神の居る島〜逃げた女子大生は見えないものを信じない〜

月島一風(つきしまいちか)、ニ十歳、女子大生。

一か月ほど前から彼女のバイト先である喫茶店に、目を惹く男が足を運んでくるようになった。四十代半ばほどだと思われる彼は、大人の男性が読むファッション雑誌の“イケオジ”特集から抜け出してきたような風貌だ。そんな彼を意識しつつあった、ある日……。

「一風ちゃん、運命って信じる?」

彼はそう言って急激に距離をつめてきた。

男の名前は神々廻慈郎(ししばじろう)。彼は何故か、一風が捨てたはずの過去を知っていた。

「君は神の居る島で生まれ育ったんだろう?」

彼女の故郷、環音螺島(かんねらじま)、別名――神の居る島。

島民は、神を崇めている。怪異を恐れている。呪いを信じている。あやかしと共に在ると謳っている。島に住む人間は、目に見えない、フィクションのような世界に生きていた。

なんて不気味なのだろう。そんな島に生まれ、十五年も生きていたことが、一風はおぞましくて仕方がない。馬鹿げた祭事も、小学校で覚えさせられた祝詞も、環音螺島で身についた全てのものが、気持ち悪かった。

だから彼女は、過去を捨てて島を出た。そんな一風に、『探偵』を名乗った神々廻がある取引を持ち掛ける。

「閉鎖的な島に足を踏み入れるには、中の人間に招き入れてもらうのが一番なんだよ。僕をつれて行ってくれない? 渋くて格好いい、年上の婚約者として」

断ろうとした一風だが、続いた言葉に固まる。

「一緒に行ってくれるなら、君のお父さんの死の真相、教えてあげるよ」

――二十歳の夏、月島一風は神の居る島に戻ることにした。




(第6回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった方、ありがとうございました!)
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