華に君を乞う

しろ卯

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113.そいでコウガク

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「そいでコウガク。お前はどげんしたい?」

 コウガクには次の王となる資格がある。
 彼が望むなら、王として立てるようオナガは協力するつもりだ。たとえそれが短い時間であっても、オナガの持つ知識と人脈を受け継がせるくらいはできる。
 平民として生きてきたコウガクであれば、――あの二人の子であるならば、良き王になるだろう。
 もしも王族と関わりたくない、自由に生きたいと言うのなら、可愛そうだが神とは引き離し、解き放とう。

 オナガの問い掛けに対して、虚を突かれたように目を瞠ったコウガクだが、質問の意図は理解したのだろう。瞼を閉じて真剣に考えている。
 しばらくして、目を開けた。

「王族に戻り、玉座を求めます」

 真っ直ぐに見つめて答えるコウガク。その姿にレイランの姿が重なって、やはり彼は彼女の息子なのだと、オナガは嬉しくなる。

 騒動に気付いて駆け付けた王族や祠官たちは、スズメを見た瞬間に彼女が神であると気付き額づいた。

「我らが主よ、この日を幾歳月待ちわびたことか。御帰還をお喜び申し上げます」

 歓喜に打ち震える王族たちに、それまで居丈高にしか接せられたことのない禁衛の隊員たちはもちろん、神であるスズメまで驚いていた。

 事態が沈静化したところで、オナガの胸ポケットに入っていた番貝ばんばいが震えた。
 コウガクたちから距離をとったオナガは、番貝を弾く。

「こっちは予定通りじゃ。そっちはどうじゃ?」
『予定通り。壊したけど良かったよね?』
「構わん」

 番貝からは破壊音が聞こえてくる。

『隊長が予想していた通り、ほとんどハズレ。でも使えそうなのを何個か見つけた。凍ってるからすぐには使えそうにないけど、回収しとく。はいらないんだよね?』
「ああ。必要なか。俺が命じる。壊せ」

 すでに神の一柱は手に入っている。他の神まで救おうという気には、残念ながらオナガはなれなかった。
 この狂った世界を創った神。彼らは王以上の脅威となりかねない。

『……。了解』

 何か言いたげな沈黙を残して了承すると、ナグルは通信を切った。
 通信を切ったオナガが振り返ると、セッカが心配そうに見つめていた。

「そげな顔すっな」

 微笑みかけると、セッカの手がオナガの頬に触れる。

「オナガ、一人で背負わないで。私にも背負わせて」

 神殺しの罪を――。



 こうしてコウガクが次の王となることが決まった。
 本来ならば先王の死後七日が経った日に選定の儀を執り行い、王と認められるのであるが、今回は神が降臨したということで諸々は飛ばされた。

 王となるための雑務に追われているコウガクに断って、オナガはセッカと共に神の下を訪れる。

「スズメ様、よろしかでしょうか?」
「オナガさん。何でしょう?」

 長椅子の上でぼんやりと座っていた神は、部屋に入ってきたオナガとセッカを不思議そうに見つめる。
 オナガとセッカは跪き、礼を取る。

「スズメ様にお願いしたきこつがありもす。神子ん呪いを解いてたもんせ。神であるスズメ様が現れたんなら、もう無用でありもそ? 傀儡が必要と言うとなら、こんオナガを自由に使いたもんせ」
「私からもお願いいたします。私は華族として、神に仕えることこそ第一と教えられてきました。ですから、私の命は捧げましょう。けれど禁衛の者たちは何も知らぬまま守護者として自我を奪われ、そしてあと数日で命を落としてしまいます。どうかお助けください」

 二人の願いを聞いた神は、呆然とした様子で二人を眺めている。

「えっと、あの、すみません。状況が分からないのですけれど。神子の呪いってなんですか? 死んでしまうってどういうことですか?」

 混乱している神は、神子という仕組みについて何も知らないようだ。
 オナガとセッカは彼女にも理解できるよう、噛み砕いて説明した。
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