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5・新学期と学園祭
5-3・新学期の前に③
しおりを挟むフデュク商会から、キゾワリについて少し詳しいものとして彼女が紹介されたのは、夏季休暇に入る少し前のことだった。
アルフィレヤ・フデュク。
ピオラの友人として側にいてくれているフデュク商会、商会長の孫娘、ミディの兄の妻、つまりは義理の姉である。
「どうぞ、アリアとお呼び下さい」
そう、丁寧に腰を折った彼女は、ミディとも少し似ていて、とても可愛らしい容姿をしていた。
年の頃は20代中頃と言った所だろうか。
なんでも彼女はキゾワリの出身であり、彼の地の王子や王女も通う学園にも通っていて、その上、キゾワリの王宮にも何度か、当時親しくしていた王子殿下に連れられ、足を踏み入れたことがあるのだとか。
少し詳しく、どころではない人物だ。
落ち合った場所は流石に学園の寮というわけにも行かず、遠慮する彼女を説き伏せて王宮の一室を借りてとなった。
応接室のようなそこで、楽にして欲しいとソファに向かい合わせに座ってもらう。
彼女は終始とても恐縮しているといった態度だったが、ティアリィに譲る気がないことを悟ってか、すぐに諦めたようだった。
(状況判断も早いし、礼儀もしっかりしている、そしていざという時の度胸もある)
充分にしっかりしたお嬢さんのようだというのがティアリィの彼女に対する印象だ。
彼女は躊躇いがちに、だけど知っていることはなんでも話してくれた。
「私でお役に立てるのでしたら。私もあの国のことは気になっていたのです。私は結局逃げ出してしまったから……」
そう言って小さく笑う顔は、なんだか何処か寂しそうだった。
彼女が親しくしていた王子というのは、第三王子で、当たり前ではあるが、あのリアラクタ嬢の兄なのだという。
「ですがおそらくあの方は、リアラクタ様のことをご存じではないと思いますわ」
それぐらいあの国では王子、王女の数が多く、しかもそれぞれに交流などは全くなかったのだそうだ。
件の第三王子以外とは、彼女も会ったことがないという。
「ただ、聖王陛下には何度かお会いしました。直接お声がけも頂いて……」
言いながら、しかし彼女の様子からは、言葉とは違って、栄誉を賜った、というような雰囲気は全く伝わってこなかった。
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