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アイイロモンペ

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第十一章 小さな王子の冒険記

第245話 こんなのが使者だなんて…

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 アルトが王様と話がしたいと希望したんだけど、どうやら王様はお取込み中らしいよ。
 相手はウエニアール国からお客さんらしくて、何やら手を焼いているみたいなの。

「なーに、あいつらまた来たの? 本当に懲りない奴らね。」

 アルトは呆れた顔をしているけど…。
 ウエニアール国の連中は、派遣した騎士がアルトにやられちゃったことを知らないからね。
 懲りるも何もないんじゃないの。

「向こうの王様、最初に派遣した使節団が中々帰ってこないので、焦れたみたいでさー。
 第二陣を送って来たんだけど、これがもう何処のならず者だよという連中で。
 話しが通じなくて、ホント、困ったちゃんなんだよ。」

 相変わらずチャランポランな口調だけど、王様は本当に困っているみたいなの。
 前回は友好使節団の体裁を整えて来たので歓迎したそうなんだけど。

 今回は見るからにならず者といった風体の騎士が使者として渡来したらしいよ。
 シトラス兄ちゃんは、いったい何処の冒険者だよと心の中でツッコミを入れたって。

 儀礼的な挨拶も抜きに、「最初に遣わした使節団はどうした。」って恫喝するように迫って来たらしいの。
 まるでシタニアール国が使節団を害したかのように、イチャモンを付けてきたみたい。

 騎士はアルトの勘気に触れて消されちゃって、文官は国に嫌気がさして亡命しちゃったとは流石に言えないからね。
 シタニアール国の官吏は、そんな使節団は来ていない、海で遭難でもしたのだろうとシラを切ったそうなの。

 実際、船旅ってそんなに容易い事じゃないらしいよ。
 海が時化て船が難破することもあれば、海の魔物に襲われることもしばしばあるみたい。

 対応した官吏の受け答えが上手かったのか、ウエニアール国の連中、それは納得してくれたようなの。
 第一陣がシタニアール国へ到達していないと知ると、使者は友好のための社交辞令も無しで言ったらしいよ。

 耳長族の女を、まとまった数、捕まえて帰りたいから手を貸せって。

 シトラス兄ちゃんもその場で聞いていたらしいけど、耳を疑ったって呆れてた。
 まさか、初めて訪れた国の王宮で、いきなり人を拉致するから協力しろなんて言う者がいるなんて思いもしなかったって。

 もちろん、宮廷の官吏は即座に断ったらしいの。
 この国では、いかなる形であろうとも耳長族に危害を加えることは禁止されていると説明してね。
 ところが、その使者たちは、見た目通りならず者みたいな連中で納得しなかったようなんだ。

 それで、今でも王宮に居座って、耳長族狩りに協力しろと騒いでいるらしいよ。

「ホント、言葉の通じない無法者は困るのよね。
 自分の主張ばかり言って、他の者の言葉に耳を貸さないのだから。
 良いわ、私を王様の所に案内してちょうだい。」

 アルトもとっとと片付けてしまうことにしたみたい。

      **********

 おいら達は一旦アルトの『積載庫』に戻り、アルトだけがシトラス兄ちゃんに付いて行ったの。

 案内された部屋に入ると…。

「なあ、王様よ、堅いこと言ってねえで少しは協力したらどうだい。
 我が王は、耳長族の綺麗処を二、三人ご所望なんだよ。
 俺達だって、しんどい思いしてここまでやって来たんだ。
 手ぶらで帰る訳にはいかねえんだよ。」

 シトラス兄ちゃんの言葉通り冒険者と見紛うばかりのガラの悪い男が王様に詰め寄っていたよ。
 一体どんな躾を受けて育ったんだろう、他国の王様に対する言葉遣いじゃないね。
 目上の人に向かってこんな話し方するなんて、お里が知れちゃうよ。

 大きなテーブルを挟んで片側には王様を中心にこの国の官吏が五人ほど並んでいたの。
 向かいの席に座っているウエニアール国の使者は十人。
 今王様に失礼な事を言った騎士を中心にガラの悪い男が七人真ん中の方に座っていて。
 文官と思われる気弱そうな三人は隅っこで小さくなっていたよ。

 前回の使節団は表向きグラッセ子爵を代表として立ててたけど。
 今回は不良騎士に抑えの利く人材がいなかったみたい。

「王様、こんにちは。しばらくぶりね。
 何か、お取込み中かしら?」

 そんな中にアルトは軽い挨拶をしながら交渉の場に割り込んだんだ。
 全く事情を知らないふりをしてね。

「おお、これは、アルトローゼン様、お久しぶりでございます。
 歓待させて頂きたいところですが、いささか取り込み中でございまして。
 申し訳ございませんが、后がお相手させて頂きます故しばらくお待ち願えますか。」

 王様は、アルトに対して丁重に答えたの。
 『積載庫』の窓から視る王様の目は、助けてくれと懇願しているようだったよ。

「あら、何か困った事でも起こっているの?
 顔色が冴えないようだけど、ここにいるならず者が原因かしら。
 あなたも真面目ね、こんな無礼者のお相手までしているなんて。」

 アルトは言外に「こんな奴ら摘まみ出せば良いじゃないか」と匂わせてたよ。

 すると。

「何だ、何だ、この無礼な羽虫は?
 今は、ウエニアール国の陛下より遣わされたこの俺が大事な交渉の最中だ。
 羽虫如きがしゃしゃり出て話の邪魔をするんじゃねえよ。」

 自分は王様に対してあんな無礼な話し方をしておいて、アルトには無礼だと文句を付けるんだ…。
 しかも、このオッチャン、いきなり虎の尾を踏んでるし。アルトを『羽虫』と呼ぶなんて。

 おいらもまだ九歳だからはっきりとは言えないけど。
 傲慢で、浅慮な人ほどアルトを見て、羽虫扱いするんだよね。
 傲慢な人って、妖精の伝承を子供騙しの作り話と決めつけている人が多いみたい。

「これこれ、お客人。
 私に対する言葉遣いは多少大目に見て進ぜるが。
 妖精のアルトローゼン様はそうはいかぬゆえ。
 迂闊な事は口にせん方が良いぞ。
 お客人も知っておろう、妖精の祟りの話を。」

 根が善人の王様は、親切心から使者のオッチャンに対して忠告をしてあげたんだけど…。

「はあ? 妖精の祟りだ?
 王様、あんた、そんな子供みてえなことを信じているんか。
 俺は妖精なんて珍妙なモノ、初めて見るが。
 こんなちっぽけな羽虫に何ができるって言うんだ。
 さっきから、耳長族も俺達と同じ人間だから狩ったらいけねえとか、ぬかしてるけど。
 あんた、頭、おかしいんじゃねえの。」

 オッチャンは全然取り合うつもりがない様子だったよ。
 しかし、このオッチャン、本当に無礼な奴だな。
 他国の王様をあんた呼ばわりとかも酷いけど…。
 頭がおかしいなんてよく言えるよね、無礼打ちにされるとか思わないのかな。   

「あら、あんた、耳長族を狩りに来たの?」

「ああ? それがどうかしたってか?
 何時までも歳を取らねえという幻の耳長族が生き残ってたと言うじゃねえか。
 しかも、綺麗処が多いと聞く。
 男なら手に入れたいと思うのが当たり前だろう。
 我が王が二、三人妾として若い耳長族の娘をご所望なんだよ。」

 アルトを侮っているオッチャンは隠そうともしないで言ったんだ。
 それだけじゃくなく、自分達が妾にする分や奴隷売買で小遣い稼ぎする分も捕らえて行くってね。
 今回首尾よく耳長族を捕らえることが出来るようなら、定期的に狩りに来る予定だと言ってたよ。

 他にも王様に、ウエニアール国と組んで耳長族の奴隷交易を持ち掛けたみたいだけど。
 勅令で禁じているとか、耳長族も同じ人間だから狩りなど以ての外だと言って断られたみたい。
 良い金儲けになるのに協力しないなんて信じられないって愚痴っていたよ。

 それを耳にしてアルトはニコニコ笑ってたよ。
 王様がアルトとの約束を守っていたのが嬉しいのか。
 それとも、目の前に新しいオモチャが現れたのが嬉しいのか。

 果たして、どっちだろうね。
    
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