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アイイロモンペ

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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第766話 実は多くの信奉者がいるらしい…

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 クコさんの領地には新米領主のサポート役として王宮から派遣されてきたお役人が五人ほどいるのだけど。
 何故か、クコさんに対して並々ならぬ忠誠心を持っているように感じたんだ。

 それを窺わせる発言をした侍女服のお姉さんや護衛の騎士さんは、その立ち居振る舞いから生粋の貴族に見えるのだけど。
 一方のクコさんは農民の出自だと言う。
 ぽっと出の成り上がり領主と王宮の命令でド田舎に派遣されてきた貴族の役人。
 普通に考えれば、クコさんに対して不満の一つも持っていそうなものだけど、不思議なことにクコさんに心酔している感じなの。
 てか、どう見てもひ弱なクコさんに屈強な騎士が救われたっていったい?

 おいらが首を傾げていると。

「ニャハハ、クコちゃん、人気者だから。
 若手貴族に限って言えば、クコちゃんが王宮で一番支持者を抱えてるよ。」

 オベルジーネ王子が茶化すように言ったんだ。

「なに、それ?」

「嫌ですわ、旦那様。そんな大げさな。
 マロン様が誤解されますよ。」

 クコさんは恥ずかしそうに、誇張し過ぎだと王子に注意してた。
 ってことは、あながち間違いって訳でもないんだね。

 クコさんは控え目に言うけど、侍女のお姉さんはそうは思っていない様子で。

「そんなことはございません。
 クコ様が教授して下さらなければ、『図書館の試練』をクリアできませんでした。
 リミットが迫る十八の時、父から宣告されていたのです。
 試練をクリアできなければ一族から追放すると。」

 そう口火を切ると、どれだけクコさんに助けられたか切々と説いたんだ。
 世間知らずの深窓の令嬢だった侍女のお姉さんにとって、父親の言葉は死刑宣告に等しいものだったらしい。
 このお姉さん、学問が苦手で、いざとなればとっとと嫁に行けば良いと呑気に構えてたみたい。
 別に貴族として働く訳じゃ無し、何処ぞの貴族に嫁入りするのであればクリアする必要も無かろうと。
 だけど現実は無情で、父親から出た言葉が『無能な娘を嫁に迎える貴族が何処にいるか』だったって。
 期限までにクリアしてなければ、即刻家を追い出すと言われたそうだよ。『そんな恥晒し、一時たりとも置いておけない』って。

 残された時間は二年弱、このお姉さんは第二試練すら突破できてない状況で途方に暮れていたそうなの。
 図書館の閲覧室で青い顔をしてたら、不意に『顔色が優れませんが、どうかなさいましたか?』と声を掛けられたんだって。
 声を掛けて来たのが誰あろうクコさん。お姉さんは見ず知らずのクコさんに愚痴ったそうだよ、家を追い出されそうだと。

 お姉さんの話を聞いて気の毒に思ったクコさんは、分からないところがあれば教えようかと提案したらしいの。

「クコ様の教え方はとても分かり易くて。
 しかも、身重の体、辛い悪阻をおしてご教授して下さったのです。
 おかげで奇跡的に期限内に三つ目の試練までクリアできました。
 父など感激してしまい、クコ様を妃にと推すほどの信奉者になってます。」

 クコさんのおかげで、ほぼ絶望と思えた試練達成を成しえたんだって。
 これには侍女のお姉さん以上に、ご両親が喜んだみたいだよ。
 このままだと、一族を追放するか、毒を盛るか、二つに一つだと思い詰めていたらしいから。
 ご両親、クコさんが妃になりたいのなら同志を集めて応援するとまで言ってたみたい。

 そんな訳で、オベルジーネ王子からクコさんをサポートして欲しいと依頼されると即決で承諾したそうだよ。

「俺なんか、親父からクリアできなければ首を刎ねると脅されてたんだ。
 親父なんか、見るからに脳筋なのに。
 あれで、あんな難しい試練をちゃんとクリアしているなんて思いもしなかった。
 俺はてっきり騎士の家にはなんか特例でもあるのかと思ってたぜ。」

 あったね、脳筋向けの特例。自分で新たに領地を開拓すればその代に限り試練を免除するって。
 でも、この兄ちゃん、それすら知らなかったらしいの。
 ただ、ピーマン達と違って、騎士としての鍛錬は一時たりとも怠ったことはないそうで。
 騎士には別の基準があると信じて、真面目に体を鍛えていたんだって。…根っからの脳筋なんだ。

 少しは調べろよと言いたいけど、一向に学ぼうとしない息子を父親は心配したとのことで。
 改めて『図書館の試練』をクリアしないと貴族籍を剥奪されることを告げられたそうなの。
 と同時にこの国の暗部も知らされたらしいよ。試練をクリアできないと不慮の事故か病気で命を落とすことになるって。
 この兄ちゃんの場合、不出来な息子を作った罪滅ぼしに自分が首を刎ねると、父親が宣言したらしい。

「親父のあの顔はマジだった。
 俺、本当にヤバいと思ったもん。
 でもよ、俺、魔物狩りは得意だけど…。
 頭を使うのは苦手でよ。」

 兄ちゃん、チンプンカンプンの本を前にして、余命いくばくもない我が身を儚んでいたらしい。
 それから先は、侍女のお姉さんと同じ。偶々通り掛かったクコさんが手を差し伸べたんだって。

「じゃあ、もしかして、ここに仕えている人達って?」

「そう、全員、クコちゃんが手を貸して『図書館の試練』をクリアさせた人達だしぃ。
 もっと、もっと、沢山いるけど、一番恩義を感じてて絶対に裏切らないと信頼できる人を厳選したんだよ~。」

 以前アネモネさんから、この国では『図書館の試練』をクリアすることが貴族として認められる絶対条件だと聞いてた。
 その時の話では、長い年月の中でクリアできなかった人はほんの一握りと言うことだったけど…。
 実はその裏で、クリアできそうもない不出来な子息子女は、病死・事故死って名目で闇から闇へ葬られていたとも。
 それでも、そんな人は数年に一人居るか居ないかだとも聞いていたんだ。

 おいら、数年に一人とは落伍者が随分と少ないんだなと疑問に思っていたんだ。
 この時、クコさんに仕える人達の話を聞いて合点がいったよ。

 試練に落伍しそうな子は同年代の優秀な子に指導してもらうって慣行が従来からあるらしいの。
 優秀な子はそんな子達を指導することで恩を売り、自分の派閥に取り込むんだって。
 そうして成人する頃には、同世代の貴族の間で頭脳優秀な子供を中心とする派閥が出来上がるみたい。

 王宮側もそれを推奨しているらしいよ。
 人には群れる習慣があるので、人が集まれば派閥が出来るのはある意味仕方のないことだから。
 血縁とか家柄なんかで愚かな派閥を作られるより、優秀な人を中心にその手足となって働く人が一つの派閥を作る方が遥かにマシだと。

 同世代の中で飛び切り優秀な数名がそれぞれ派閥のメンバーを教え導くことで、落伍者を出さない仕組みを作っていた訳だ。
 そして、指導役として落伍しそうな人を救った優秀な者が、派閥を従えてその世代の出世頭になるんだって。

 ご多分に漏れず、妃候補の二人もとても優秀で、多くのご令嬢に恩を売って従えているらしい。

 因みに、クコさんの信奉者がとても多いのは、ペピーノ姉ちゃんやチャラ王子から鞍替えした人が沢山居たからだって。

「ボクちんもそれなりに出来る子だと思ってるけどさぁ。
 そのボクちんですら、クコちゃんに教えてもらってるんだよ。
 誰だって、ボクちんよりクコちゃんから教えてもらった方が良いと思うじゃん。
 クコちゃんの方が教え方も上手いしぃ。」

 なんて、チャラ王子は言ってたよ。
 ペピーノ姉ちゃんも優秀だと評判なので、助けを求めてやってくる人は多いらしいけど。
 ペピーノ姉ちゃんは天才過ぎて普通の人が何処で躓いているか理解できないらしい。
 そのため教え方がとても下手で、ボーダーライン上で尻尾に火が付いている人には端から理解不能らしい。

 クコさんは丁寧かつ分かり易い教え方で信奉者を増やしていったそうだよ。
 王宮に住んでいた二年半の間で密かに最大派閥を築き上げていたみたいなの。
 もっとも、貴族の習慣なんて知らないクコさんは、そんなことになっているとは全く気付かなかったようだけど。

 そんな訳で、今、領地経営のサポート役として王宮から派遣されてきている人達は皆クコさんの信奉者らしい。
 本当に良くサポートしてくれるので領地経営は順調に滑り出したと、クコさんはとても喜んでたよ。

              **********

 夜も更けてお開きになると、アルトから『積載庫』の中で眠るように言われたよ。
 用意してもらった寝室だと、サカリの付いた猫の鳴き声が煩くて寝不足になるだろうからって。

 この領主館で猫を見た覚えはないんだけど、アルトが言うのだから何処かに飼っているんだろうね。
 そう考えて、おいらはアルトの指示に従うことにしたよ。

 おいらとオランに割り当てられた『特別室』、いつも通りアルトも一緒に寝ることになったの。

「ねえ、クコさんって、十三歳でロコト君を身籠ったんだって。
 今のおいらと同じ歳だよ。
 おいらもオランの赤ちゃんを作ること出来るのかな?」

 オランとアルトの前でそんなことを口に出すと。

「……」

 オランは無言でおいらに向けた視線を上下させ、ペッタンコな胸の辺りを見てため息を吐いたよ。
 おい、何が言いたい…。
 おいらが少しムッとしていると。

「なに言ってのよ。
 マロンはまだ子供を作れる体じゃないでしょう。」

 何を戯けたことをって感じでアルトが言うんだ。

「でも、クコさんは?」

「当時のクコさんがどんな体つきだったかは知らないけど。
 マロンの体は、年齢より一つ、いえ、二つくらい発育が遅れて見えるわ。
 あと、一、二年したら体も育つでしょから、のんびり待ちなさい。
 そんなに急いで大人になる必要も無いでしょう。」

 発育が遅れているのは五歳から八歳に掛けての栄養不良のせいじゃないかと、アルトは言うの。
 特に五歳の頃、餓死しかけた影響が大きいのだろうって。。
 育ち盛りに栄養が不足すると発育が遅れるのはままあることらしい。

 すると、アルトはオランに視線を移し。

「私、心配なのはむしろオランの方よ。
 何で、この子、女の子のような姿のままなの?
 普通、十四歳ともなるともう少し、筋肉ばってくるとか…。
 王宮育ちなのだから、栄養不足ってことは無いと思うのだけど。」

 そんな呟きをもらして首を傾げたの。
 おいらは女の子みたいなオランが大好きなんだけどな…。筋肉ムキムキのオランなんて想像できないよ。

「それには、私も少し気にしておったのじゃ。
 それで思い当たることがあるのじゃ。
 王宮では毎日姉上と一緒に同じものを食べていたのじゃ。
 肥満防止のために極力肉類を廃した料理を。」

 ネーブル姉ちゃんの食事は、野菜・果物・魚介中心で肉類は殆ど出て来ないらしい。
 魚介類も鯛とかヒラメとか淡白な白身が中心で、脂の乗った魚は使われてなかったそうだよ。

 オランを溺愛していたネーブル姉ちゃんは、オランが筋肉ムキムキな体形にならないようにと同じ食事を用意させたらしいの。
 何時までも女の子みたいな可愛いオランでありますようにとの願いを込めて。

 おいらと一緒に暮らし始めて広場の屋台で串焼き肉を食べるまで、これぞ『肉』って料理を食べた記憶がオランには無いんだって。

「なにそれ、呆れた…。
 あの娘ったら、自分の趣味のためオランの成長を妨げてたの?
 男の子にしては線が細いと思っていたら…。」

 可哀そうな子を見るような目を向けて、アルトはオランを憐れんでいたよ。

「でも、成長が遅いのは病気では無いので、安心して良いのじゃ。
 この間、風呂場で私の股間を洗っていたウレシノが言ってたのじゃ。
 『大分、育ってきましたね。』と。
 後一年もすれば子作りの実技指導が出来そうだと喜んでいたのじゃ。」

 メイドとして雇い入れて以来、お風呂でおいらとオランの体を洗うのはウレシノの仕事になったの。
 ウレシノは何か観察するように、オランの股間をいつも念入りに洗っているんだ。
 それとどんな関係があるのかおいらには分からないけど、ウレシノはオランの成長具合を観察していたらしい。

「あのショタコンメイドは…。
 まあ、なんにせよ、あんたら二人に子作りはまだ早いわね。
 そう焦る必要は無いから、のんびり構えていれば良いわ。」

 ウレシノに対して何か呆れているようだったけど、アルトはそう結論付けるとこの話はここまでとなったよ。

 まあ、おいらもそう急いで子供が欲しい訳じゃ無いけど。
 王族がおいら一人しかいないものだから、時々宰相あたりが言うんだよね。…早く御子が見たいって。
 でも、アルトが無理だと言うのなら、焦っても仕方が無いね。
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