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第十一章 小さな王子の冒険記

第246話 無礼者を成敗したよ

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「呆れた…、このならず者みたいなのが王の使者だなんて。
 まるで、質の悪い冒険者か、奴隷商人のようだわ。
 まあ良いわ、ここまで悪党なら何の遠慮も要らないものね。」

 耳長族狩りに来たことを隠そうともしないウエニアール国の使者にアルトは呆れていたよ。
 
「王様、あなたも大変ね。
 こんな愚か者にも真面目に対応しているなんて。
 問答無用で叩き出せば良いのに。」

 アルトが同情の言葉で労うと、

「いえ、この方達は王の親書を携えた正式な使者ですのでそうも参りませんのです。
 確かに目に余る振る舞いもございますが、我が国は無用な争いは好みませんから。
 事を荒立たせるより、丁重にお話してお引き取り願おうかと思っている次第でして。」

 と答えた王様は、これも仕事ですからと苦笑してたよ。

「おい、黙って聞いていれば。
 羽虫の分際で、舐めたことをかすじゃねえか。
 ふざけたこと吐かしてると絞め殺すぞ。」

 アルトと王様のやり取りを耳にして使者のオッチャンは腹を立てたようだけど。
 そんな使者に、王様が窘めたの。

「これこれ、お客人、その方は到底敵う相手ではないぞ。
 その方の機嫌を損ねるのは、やめておいた方が良いと思うぞ。
 私は忠告した故、どうなっても責任は持たんぞ。」

 再度、王様はアルトの機嫌を損ねるなと忠告したんだけど。
 王様、ちゃっかり、自分は逃げをうっていたよ。

「いったい何なんだ。
 仮にも一国の王が、こんな羽虫一匹にビクビクしやがって。
 妖精の伝承なんて、作り話に決まっているだろうが。
 この国の連中はとんだ腰抜け揃いだぜ。
 こんな羽虫、こうして潰しちまえば良いだろうが。」 
 
 やっぱり、使者のオッチャンは王様の忠告に耳を貸そうとしないかったの。
 そのまま考えなしに、アルトを握り潰そうと手を伸ばしたんだ。 

「汚い手で触るんじゃないわよ!」

 バチン!

「痛てぇ!」

 伸ばした手にアルトのビリビリを受けて、手を押さえた使者のオッチャン。
 どうやら、アルトはかなり手加減をしたようだよ。

「私はトアール国に面した『妖精の森』の長、アルトローゼン。
 あんた達が捕らえようとしている耳長族の庇護者よ。
 このまま素直に国に帰るのなら見逃して上げるけど。
 もし、耳長族に手出しをしようとするなら、絶対に赦さないわ。」

 アルトが最後通告をしたんだけど、…。
 手にビリビリを受けて使者のオッチャンは頭に血がのぼってるみたいで。

「この羽虫、やりやがったな。
 てめえが、耳長族の庇護者だって。
 この国の腰抜け共、てめえに怯えて耳長族に手出し無用だなんて言ったのか。
 こりゃ、ちょうど良いところで会ったぜ。
 てめえを殺っちまえば、耳長族を捕らえることに文句言う奴はいなくなるってことか。」

 アルトに敵対する意思を明らかにしたんだ。ホント、おバカさん。

「あっそう、大人しく引き下がると言うのなら見逃して上げたのに。
 良いわ、その言葉を吐いたことを後悔させてあげる。」

「アルトローゼン様、しばし、お待ちを!」

 敵愾心を剥き出しにしているオッチャンをアルトが懲らしめようとすると、王様から待ったが入ったよ。

「あら、邪魔する気なの?」

「いえ、邪魔する気はございませんが…。
 出来れば、場所を変えて頂けないかなぁと思いまして。
 何分、この部屋は賓客との打ち合わせに使う会議室でして…。
 無茶苦茶にされると、修繕費が嵩むと申しましょうか…。」

 王様、とっても歯切れが悪いけど、ここで殺られると経費が嵩んで困るということみたい。
 前回アルトが焦がしちゃった謁見の間の修繕が大変だったんだろうね。 

「あっそ。じゃあ、庭にでも行きましょうか。」

「てめっ、何を…。」

 王様の要望を聞くと、アルトは使者のオッチャンに話す間も与えずに『積載庫』に放り込んだよ。
 ウエニアール国側の騎士七人全員ね。

 そして、残る三人の文官に言ったの。

「あんた達、耳長族に手を出そうとする愚か者がどうなるか見せてあげるから付いて来なさい。
 その末路を良く目に焼き付けて国へ帰るのよ。
 そして、国へ帰ったらありのままを愚王に報告しなさい。」

 席に残された三人の文官達は、騎士が突然消えて呆然としてたけど。
 アルトの仕業だと理解すると、素直に従うことにしたみたい。
 相手は屈強な男七人を一瞬にして消せるような得体の知れないモノだもんね。
 普通の感性をしていれば、歯向かおうなんて思わないよね。

      **********

「アルト様、ここでしたらご自由になされて結構です。
 誰も見ている者もいませんし、気の済むまでご存分に。」

 王宮の裏庭を人払いして王様がアルトに言ったの。
 前回、ウエニアール国の使者を消滅させちゃったのが、余りに凄惨な光景だったからね。
 貴族の中には、しばらくうなされたと言う人達がいたんだって。

 だから、今回は人払いをして無関係の人の目に付かないように配慮したみたい。

 王様の許可があったんで、アルトは七人の騎士を『積載庫』から解放したんだ。

「おい、ここはいったい何処だ。
 俺達がさっきいた何もないだだっ広い場所は何なんだ。」

 突然目の前の景色が変わって狼狽した様子のオッチャンが尋ねてきたの。

「ここは、王宮の裏庭。
 あなた達の処刑場よ。
 さっき言ったでしょう、耳長族に手出ししようとする者は赦さないって。」

「俺達を処刑するってか?
 羽虫風情がでけえ口を叩きやがって。
 やれるもんならやってみやがれ!」

 ホント、馬鹿だね。
 何でこの国の王様があれだけアルトに気遣っているのかを少しは考えれば良いのに。

 アルトを侮って威勢の良いことを言ってるオッチャンに。

「そう、じゃあさよなら。
 苦しむのは一瞬だけど、自分の愚かさを悔やみなさい。」

 アルトが冷淡な言葉をかけた次の瞬間、外部の視界が閉ざされたよ。
 残酷な光景は、おいらやオランには見せないという配慮みたい。

「アルト殿の愛らしい姿は罪作りなのじゃ。
 外見に惑わされて、侮る者が出てくるのは仕方ないのじゃ。 
 しかし、ウエニアール国の者は何故あのように愚かなのじゃ。
 子供の頃から妖精の機嫌を損ねるなと教わるはずなのじゃが…。
 あの国では親が教えてないのじゃろうか?
 だとしても、父上があれだけ下手に出ておるのじゃから、少しは考えれば良いものを。」

 『特別席』の窓が外部から遮断されるとオランがそんな呟きを漏らして呆れたよ。
 そうだよね、十歳児でもそのくらいの分別はつくよね。あいつら、ホント、愚かだよ。

 おいらがオランの言葉に頷いていると、再び窓の外の景色が見えるようになって。
 余程凄惨な光景だったのか、文官三人は地面に蹲って嘔吐いえずいていたよ。
 アルトに毒づいていた騎士はいなくなっているし、裏庭が焦げているしね。

 他方、残る六人の騎士はというと…。

「貴様!
 羽虫の分際で隊長を殺めるとは断じて赦さぬぞ!」

 一人の騎士がそう言うと、全員が懐から懐剣を取り出してアルトに襲い掛かって来たの。

「あ奴ら、この国の王である父上との会見に懐剣など持ち込んでおったのか。
 何たる、礼儀知らずの輩なのじゃ。」

 オランはそんな言葉を口にしたけど、王と会見する時の常識として武器の持ち込みはタブーらしいよ。
 広いテーブルを挟んでいるし、護衛の騎士も王の後ろに控えているのでボディチェックはしないそうだけど。
 常識を弁えていれば、王の親書を携えて来る者が武器など所持しないはずだって。

 まあ、聞いた話だと、王様からしてならず者みたいな国だしね。

 そんな会話をしているうちにも、六人の騎士がアルトに襲い掛かって来て…。

「ええい、鬱陶しい!」

 バリ!バリ!バリッ!

 アルトのビリビリが六人を一網打尽にしたんだ。
 今回は視界が閉ざされないんで、殺すつもりはないみたいだね。

 アルトのビリビリが収まると、そこには折り重なるように倒れ伏す六人の騎士が…。
 みんな、髪の毛が焦げてプスプスと煙を上げてたよ。

「この愚か者共を連れて帰りなさい。
 そして、愚王に伝えるの。
 こうなりたくなければ、耳長族に手を出すなってね。」

 アルトが愚か共を指差しながら、文官三人に命じていたよ。

「わっ、分りました。
 この者どもを連れ帰って、必ず陛下にお伝えします。」

 一番年嵩の文官さんが、額に汗を浮かべながら返答したんだけど。
 アルトはダメ押しをするように、文官三人を前にこんなことを言ったの。
 ウエニアール国の愚王が諦めないのを念頭にね。

「王様、約束通り、この国を護る妖精たちを連れて来たわ。
 この子が、そこの森に作る新しい『妖精の森』の長、ブランシュよ。
 あなた達王族が、耳長族を庇護するという約束を違えない限りこの国を護ってあげる。
 例え何千の兵を送りこまれても撃退してあげるから安心しなさい。」

 ブランシュを始めとしてずらっと並んだ十人の妖精。
 それを目にした文官達は顔面蒼白だったよ。

 文官達は妖精十人にはどうあがいても勝ち目が無いと理解したようで。
 なんとしても愚王に耳長族を諦めさせないといけないと、感じたみたい。
 ウエニアール国の王様をどうやって説得すれば良いのか頭を悩ませてるんだろうね。
 
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