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第七章 興行を始めるよ!・・・招かれざる客も来たけれど

第149話 こんな冒険者ギルドもあったんだ…

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「おい、マロン、一緒に出掛けるぞ。
 俺が駆け出しの冒険者の頃、世話になった人に挨拶に行くんだ。
 家族を紹介したいからな。」

 王都に来て何日目かの朝、父ちゃんがおいらを誘って来たんだ。
 もちろん、おいらに否はないよ、喜んでついて行く。
 一緒に街を歩けるなんて何年振りだろう、父ちゃんが帰って来たって実感するよ。

 父ちゃんと、ミンミン姉ちゃん、それにミンメイと一緒に王都の繁華街へ出てきたの。
 繁華街の中心部を抜けて北の端に父ちゃんの目的地はあったんだ。

「ここが、昔父ちゃんがお世話になった人が住んでいるところ?」

 目の前には今にも朽ち果てそうなボロい建物が一つ。
 入り口に掲げられた『広域指定冒険者ギルドドッチ会』と記された看板は、『広域指定』の所が二本線で消されているの。
 それが、凄い哀愁を感じさせたよ。
 きっと、看板を掛け変えるお金が無かったんだね。

「ああ、そうだ、王都で唯一、真っ当な冒険者が集まっていたギルドだ。
 二十年前は、『四大冒険者ギルド』って呼ばれて、それなりに幅を利かせてたんだけど。
 しばらく見ない間に、えらく傾いちまったな…。」

 父ちゃんもここに来るのは十年振りくらいになるんだって。
 父ちゃんは、『ドッチ会』の扉を潜るとシーンとしたホールの奥に向かって。

「おーい、誰かいないのかい。
 ジロチョー親分に会いたいんだが。」

 そう声を掛けたんだけど、ホールには人っ子一人いなくて返事は無かったよ。
 その場に留まり、少し待っていると…。

「おや、誰かと思えば、あんた、モリィシーかい。
 こりゃまた、懐かしい顔を見たもんだねぇ。
 あんた、何年振りだい、元気にしてたかい?」

 奥の事務所から、気風の良いおばさんが出て来たよ。
 十年以上顔を見せていないというのに、すぐに父ちゃんの顔がわかったみたい。
 凄く懐かしそうな瞳で父ちゃんを見ていたよ。

「ご無沙汰しています、オチョー姐さん。
 今まで何の音沙汰もせず、不義理をして申し訳ございません。
 長らく辺境に住まいしていたものですから、中々お目に掛ることが出来ませんで。
 今回、野暮用で王都に出て来る機会があったもんですから。
 親分と姐さんにご挨拶をと思って、やって来ました。
 ここにいるのは、俺の女房のミンミンと、娘のマロン、ミンメイです。」

 父ちゃんが、おいら達を紹介すると、オチョー姐さんは目を細めて。

「あの風来坊のモリィシーも、身を固めたかい。
 そんだけ月日が流れちまったんだね。
 綺麗な嫁さんと元気そうな娘さんができて、何よりだね。
 あんたが王都を出て行ってから、ここも寂しくなっちまってね。
 昔馴染みが訪ねてくるのは本当に久しぶりだよ。
 さあ、さあ、こんな所に突っ立ってないで、奥に入っておくれでないかい。
 あの人もきっと喜ぶよ。」

 この冒険者ギルドを訪ねて来る人は殆どいないらしくて、開店休業状態みたいなんだ。
 父ちゃんが来たことをとても喜んで、奥に通してくれたの。
 ホールから誰もいない事務室を抜けると、そこは組長さんとオチョー姐さんの居住スペースになってた。

 その一番奥まった部屋に組長さんはいたの、ベッドに横たわって。

「おう、オチョーよ、誰か客人が見えたのか?」

 オチョー姐さんが部屋に入ると、組長さんの弱々しい声が聞こえたよ。

「あんた、聞いておくれ、モリィシーが訪ねて来てくれたよ。
 キレイな嫁さんと可愛らしい娘さんを連れてね。
 ちょっと、手が欠けちまってるけど、元気そうだよ。」

 オチョー姐さんが、父ちゃんの訪問を伝えると組長さんの顔に笑顔が浮かんだの。

「モリィシー、おめえ、生きとったのか。
 良く来た、良く来た。
 顔を見せてくれて、俺は嬉しいぞ。」

「親分、ご無沙汰して申し訳ございませんでした。
 あれから方々旅して、流れ着いた辺境の町に住みついたのですが…。
 三年程前に、魔物相手に下手打っちまって。
 しばらく寝たきり生活を送ってましてね。
 最近になって、やっとまともに動けるようになったんです。
 今回、王都に出てくる機会があったもんですから。
 親分や姐さんの顔を拝見しに伺いました。
 親分の方は、顔色が優れないようですが、どうかなすったので。」

 親分さんは父ちゃんを歓迎してくれたんだけど、その様子はとても弱々しく体調が悪そうだったの。
 そんな親分さんに、父ちゃんは心配そうに体の具合を尋ねたんだ。

「いや、なに、無理がたたって卒中をやっちまってな。それから、ずっとこのザマだよ。
 ギルドのロビーを見ただろう、もう十年前の賑わいなんてありゃしねえ。
 オーマサ、コマーサの若頭二人が逝っちまってから。
 『アッチ』、『コッチ』、『ソッチ』のギルドの連中にシマが食い荒らされちまってな。
 なんとかギルドを立て直そうと奔走したんだが、無理がたたったようでな。」

 何でも、親分の右腕、左腕的な人物にオーマサ、コマーサと言う凄腕の冒険者がいたんだって。
 高レベルを誇っていただけでなく、とても人格者で、カタギには絶対に迷惑を掛けない人達だったみたい。
 このギルドが、『カタギには迷惑を掛けない』という方針だったんで、傘下の冒険者を厳しく指導していたそうなの。

 その二人がいなくなったら、今の三大冒険者ギルドが『ドッチ会』の縄張りに入り込んで来たんだって。
 カタギの店から『みかじめ料』を脅し取ったり、道でカタギの人にわざとぶつかって因縁をつけて金を脅し取ったり。
 三大ギルドの連中が、カタギに迷惑を掛ける度に親分さんが撃退していたらしいんだけど。
 それまでは三人で三大ギルドにシマが荒らされることを防いでいた訳だから。
 親分一人ではとても手が回らなくなっちゃって、過労がたたって卒中を起こしたって言ってたよ。
 
「親分、オーマサ、コマーサの兄貴二人はいったいどうしちまったんですか。
 あの二人は、そこいらの冒険者に後れを取るようなお方じゃなかったはず。」

     **********

 父ちゃんが、親分さんを支えていた二人の若頭の消息を尋ねると。
 親分さんは悔しそうな顔をして言ったの。

「おめえが、ここを出てからしばらくしてのことだ。
 このギルドに一件の依頼が舞い込んで来てな。
 それが、ここに出入りしている冒険者の手に余るモノだったんだよ。
 俺は、こんな危ない依頼を受ける必要は無いと言ったんだ。
 こんな依頼は無視してしまおうってな。
 でもな、義侠心の強いあの二人は絶対に依頼を受けるべきだと言って…。
 自ら、若い冒険者を引き連れて依頼を受けたんだよ。」

 冒険者ギルドってのは、基本、依頼を取り次ぐだけなの。
 だから、掲示板に張られた依頼を、受けるも受けないの冒険者の自己責任。
 手数料さえ支払えば、身の丈に余る依頼でも受けられるの。
 他方、依頼を出す方も掲示板の使用料を支払えば、誰でも依頼を出すことが出来るんだ。
 ただし、あくまでも掲示板の使用料だから。
 受ける冒険者が無くても、受けた冒険者が依頼に失敗しても、ギルドは何の責任も負わないんだ。

 ただ、余りにも無茶な依頼は掲示板の使用を断ることがあるんだって、手数料の受け取りを拒否して。
 普通はそんなことは無いんだけど、その時は本当に拒絶しようと思うくらい危ない依頼だったんだって。

「親分、その依頼ってのはいったい…。」

 父ちゃんの問い掛けに。

「おめえは旅の最中だから知らなかったかもしれんが…。
 隣国『ウエニアール国』で八年前に内乱があったってのを聞いたこと無いかい?
 当時の騎士団長が謀反を起こし、王族を皆殺しにしたあげく自分が王座に居座ったんだ。
 実は、王族側も事前にその情報を掴んでいてな。
 いざという時に、王族を護って落ち延びるための用心棒を依頼されたんだ。」

 もちろん、そんな依頼を大ぴらに出来る訳が無く、ジロチョー親分に対し内密に依頼が届いたらしいの。
 当然、このギルド限定で。

 普通なら、ならず者みたいな人が多い冒険者に、王侯貴族が護衛を頼むなんてことは有り得ないんだ。
 でも、当時、この『ドッチ会』は珍しく真っ当な冒険者ギルドで、義侠心が強く、高レベル冒険者が揃っていると評判だったそうなの。
 多勢に無勢で、騎士団相手に真っ向から戦ったら絶対勝てないけど、いざという時に王族を護って落ち延びることは出来るのでは。
 ウエニアール国の王族にそんな期待があって、この『ドッチ会』に直々に依頼があったんだって。

 一介の冒険者が騎士団を相手に立ち回るなんてとんでもないと、親分さんは断ろうとしたらしいのだけど。

「オーマサとコマーサの奴が口を揃えて言うんだよ。
 わざわざ、隣国から『ドッチ会』を頼って来てくれたんだ見捨てることは出来ないって。
 奴ら、座右の銘が『義を見てせざるは勇無きなり』だからな。
 本当、『勇者おおばかもの』だよ、あいつら…。
 それで、死んじまったら、元も子もないだろうが…。」

 親分さんは、途中で涙ぐんじゃって、最後の方はよく聞き取れなかったよ。
 どうやら、その反乱で二人は帰らぬ人になったようなんだ。

 そして、『ドッチ会』は没落が始まったみたい。
 
  
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