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第七章 興行を始めるよ!・・・招かれざる客も来たけれど

第150話 ワルが考える事って同じだね

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「騎士団長が謀反を起こしたのですか。
 それも妙な話ですね。
 普通なら、そんな事は起こりえないはずですが。
 通常なら王族のレベルが他者を圧倒していて。
 騎士団が束になってかかっても太刀打ちできないのが普通でしょう。
 そのように、レベル管理をしていると聞きますよ。」

 『ウエニアール国』の内乱の話を初めて耳にした父ちゃんは、そんな素朴な疑問を口にしたの。

 父ちゃんが言うように、通常の国では反乱が起こらないように王様のレベルが飛びぬけて高くなってるの。
 そのために、王が高齢や病気で死期が近づくと、次代の王は親殺しをしてレベルを引き継ぐのだから。
 代々それを繰り返して、王は、家臣や親族より十以上レベルが高い状態になっているみたいだよ。

 この国の王は特殊で、二百年前の愚王がアルトにレベルを奪われちゃったので、有力諸侯よりレベルが低いの。
 だから、謀反を起こされないように、有力諸侯のご機嫌を窺いながらまつりごとをしているんだ。

 他の国では、王のレベルが低いとの話は聞こえてこないって。
 ウエニアール国の王は騎士団長よりレベルが十以上高かったはずだと、父ちゃんは言ったの。

「王の政が気に入らない騎士団長は、用意周到な簒奪の計画を練っていたんだよ。
 王に知らせることなく、独断で『魔王』を討伐して自分のレベルを上げたんだ。
 そして故意にスタンピードを引き起こして、討伐させることで配下の騎士団員のレベルも上げたんだよ。
 結果、騎士団長はレベル五十越え、騎士団はレベル二十、三十という猛者がゴロゴロいる状態になっちまった。
 騎士団長が騎士を率いて『魔王』討伐へ向かった時のことだ。
 俺の所に騎士団長に不穏な動き有りという事で護衛依頼が舞い込んだのは。」

 ウエニアール国の王家は、『国は民のためにあるもの、王侯貴族は民を護るためにあるもの』を家訓にしてたらしいの。
 それで、簒奪が起こる八年前までは、税を低く抑えて、王侯貴族は過度の贅沢を控えていたんだって。
 王自ら慎ましやかに暮らしていたんで、他の貴族も逆らえなかったみたいなの。
 だけど、有力貴族家の生まれの騎士団長は、それが許せなかったらしい。
 常日頃から、もっと民から税を搾り取って、貴族はもっと贅沢な暮らしをするべきだと主張していたらしいよ。
 それで、王位を簒奪する機会を虎視眈々と狙っていたらしいの。
 王家の方もそんな言動の騎士団長を警戒していたみたいだけど。
 騎士団長の家が、有力貴族だったんで証拠も無しに更迭できなかったらしいんだって。

 でも、自分の欲のために『魔王』を討伐するなんていう愚か者が、他の国にもいたんだね。
 ところで、その魔王って簡単に倒せるものだったの?

「でも、親分、魔王って言えば、最低でもレベル五十はあると聞きやすぜ。
 一国の騎士団で討伐出来るモノなんですかい。」

 おいらと同じ疑問を持ったようで、父ちゃんが尋ねたんだ。

「その魔王ってのがよ、『』型の魔物でなぁ…。」

 また、何でそんな小動物みたいモノが『魔王』になるの…。
 誰かさんの作為を感じるのは、おいらだけかな。

「はぁ、『シマリスの魔王』が何か?」

 ジロチョー親分がバツが悪そうに言い淀んだんで、父ちゃんは先を促したの。

「『』するんだよ…。」

 意表を突くセリフに、一瞬、部屋の中を沈黙が支配しちゃったよ。
 シマリス型の魔物って、動物のシマリス同様に巣穴で半年くらい冬眠しているんだって。

 用意周到に魔王の動静を調べた騎士団長は、魔王の眠りが深くなる時を狙って討伐に掛ったらしいよ。
 しかも、煙を吸うと体が痺れる薬草を焚いて、十分に巣穴を燻した後で突入する念の入れようだったみたい。

 で、『魔王』から奪った『生命の欠片』は騎士団長が独り占めしたのことなの。
 騎士団員のレベルアップは、枷が外れて暴走した魔王配下の魔物を討伐させることで図ったみたい。
 それで、周辺国でも稀な高レベル騎士で構成された騎士団を作り上げたんだって。

 その手口って、キャラメルが率いていた『番外騎士団』の手口とそっくりだね。
 キャラメルみたいな愚か者が、他にもいたなんてびっくりだ。

      **********

「それで、その騎士団長による簒奪が可能になったんですか。
 国王のレベルは最重要機密なので分かりませんが、…。
 確かに『魔王』のレベルを奪っていれば太刀打ちできそうですね。
 しかも、スタンピードを収めて部下のレベルアップも図っているなら。
 じゃあ、その時、オーマサ兄貴とコマーサ兄貴も…。」

 ジロチョー親分の話を聞いて父ちゃんは、合点がいったみたい。
 兄貴と慕う二人が亡くなったことも、納得がいったのか悲しそうな顔をしてたよ。

「ああ、騎士団長に率いられた騎士団の連中、夜討ちをして来たそうでな。
 王宮を護っていた近衛騎士などあっという間に蹴散らされちまったそうだ。
 勝ち目が無いと悟ったオーマサの奴、若い冒険者を逃がしたらしいんだ。
 『オメーらは、こんなところで死んじゃなんねぇ』って言ってな。
 オーマサ、コマーサと幹部連中は、そのまま王族を庇って闘って…。」

 オーマサさんに逃げろと言われた若い冒険者の人達は混乱に紛れて上手く逃げ出せたらしいの。
 その冒険者の人達、オーマサさん達の安否が気になったとのことで。
 夜襲があった翌日、町の人に混じって王宮の様子を見に行ったそうなんだ。

 そしたら、王宮の前に王族のむくろが晒しモノになっていて…。
 それと一緒に、オーマサ、コマーサさんをはじめとした『ドッチ会』の人達も躯が晒されていたんだって。
 新王に楯突いた大罪人として。

 体が弱っているせいか、ジロチョー親分、涙もろくなっていて。
 最後の方には、ボロボロと涙を零して話していたんだ。

 オーマサ、コマーサさんを始めとした有力メンバーを失った『ドッチ会』は、他のギルドの良い標的になったんだって。
 露骨なシマ荒らしだけじゃなくて、出入りする冒険者達に対する嫌がらせもあったらしいの。
 護ってくれる人がいなくなって、レベルゼロや低レベルの冒険者は寄り付かなくなっちゃったって。

「全く、腹が立ったね。
 王を護って散った義侠心ある者を大罪人扱いだからね、自分こそ謀反人の分際で。」

 オチョー姐さんが、そんな不満を漏らしていたよ。
 
「そんなことが、あったなんて全然知りやせんでした。
 申し訳ありません、あれだけお世話になっておきながら。
 ギルドが大変な時に、何の役にも立てねえで。」

 父ちゃん、そう言ってジロチョー親分のベッドの傍らで土下座して謝ったよ。

 そしたら。

「よしておくれよ、モリィシーはいなくて良かったんだよ。
 あの時、あんたがいたら、オーマサ達と一緒に行くって言って聞かなかっただろう。
 そしたら、今頃、こうして可愛い嫁さんや子供に囲まれちゃぁいないよ。
 私達は、あんたがこうして元気な顔を見せてくれただけで嬉しいんだよ。」

 オチョー姐さんは、そう言って父ちゃんを立ち上がらせたの。

      **********

 ジロチョー親分の話が一段落したのを見計らって。

「ねえ、ねえ、ジロチョーおじさん。
 ちょっと、これ飲んでみて。」

 おいらは、『積載庫』の中に常備しているカップを取り出して、ジロチョー親分に差し出したの。
 もちろん、中に注いだのはアレだよ。

「うん? お嬢ちゃん、今、その器はどこから出したんだい。
 そんなモノは持ってなかったと思うんだが?」

 目の前に差し出されたカップを目にして、ジロチョー親分は不思議そうに尋ねてきたの。

「ジロチョーおじさん、知らない?
 女の子には秘密が沢山あるんだよ。
 まだ小っこいけど、おいらだって女の子だもん。
 秘密の一つや二つあるんだ。
 女の子が、ヒミツと言ったら、聞かないのがマナーだよ。
 良いから、ちょっと飲んでみて。」

 『積載庫』のことを迂闊にもらす訳にはいかないからね。
 おいらは、それで押し通すよ。

「お、おう、そうなのか?」

 尚も差し出したままのカップを手に取ったジロチョーおじさん。

「あんた、一本取られちまったね。
 そうだよ、良い女ってのは、秘密の一つや二つあるもんさ。
 お嬢ちゃんが、くれると言うんだから飲んでみなよ。
 まさか、こんな小さな子供が毒なんか盛る訳ないよ。」

 オチョー姐さんに促されて、ジロチョー親分はカップに口を付けたの。
 そのまま、コクコクと飲み干して…。

「うん? なんだ、こりゃあ…。えっ…。
 おい、オチョー、動くぞ…。
 卒中を起こして以来、全く力が入らくなっちまって。
 まるで自分のもんじゃないみてえだった右足が動くんだ。」

 そんな驚きと歓喜が混ざった言葉を口にしたジロチョー親分。

「あんた、顔色が良くなっているよ。
 さっきまでの辛気臭い顔じゃない、元気だった頃のような血色のいい顔に。」 

 青白かったジロチョー親分の顔に程よい赤みが差したんで、オチョー姐さんは驚いたよ。

「嬢ちゃん、いったい、これは?」

 カップの中身を尋ねてくるジロチョー親分。
 ここは、本当のことを言うよ。

「それは、『妖精の泉』の水なんだ。
 おいら、妖精の森のおさと仲良くしてて。
 万病に効くと言う、泉の水を持たされているの。
 いざという時に飲むようにって。」

 『積載庫』って言う大きな秘密を隠すために、『妖精の泉』の水の方に注意を向けさせるから。

「何だい、『妖精の泉』の水ってのは本当にあったのかい。
 私は、お伽話の中のモノかと思っていたよ。
 お嬢ちゃん、有り難うね。
 これでうちの人ももう少し長生きできそうだよ。」

 オチョー姐さんは、『妖精の泉』の伝承を知っていたみたい。
 ジロチョー親分の具合が良くなって、とても嬉しそうだったよ。
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