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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第767話 やっぱり、ちゃんと父親しているじゃない

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 翌朝、朝食を済ますと早々に、おいら達は魔物狩りに出掛けることになったんだ。
 顔を艶々させたクコさんは朝からご機嫌な様子で、快くおいら達を送り出してくれたんだけど…。

「ねえ、父ちゃん、もう行っちゃうの?
 もっと、父ちゃんと遊びたいよ。」

 ロコト君はもっとかまって欲しいと言って、王子の手を放そうとしなかったんだ。
 その気持ちわかるよ。ロコト君、まだ五歳だもの。
 離れ離れに暮らしている父ちゃんが恋しいに決まっているよね。

 オベルジーネ王子はそんなロコト君の前に屈んで視線を合わせると。

「ゴメンなロコト。
 本当は父ちゃんもゆっくりしていきたいんだ。
 だけど出稼ぎに戻る前に、もう少し魔物を狩っておかないとな。
 ロコト達が安心して暮らせるようにしないといけないから。」

 この領地の周辺は森が深く魔物がたくさんいることや、そのせいで王都から行商人が来るのもままならないこと。
 王子は、そんなこともロコト君に教えていたよ。

 更に続けて。

 領主の一族に生まれたからは、領民の安全を保証する事と領地を豊かにすることは義務なんだと諭してた。
 魔物が減れば、ロコト君やクコさんをはじめ村のみんながより安全に暮らせるようになるし。
 街道を安心して通行できるようになれば、人の往来が増えてこの村はもっともっと豊かになるってね。
 そしてその仕事はこの家で唯一の成人男性である自分の役割だと、ロコト君に噛んで含めるように言ってたんだ。

 その最後に。

「ゴメンな、父ちゃん、休みが少なくて。
 出稼ぎに戻る前に、急いで魔物を狩らないといけないんだ。
 魔物狩りが一段落したら、出稼ぎに行く前に一度戻ってくるから。
 そうだな、五日後には戻って来れると思う。
 それまで、良い子にして待ってておくれ。」

 そう言って、ロコト君の頭を撫でると。
 
「わがままを言ってゴメンなさい。
 父ちゃんが頑張ってくれるから。
 ボクや母ちゃんが安心して暮らせるんだもんね。
 村の人も言ってた、父ちゃんは貴族の鑑だって。
 ボク、寂しくても我慢するよ。
 だから、早く帰って来てね。」

 寂しいのをぐっと堪えて、ロコト君は気丈に返事をしたんだ。
 オベルジーネ王子はその言葉を聞いて、満面の笑みを浮かべたよ。

「おお、ロコト、偉いぞ。流石、父ちゃんの自慢の息子だ。」

 と言って、ロコト君の頭を撫で回してた。

 普段のチャラい言動からは想像もつかないオベルジーネ王子の言動に、一瞬別人じゃないかと疑っちゃったよ。
 父親として、至極真っ当にロコト君の躾をしているんだもん。

「あらあら、ロコト、偉いわね。」

 そんな二人のやり取りを、クコさんは微笑まし気に見てたよ。

「旦那様、お気をつけて。
 くれぐれもご無理しないでくださいね。
 あまり、し過ぎたらダメですよ。
 早のお帰りをお待ちしています。」

 ロコト君が王子の手を離すと、クコさんがそう言って送り出してくれたんだ。

         **********

 クコさんとロコト君に見送られて領主館を後にして、村を囲む擁壁の門へ向かって歩いて行くと。

「よっ、旦那、昨日はお楽しみだったようだな。
 夫婦仲が良くて羨ましいぜ。」

 道をすれ違ったオッチャンからそんな声が掛かったり。

「可愛い子猫ちゃん、随分と良い声で鳴いてたね
 こりゃ、おめでたいことがあるかも知れないね。」

「うちの宿六、アノ声に触発されちまって。
 うちも久し振りに一戦交えちゃったよ。」

「あらら、一年後は村の人口が大分増えるかもだね。」

「よっ、婿養子、立派にお役目果たしてるじゃないかい。感心、感心。」

 井戸端会議をしていたオバチャン達からも、気軽に声を掛けられてた。

「可愛い子猫ちゃんのお世話は得意だよ~。
 みんなも、頑張ってちょ。
 領民が増えるのは大歓迎だしぃ。」

 オベルジーネ王子も気取ることなく親し気に言葉を返していたよ。
 こなんなやり取りだけでも、この王子が村の住民から親しまれているのを肌で感じたの。
 見掛けはチャラいけど、領民ととても良い関係を築いているんだと感心したよ。

 でも、やっぱりいたんだ、子猫。村のオバチャン達にまで知れ渡るほど可愛い子猫なんだね。
 そんなに可愛い子猫なら見てみたかった…。

             **********

 村の門を出て、昔からの街道へと通じる新しい街道へやって来たよ。
 この街道、広大な森の中、その縁に沿って森の外を走る旧街道と並行して敷かれたらしい。
 前日は旧街道との分岐の方から順に魔物を狩って来て、途中で森の異変を感じたものだから。
 街道から外れて森の奥へと分け入り、ヒュドラを退治したんだ。

 そして、その日は更に道の先へと魔物狩りを続けるらしい…。

「ねえ、この街道、ジーネが造った新しい道だよね。
 この村が終点じゃないの?」

 前日来た方向とは逆の方向へ狩りを続けると聞き、おいらは疑問に思ったんだ。
 確か、この森は手付かずの森で、目の前のチャラ王子が初めて領地を開拓したって。
 なら、この先に村は無いはずだし、道を延長する意味がないんじゃないかと。

「ふふふ、隣国の幼王は名君だと噂されてるけど。
 所詮はまだまだオコチャマだねぇ~。
 道はどん詰まりだと発展しないんだよ。
 左右どちらにも抜けていることが大事なんだしぃ。」

 チャラ王子は勝ち誇ったようにご高説を垂れたよ。
 おいら、自分が名君だなんて自惚れる気はないけど、まだ子供なんだから知らないことがあって当然じゃない。
 それはともかく、ということはこの街道しばらく森の中を走って、やがてまた旧街道に合流するのかな?
 今回の魔物狩りはおいらの手を借りて、そこまで一気にやってしまおうって計画なんだ。

 都合良く利用されてるみたいで癪だけど、暇を持て余すより人々の役に立てる方がマシかな。
 この時のおいらはそう思っていたんだ。その日の昼までは…。

 街道に沿って歩くおいら達、その間先行したアルトとリュウキンカさんが空から魔物の居場所を知らせてくれるの。
 知らせを聞くと、そこへ駆けつけて魔物を狩る。朝からそれを繰り返していたんだ。
 やがて、昼時が近付いた頃のことだよ。突然、周囲の視界が開けたの。

 そこで目にしたのは、今朝出発した村と瓜二つの堀と土塁に囲まれた村だった。

「ねえ、こんなとこにクコさんの領地そっくりの村があるけど…。」

 おいらが、これはどういうことだと視線で問うと。

「そりゃそうだよ~。この村もボクちんが開拓した村だしぃ。
 クコちゃんの村ほど水が豊富じゃないから、空堀だけどねぇ。
 村の建物も同じ棟梁と一緒に造ったから、基本、同じ構造になるじゃん。」

 しゃあしゃあと答えたチャラ王子。いや、おいらが訊いてるのはそういうことじゃないんだけど。
 この領地は何のために開拓したのかを聞きたいんだよ。

 おいらが疑惑の目で見ていることに気付いて無いのか、チャラ王子は足を止めることなく村を閉ざした門に向かったの。
 オベルジーネ王子が村の門番に開門を命じると。

「御館様、お帰りやし、出稼ぎご苦労さんです。
 こりゃまた、今日も随分と狩ってきたもんだ。
 御館様は相変わらずえぇなぁ。」

 王子達が担いだ天秤棒にぶら下がる魔物の数々に関心しつつ、門を開くと。

「ささっ、早くお屋敷の方へ。
 姫さん、首を長くして待ってましたよ。」

 門番は、一緒に門を護っていた若い男に『御館様』の帰還を伝えるように指示してた。
 指示を受けた若い門番は、駆け足で村の奥へ向かったよ。
 
 どうやら、ここの門番もチャラ王子が『王子』だと知らない様子だった。
 やっぱり、出稼ぎに行ってると婿養子だと教えられてるみたい。

 てか、『姫さん』って、一体誰だよ…。
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