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48.しばらくして、微かに足音が
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しばらくして、微かに足音が響いていくる。オナガが顔を上げると、白い隊服に身を包んだ男がこちらに向かって歩いてきていた。
「それか?」
禁衛の男は視線で倒れている華族を示す。
いくら王に仕える禁衛といえども、華族に対して物のような言い方をするとは。オナガは驚き、わずかに眉を曇らせる。
「そうじゃが」
「そうか」
短いやり取りを済ませると、禁衛の男は椅子に横たわっている華族に手を伸ばす。
しかし椅子の後ろで棒立ちになっている二人の異常に気付いたのか、手を止めた。止めた手が、腰の刀に触れる。
ぞわりと背筋に粟立つような寒気を感じたオナガは、考えるより先に体が動いた。
従者二人を切り捨てようと刀を抜く禁衛の男。間に入って庇う時間は無い。オナガは背後から男に斬りかかった。
キイーンっと、高く澄んだ音が耳の奥を駆け抜けていく。
「ほう?」
即座に反応して背後から襲う刃に反応した禁衛の男は、感心するような声を零しながらも、感情の乗らぬ冷たい目でオナガを見る。
二人の刀は揃って中ほどで折れていた。
「何をすっとじゃっ?」
蕊山ゆえに声は潜めたが、怒りまでは抑えられなかった。
「それはこちらの台詞だ。何のつもりだ?」
「こん二人は何もしてなか。なんで斬ろうとした?」
思いがけない言葉を聞いたとでも言いたげに、禁衛の男は眉を跳ねる。
「すでに壊れている。止めを刺して輪廻に乗せてやるのが情けだろう?」
確かに二人はすでに自我が無いようだ。華族によって操られているのか、それともどこかを壊されているのか、そこまでは分からない。
けれどオナガは納得できない。
「まだ生きちょる」
「お前はあんな状態になっても生きたいと思うのか? 俺は御免だ」
「やめいっ!」
オナガが静止するよりも早く、男は折れた刀の根元を使い、二人の首を一刀で断った。
「なしてそげんこつするっ? まだ生きちょった。悪かこつはしてなか!」
胸倉を掴んで揺するオナガを、男は無言で見つめる。少しして、一度瞼を落とした男の目には、怒りの火が宿っていた。
振り上げられた拳がオナガの顔を狙う。オナガは手にしたままだった刀の柄で拳を受ける。
だが次の瞬間には腹に激痛が走り、オナガは腰を折って蹲った。拳に気を取られている間に、男の膝がオナガの腹を蹴っていたのだ。
「甘いんだよ。それで禁衛を目指す気か?」
「俺は禁衛になりたいわけじゃなか」
「へえ? だったらなんで第一にいる? そこにいるってことは、いずれ禁衛になるっていうことだろうが?」
蹲るオナガの髪を鷲掴みにして持ち上げると、男はオナガと視線を合わせる。
怒りの炎が揺れる瞳を、オナガは真っ直ぐに睨み上げた。
「お前には関係無か」
「ああ、そうだな。けど、お前みたいな甘っちょろい奴を見ていると、虫唾が走る」
顔面に向かってもう一度振り下ろされてきた拳を、オナガは手で打ち払う。
「簡単に人を壊すようになるくらいなら、甘っちょろくて良か」
視線が交錯しあったまま、二人は動かない。静かに時が流れ、わずかに禁衛の男の眉が揺れる。
「禁衛になる気が無いなら、さっさと第一から余所に移れ。目障りだ」
舌打ちをしながらオナガから手を離すと、まるで荷物を運ぶように華族を肩に担いで去っていった。
油断なく男の姿が消えるのを目で追っていたオナガは、完全に目でも耳でも捕えられなくなると、ようやく息を吐いて振り返る。
「どげんした? ガンヒたちと下りんかったんか?」
微笑を浮かべた先には、刀を抜いて構えるナグルの姿があった。あの男が去ったのは、ナグルに気付いたからだろう。
オナガをも圧倒できる力を持つ男が、ナグル程度を恐れるとは思えない。おそらくこれ以上の騒ぎになることを避けたのだろう。
「俺を助けに来てくれたか? ありがとう」
ナグルは答えない。刀を構えるまでは何とか動けたようだが、そのまま禁衛の男から発せられていた威圧感で動けなくなっている。
「それか?」
禁衛の男は視線で倒れている華族を示す。
いくら王に仕える禁衛といえども、華族に対して物のような言い方をするとは。オナガは驚き、わずかに眉を曇らせる。
「そうじゃが」
「そうか」
短いやり取りを済ませると、禁衛の男は椅子に横たわっている華族に手を伸ばす。
しかし椅子の後ろで棒立ちになっている二人の異常に気付いたのか、手を止めた。止めた手が、腰の刀に触れる。
ぞわりと背筋に粟立つような寒気を感じたオナガは、考えるより先に体が動いた。
従者二人を切り捨てようと刀を抜く禁衛の男。間に入って庇う時間は無い。オナガは背後から男に斬りかかった。
キイーンっと、高く澄んだ音が耳の奥を駆け抜けていく。
「ほう?」
即座に反応して背後から襲う刃に反応した禁衛の男は、感心するような声を零しながらも、感情の乗らぬ冷たい目でオナガを見る。
二人の刀は揃って中ほどで折れていた。
「何をすっとじゃっ?」
蕊山ゆえに声は潜めたが、怒りまでは抑えられなかった。
「それはこちらの台詞だ。何のつもりだ?」
「こん二人は何もしてなか。なんで斬ろうとした?」
思いがけない言葉を聞いたとでも言いたげに、禁衛の男は眉を跳ねる。
「すでに壊れている。止めを刺して輪廻に乗せてやるのが情けだろう?」
確かに二人はすでに自我が無いようだ。華族によって操られているのか、それともどこかを壊されているのか、そこまでは分からない。
けれどオナガは納得できない。
「まだ生きちょる」
「お前はあんな状態になっても生きたいと思うのか? 俺は御免だ」
「やめいっ!」
オナガが静止するよりも早く、男は折れた刀の根元を使い、二人の首を一刀で断った。
「なしてそげんこつするっ? まだ生きちょった。悪かこつはしてなか!」
胸倉を掴んで揺するオナガを、男は無言で見つめる。少しして、一度瞼を落とした男の目には、怒りの火が宿っていた。
振り上げられた拳がオナガの顔を狙う。オナガは手にしたままだった刀の柄で拳を受ける。
だが次の瞬間には腹に激痛が走り、オナガは腰を折って蹲った。拳に気を取られている間に、男の膝がオナガの腹を蹴っていたのだ。
「甘いんだよ。それで禁衛を目指す気か?」
「俺は禁衛になりたいわけじゃなか」
「へえ? だったらなんで第一にいる? そこにいるってことは、いずれ禁衛になるっていうことだろうが?」
蹲るオナガの髪を鷲掴みにして持ち上げると、男はオナガと視線を合わせる。
怒りの炎が揺れる瞳を、オナガは真っ直ぐに睨み上げた。
「お前には関係無か」
「ああ、そうだな。けど、お前みたいな甘っちょろい奴を見ていると、虫唾が走る」
顔面に向かってもう一度振り下ろされてきた拳を、オナガは手で打ち払う。
「簡単に人を壊すようになるくらいなら、甘っちょろくて良か」
視線が交錯しあったまま、二人は動かない。静かに時が流れ、わずかに禁衛の男の眉が揺れる。
「禁衛になる気が無いなら、さっさと第一から余所に移れ。目障りだ」
舌打ちをしながらオナガから手を離すと、まるで荷物を運ぶように華族を肩に担いで去っていった。
油断なく男の姿が消えるのを目で追っていたオナガは、完全に目でも耳でも捕えられなくなると、ようやく息を吐いて振り返る。
「どげんした? ガンヒたちと下りんかったんか?」
微笑を浮かべた先には、刀を抜いて構えるナグルの姿があった。あの男が去ったのは、ナグルに気付いたからだろう。
オナガをも圧倒できる力を持つ男が、ナグル程度を恐れるとは思えない。おそらくこれ以上の騒ぎになることを避けたのだろう。
「俺を助けに来てくれたか? ありがとう」
ナグルは答えない。刀を構えるまでは何とか動けたようだが、そのまま禁衛の男から発せられていた威圧感で動けなくなっている。
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