ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第768話 こいつ、こんな所にも隠していたよ…

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 オベルジーネ王子に狩りを付き合わされて二日目。
 狩りをしながら半日ほど森の中に敷設された街道を進むと、一つの村に行き当たったの。
 その村は、クコさんの村とそっくりな造りをしてたんだ。
 王子に尋ねたところ、どうやらこの村もこいつが開拓した領地らしい。

 いったい何のためにこの村を造ったのかと、首を傾げつつ村に入って行くと…。

「パピー、おかえりなさい~。」

 ロコト君より少しだけ歳下に見える幼女が駆け寄ってきたの。
 幼女の絹糸の如き光沢を持つ金髪は、目の前の王子そっくりだったよ。
 年相応の覚束ない足取りで走ってくる幼女を危ないなと思っていると、案の定、王子まであと一歩ってところで躓いたんだ。
 走ってきた勢いのまま地面に倒れ込む幼女、その体が地面に激突する寸前で王子が抱き留めたの。

「ただいま、パルチェ。出迎え、ありがとう。
 でも、ちゃんと足元を見てないと危ないよ。
 パルチェが怪我をするとパピーも悲しいなぁ。」

 オベルジーネ王子は幼女を抱き上げると、無茶して走ったらダメだよと優しく注意したの。

「えへへ、ゴメンなちゃい。
 でも、パピー、だーいしゅきっ!
  たすけてくれてありがとう。」

 パルチェと呼ばれた幼女は、抱き上げられた姿勢で王子の首に手を回しその頬にチューをしたの。

「パパも、パルチェが大好きだぞ。
 パルチェにチューしてもらって嬉しいな。」
 
 オベルジーネ王子は相好を崩すと、パルチェの頬っぺにキスを返してたんだ。
 幼女のセリフとお揃いの金髪から予想はしてたけど、パルチェと呼べれる幼女はチャラ王子の娘らしいね。

 すると、村の奥から歩くような速さで走ってくる小さな女の子の陰が見え…。

「はぁ、はぁ、パルチェおじょうさま~。
 まってくださ~い。はしったらあぶないですよ~。」

 息を切らせながら、おっとりとした雰囲気の幼女が駆け寄って来たよ。
 パルチェより、一、二歳年上、ロコト君と同じ年回りの女の子だったの。

 女の子は目の前まで来ると、前屈みになって膝に手を当て…。

「パルチェおじょうさま、おいていかないでくださいよ~。」

 肩で息をしながらそんな不満をこぼしてた。
 どうやら、余り体力がある方ではないようで、歩くような速さでも精一杯に走って来たらしい。

 やがて、呼吸を整えると。

「お館様、無事のご帰還をお慶び申し上げます。
 騎士の皆様も領内の魔物駆除、お疲れさまでございます。」

 先ほど、パルチェちゃんに話し掛けた年相応の話し方とは打って変わり。
 五歳ほどの子供とは思えないくらい丁寧な言葉を口にして、深々と頭を下げたんだ。
 幼児がそんな言い回しを思い付く訳無いし、そう挨拶するように厳しく躾けられているんだろうね。

「おう、リンカちゃんも元気そうだね。
 いつも、パルチェの子守りをしてくれてありがとう。
 まあ、そんな、お行儀良くしないでも良いから。
 ほら、頭を上げて。」

 リンカと呼ばれた少女は頭を上げると。

「ありがとうなどと勿体ない。
 わたしこそ、パルチェおじょうさまにお仕えできて幸せです。」

 これ、悪質な洗脳でもされているんじゃないかと疑うほど模範的な返事をする五歳児。
 オベルジーネ王子はそんなリンカちゃんの頭に手を乗せて優しく撫でると。

「リンカちゃんは本当に良い子だね。
 でも、もっと、肩の力を抜いても良いんだよ。」

 そんな王子の誉め言葉を聞いて、リンカちゃんは嬉しそうにはにかんでいたよ。

        **********

 おいらは王子と娘のパルチェちゃん、それに使用人のリンカちゃんのやり取りを眺めてほっこりしてたんだけど。

「あの王子、控え目に言っても最低ですね。」

「ホント、女の敵だね。王子じゃなければ首を絞めてやりたいよ。」

 おいらの後ろで、護衛騎士のタルトとトルテがこっそりそんな会話を交わしてたんだ。
 周囲に聞こえないように声を潜めているけど、残念、おいら、耳は良いんだ。しっかり、聞こえたよ。

「何が最低だって?」

 おいらも声を潜めて会話に加わると。
 タルトはおいらの手を引いて、王子達の一団とは少し距離を取ったの。

 そして。

「どう見たって、あの使用人の女の子、チャラ王子の娘じゃないですか。」

 タルトがこっそりリンカちゃんの金髪を指差しながら言うと。

「リンカちゃん、どうみてもロコト君と同じくらいの歳です。
 それってクコさんって人が有りながら、隠れて別の女の人と子作りしてたってことですよ。」

 トルテは小声でリンカちゃんの歳のことを指摘したんだ。
 確かに、リンカちゃんの絹糸のような金髪はロコト君そっくりだよ。そして、パルチェちゃんの髪の毛とも。
 
「いいえ、二股じゃなくて、三股ですね。
 パルチェちゃんの歳を見るに、ほぼ同時期に三人の女性と関係を持っていたはずです。
 しかも、三人とも孕ましちゃったと…。不誠実にもほどがあります。」

 汚物を見るような目でチャラ王子を見詰めて、タルトはそう断言したんだ。
 いやいや、リンカちゃんの金髪は偶然かも知れないじゃない。母親譲りかも知れないし。
 でも、タルトもトルテも、リンカちゃんをチャラ王子の娘と決めつけているようで…。

「なによりも許せないのは、自分の娘を使用人として扱っているところです。」

「そうですよ。姉妹なのに、方やお嬢様で、方やその子守り役だなんて…。
 リンカちゃん、不憫過ぎます。
 聞いたでしょう、幼女とは思えないあの言葉遣い。
 きっと、折檻交じりで厳しく躾けられてるに違いありませんよ。」

 などと話し始めたタルトとトルテ。
 終いには、言われたように出来ないと、鬼のような奥様から虐待をされたんだろうなんて言い出したよ。
 食事抜きや鞭打ちとかされて、きっと背中はミミズ腫れだらけに違いないとか、変な妄想が膨らんでた。

          **********

 タルトとトルテのそんな妄想話に付き合っていると。

「マロンちゃん達、そんなところで何コソコソ話してるん?
 そろそろお屋敷に行くよ~。」

 魔物をぶら下げた天秤棒を担いだまま、空いた片手でパルチェちゃんと手を繋いで歩き始めるオベルジーネ王子。
 パルチェちゃんのもう一方に手には、リンカちゃんの手が繋がれていたよ。
 三人並んで歩く姿は、確かに仲の良い姉妹に見えないことも無かったんだ。

 そして、クコさんのお屋敷そっくりな建物の前まで来ると。

「ダーリン、お帰りなさ~い!」

 玄関前で出迎えてくれたのは、クコさんよりまだ若いお姉さんだった。
 魔物をぶら下げた天秤棒を降ろしたばかりの王子に駆け寄ると、その勢いのまま抱き付き。

「ダーリン、ちっとも帰ってこないんだもん。
 私、寂しかったの。
 あんまり放って置かれると、拗ねちゃうから。」

 お姉さんは、そう言って少し拗ねたようなしなを作って見せたんだ。
 これが、タルト・トルテの言うところの鬼のような奥様かい…。おいらには無邪気な娘さんに見えるんだけど。

「ハニー、寂しい想いさせてゴメンねぇ。
 今日はうんとサービスするから赦してちょ。」

 チャラ王子ったら、その場で他人目を気にせずお姉さんと熱い口付けを交わしたの。

「あーずるい、マミーばっかり。
 パピーとしゅきしゅきしてー。
 パルチェもしゅきしゅきするのー。」

 自分の母親にヤキモチを焼いて、王子にキスをせがむパルチェちゃんの仕草がとても微笑ましかったよ。

 その時。

 「オホン!」

 わざとらしい咳払いがしたので、そちらに目を向けると。
 そこにはメイド服に身を包んだ二十歳過ぎくらいのお姉さんが立ってたの。
 二十二、三歳かな? 二十五歳までは行ってないように見えるけど…。

「奥様、御館様のお帰りを心待ちにされていたのは分かりますが。
 少しは他人目というものを気にされた方が宜しいかと。
 お客様が見てらっしゃいますよ。」

 何処かリンカちゃんに似た柔らかい雰囲気のメイドさんが、周囲の視線を気にしろと若い奥様に注意すると。

「あら、いけない。
 ダーリンに夢中で、周りに気を配っていませんでした。」

 メイドさんに注意されて初めておいら達の存在に気付いた様子だったよ。

「レイカちゃん、おひさ~。元気そうだね。
 いつまで経っても、オコチャマのハニーを補佐してくれてありがとね~。」

「まあ、ダーリンったら、オコチャマだなんて。
 ダーリン成分が欠乏したんで甘えたかっただけじゃないですか。
 普段はチャンとお仕事してますよ。」

 オベルジーネ王子に子供扱いされて、頬を膨らませて拗ねる若奥様。
 そんな若奥様に。

「奥様、オコチャマではないと仰るのなら。
 先ずは、お客様方にご挨拶をされた方が宜しいのでは?」

 レイカさんは冷静なツッコミを入れてたよ。
 指摘された若奥様が、おいら達に向けて言った挨拶はというと…。 

「失礼いたしました。
 私、この村の領主代行フルティカと申します。
 領主は娘のパルチェなのですが。
 何分、このようにまだ幼少でございますので。
 私が領地を仕切らせて戴いております。」

 そう言えば、その名前、聞き覚えがあるよ。
 確か、リュウキンカさんからヒュドラの前に放り出された時に口走ってた気が…。
 
 お母さんが領主代行で、幼い子供が領主ってのは、クコさんのところと同じだね。
 平民の娘さんにお手付きしちゃった王侯貴族が、できた子供に対し養育費代わりに領地を与えるってヤツだ。

 このチャラ王子、クコさんと同時期にもう一人、お手付きしてたんだ。そこは、タルトとトルテの想像通りだったよ。
 おいらが軽蔑の眼でチャラ王子の姿を眺めていると。

「マロンちゃん、何か言いたいことが有りだねぇ~。
 ボクちん、そんな目で見られるとゾクゾクって来ちゃうよ。
 まあ、言いたいことは分かるしぃ。
 後でゆっくり説明するよ~。
 子供のいる前で話す事でも無いしねぇ。」

 どうやら、おいらの視線が意味するところをこいつも理解できたみたいだよ。
 そんな訳で、おいら達はフルティカさんの屋敷に招き入れられたんだ。
 
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