながらも相手陣営に視線を送り必死になってレイリアを探した。
時折僕めがけて剣や槍が突き出される事もあったのだが、いつこちらを見ているのかと疑問に思うくらいの速度でレイ大隊長が戦線を離脱して助けに来てくれた。
「ご存分にお探しください」
「あ、ありがとうございます!」
他の事に気を取られている場合ではない。しっかりと探さなくちゃ。
……いない……あっちにもいない……くそ、こっちにもだ! レイリアは本当に左翼にいるのだろうか。
そんな不安が徐々に胸の中へと生まれ始めたその時である。
――パアアアアァァ。
アルスラーダ帝国軍の左翼最後方から、美しい白い光が天へと駆け上がり、上空に癒しの魔法陣を映し出したのだ。
「あれは……レイリアの【癒しの加護】!」
ついに見つけた! あの光の出所へと向かえば、レイリアがいるはずだ!
……だが、状況は悪い方へと向かっている。
レイリアが【癒しの加護】を使ったという事は、アルスラーダ帝国軍の傷が癒えてしまうという事だ。
死んだ者が生き返る事はないが、傷を負って後方へと避難した兵士が再び武器を手にやって来るだろう。
「ゼス大隊長! レイ大隊長! 僕のために道を作ってください!」
「「――! かしこまりました!」」
癒しの魔法陣がある限り、殺す以外にアルスラーダ帝国軍を止める事はできないだろう。
もしくは、レイリアの魔力が尽きるのを待つという選択肢もあるが、その前にこちらの体力が尽きてしまう。
そして、こちらが敗北すればレイリアは中央、右翼へと癒しの魔法陣を移動させるはずだ。
それだけは阻止しなければならない。アーク兄上とイシス兄上を助けるためにも。
「――グルアアアアッ!」
アルスラーダ帝国軍左翼の中央を突破していた僕たちだったが、突如として獣にも似た咆哮と合わせて何かが突っ込んできた。
「うらああああっ!」
しかし、その突っ込んできた何かへゼス大隊長の大戦斧が振り下ろされる。
地面を穿ち、小さなクレーターを作り出した一撃だったが、相手は間一髪で回避したようだ。
「……グルルルルゥゥ」
「獣人だと? まさか、戦争奴隷か?」
「アルスラーダ帝国が戦争奴隷を従えているとなれば、厄介ですね」
突っ込んできたのは狼の顔を持つ大柄な獣人だった。
獣人は知能が低いとされているが、その分を埋めるに余りある身体能力を持っている。
ゼス大隊長の一撃だって、カウンター気味に放たれたにもかかわらず瞬時の判断で回避してみせたのだから。
「こいつは私が引き受ける。リッツ様とレイ大隊長は大将の下へ急げ!」
「わかりました。……死なないでくださいね」
「ふん! 誰にものを言っているんだ? 貴様こそ、リッツ様を守り抜けよ!」
「言われなくても!」
「ありがとうございます! ゼス大隊長!」
レイ大隊長は先ほどよりもさらに加速し、取り囲んでいたアルスラーダ帝国軍の兵士を仕留めるてから一気に駆け出す。
僕も置いていかれまいと駆け出すと、あっという間にゼス大隊長の姿は見えなくなってしまった。
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