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第七章 興行を始めるよ!・・・招かれざる客も来たけれど
第148話 意外な特産品ができた!
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王様に『耳長族には手出ししない、手出しさせない。』と誓約させた後、場所を移してそれに関する詳細を定めた勅令が公布されたの。
やっぱり耳長族を手に入れたいと思う貴族がいたようで、事細かに禁止事項が定められた勅令を目にして悔しそうな顔をしてたよ。
でも、アルトのキツイ制裁を目にしているから、勅令を破ろうという気概のある『勇者』はいない様子だった。
耳長族の安全を確保できて、取り敢えずの目的は達したのだけど、少しに間王都に滞在することになったんだ。
目的は、ハテノ男爵領の騎士団員の募集。
募集と言っても、クッころさんが『お仲間』に声を掛けて集めるだけだけど。
みんな、貴族のお嬢様なんですぐには集められないってことなので、その間王都に留まることになったんだ。
一度、ハテノ男爵領まで帰ってまた迎えに来るのも面倒だし、採用にあたっては一応ライム姉ちゃんも面接したいと言うことでね。
**********
クッころさんの実家、モカさんの家の中庭で。
「いやぁ、何度見ても見事な剣舞ですな。
ここで練習しているだけなんて勿体ない。
どうですか、ここに留まっている間、王都で興行しませんか。
その気があるなら、王立劇場を借りられるよう手配しますが。」
中庭で、『STD四十八』と耳長族のお姉ちゃん達の稽古風景を見ていたモカさんが、そんな提案をしたの。
剣舞とか、演奏とか、一日も稽古を欠かすことは出来ないとのことなんで、モカさんの家の中庭を貸してもらったんだ。
それに、『STD四十八』と耳長族のお姉ちゃん達を、ずっと『積載庫』の中に入れておくと精神衛生上も良くないからね。
幾ら、積載庫の『特等席』が居心地が良いと言っても、ずっといると息が詰まるから。
そんな訳で、外から見えないから落ち着いて稽古が出来るってことで、中庭を借りることにしたんだ。
でも稽古が始まると、モカさんの家に仕える人が見物に集まって凄いことになってた。
仕事をサボって見物している使用人たちに、モカさんは渋い顔をしてたけど…。
滅多に見ることが出来ないモノなので、大目に見ることにしたみたい。
「そうね、せっかくだから、王都の人達にお披露目してしまおうかしら。
辺境の町での興行は一回飛ばすと言っておいたから、ちょうど良いわ。」
アルトは、興行は一回休みって、見物人を前に宣言してきたんだ。
その時、アルトったら堂々と言ったよ、王様をお仕置きしに行くからって理由を。
でも、見物の人達、マジだと思ってなくて、大ウケだったの。
「となると、劇場を借りるためのお金を用意しないといけないわね。
ライム、ちょっと付き合いなさい。
ちょうど良いから、ハテノ男爵領の新しい特産品を売り込みに行くわよ。」
「新しい特産品? 私の領地にそんなモノ有りました?」
アルトの唐突な言葉に、ライム姉ちゃん、首を傾げていたよ。
モカさんの家から歩いて王都の職人街へ来たんだ。
色々な職人さんの工房が集まってるんだって、おいら、来たの初めてだよ。
「鍛冶屋さんの工房ですか?」
アルトが宙で静止したのは、大きな鍛冶屋さんの前だったの。
「そう、モカから聞いていたのよ。
騎士団に剣とか、槍とかを納めている王都一の鍛冶屋だって。」
そう言って、鍛冶屋さんの中に飛んで行くアルト、もちろんおいら達も後に続いたよ。
「おや、これは珍しいお客さんだ。
妖精さんが来てくれるなんて今日は良いことがあるかね。」
大きな工房だけあって、工房は奥の方にあるようで、表は普通の大店のようだったよ。
店に入ると、剣を始めとした武具がいっぱい並べてあって、気の良さそうなおっちゃんが一休みしてた。
「こんにちは、あんたがここの大将かしら。騎士団長のモカに聞いて来たんだけど。」
「おや、天下の近衛騎士団長からうちの名前が出るなんて、うちも偉くなったもんだ。
ああ、一応、俺がこの工房の親方ということになっているよ。
それで、妖精さん、今日はどのようなご用件で?」
モカさんの紹介だと聞いて、おっちゃんはすこぶる上機嫌で尋ねてきたの。
そんなおっちゃんの前に、ドンっと大きな布袋を出したアルト。
「これを買い取ってくれるかしら?」
と一言だけ言ったんだ。
おっちゃんは布袋の中を覗き込むと、中身を一つ手に取ってジッと睨んでいたの。
やがて、ハッとした表情を見せると、もう一つ手に取り、二つを打ち合わせたんだ。
すると、
キーン!
という、かん高く、澄んだ音が店の中にこだまして。
「おい、こいつはトレントの木炭じゃねえか。
しかも、極上品ときている。
俺は、鍛冶屋になって三十年になるが、こんな極上品の木炭は見たことねえぞ。」
おっちゃんは仰天したように声をあげたんだ。
「この布袋一つ銀貨千枚でどう?
今なら、手持ちに十袋あるわよ。鍛冶屋なら幾らでもいるモノでしょう。」
「これ一袋で銀貨千枚で良いのか?
まさか、上の方だけ上物で、下の方はクズだとかじゃないだろうな。
普通なら、千三百、いや銀貨千五百枚くらいはするぜ。」
「バカ言わないで、そんな詐欺みたいな事はしないわ。
なんなら、その辺に袋から全部出して、中を検めても良いわよ。
急にまとまったお金が必要になってね、売ることにしたのよ。」
アルトの言葉に、おっちゃんは本当に袋の中身を床に出してみたんだ。
いいね、迂闊に『買った!』なんて飛び付かない所に堅実さを感じるよ。
そして、積み上がった木炭をつぶさに見て。
「こりゃ、スゲーや。これ、本当に銀貨千枚で良いのか?
それなら、即金で買わせて貰うぜ。
残りも全部だ、ただし、中身は確認させてもらうがな。」
おっちゃんは、十袋全部買い取るって言ったんだ。凄いね銀貨一万枚即金で払えるなんて。
「トレントの木炭は、火力が強くて、火持ちが良くてな、俺達鍛冶屋には有り難えモンなんだがよ。
トレントを倒すのが大変なうえ、あんなでっけえものを森から運んで来るのも大変だろう。
冒険者の連中、トレントを狩っても、『スキルの実』だけ採って、本体はおいて来ちまう。
トレントの木材は、炭焼き屋が共同で冒険者を雇って、荷馬車を仕立てて狩りに行くんだ。
とは言え、トレントを狩るのも簡単じゃねえから冒険者を多く雇う必要があるし、荷馬車にも沢山は積めねえ。
だから、無茶苦茶高価だし、そもそも数が手に入らなねえんだ。
俺達鍛冶屋の仲間内じゃ、トレントの木炭のことを『黒いダイヤモンド』って呼んでいるくらいだ。
うちもそうだが、仲間内ではトレントの木炭を使って打つのは一点物の高価な剣くらいだぜ。
数物の安い剣は、みんな、普通の木炭を使って打つんだ。」
そんな事情を話してくれたおっちゃんは、トレントの木炭が格安で沢山手に入って上機嫌だったよ。
しかも、木炭って、炭焼き職人の腕によって品質に大分差があるんだって。
品質によっては十分な火力が確保できなかったりするから、鍛冶屋さんは凄く気を配るそうだけど。
アルトの持ち込んだ品はどれも最上級品で、良い職人を抱えているって感心してたよ。
実は、『積載庫』の基本機能の一つで、簡単に加工できるんだけどね。
今日、売りに出した十袋の内二袋は、おいらの『積載庫』の中にあったトレントを自分で加工した物だもの。
アルトがおいらの蓄えにしなさいって、二袋分代わりに売ってくれたの。
おいらが『積載庫』を持っていることを知られたら困るからって。
「そう、トレントの木炭が欲しいなら、幾らでも売ってあげるわ。
ただし、欲しければハテノ男爵領まで買い付けに着てちょうだい。
私は普段、辺境にいるし、人のお金なんか要らないから。
わざわざ王都まで届けるつもりは無いわ。
そうね、他の炭焼き屋さんの仕事を潰しちゃう訳には行かないから…。
今の袋のサイズで一袋銀貨千三百枚でどうかしら?
相場より銀貨二百枚分安いのは、辺境まで買い付けに来る手間賃よ。
ハテノ男爵に販売を委託しておくし、品切れは起こさないようにしておくわ。」
まあ、『STD四十八』の連中、毎日五体ずつ日課でトレントを倒しているから。
木炭なんか幾らでもできるもんね。
「この品質のモノが、一袋銀貨千三百枚、それで幾らでも手に入るってのか?
それなら行くぜ、ハテノ男爵領まで買い付けに行ってもお釣りがでらあ。
これは、仲間内にも教えておかねえとな。」
「ちょっと待って。
一つ言っておくけど、トレントの木炭を使ってハテノ男爵領の再興を考えているのよ。
宿屋や酒場にもお金が落ちるように、少しでも沢山の人に男爵領を訪れて欲しいの。
だから、多少は目を瞑るけど大ぴらな転売は認めないわ。
その辺を良くお仲間にも言っておいてね。」
アルトはおっちゃんにそう釘を刺したんだ。
買い付けに来る人が少ないと、沢山売れても町の人に旨味が無いからね。
「ああ、分かった。
せっかく、安く分けてもらえるんだ。
強欲な商人を中に挟んで、わざわざ高い品を仕入れることもねえしな。
みんな、自分の所で買い付けに出すように言っておくよ。」
気の良いおっちゃんは、アルトの希望を受け入れてくれたよ。
**********
鍛冶屋を出てモカさんの家まで歩く道すがら。
「ライムに、トレントの木炭の販売を委託するからお家再興に役立てなさい。
売り上げの三割を、ハテノ男爵家の取り分にして良いわ。
木炭はまとめて預けておくから、売れた分だけ七割を私に戻してくれればいいわ。」
そう切り出したアルト。
トレントは『STD四十八』が倒したものだから、連中に売上げの五割を配分したいんだって。
一割は『STD四十八』の維持費に使って、残りの一割は耳長族に対する支援金に使うって。
「先程のお話ですと結構な大商いになりそうですが、三割も頂いてしまって良いのですか?」
「良いのよ、ライムには耳長族を護ってもらわないといけないのだから。
私としては、ハテノ男爵家が潰れて、強欲な貴族が後釜に入ってくると困るのよ。
そのためには、ハテノ男爵家の経済基盤が安定してないと困るでしょう。」
と言うことで、ハテノ男爵家の特産品として『トレントの木炭』を売り出すことに決まったの。
これはおいらも助かるよ、おいらの『積載庫』の中にも『トレントの木炭』が山ほどあるから。
今回も、二袋分、銀貨二千枚もらっちゃったしね。
沢山買い付けの人が来るようなら、時々、おいらの手持ちも一緒に売ってもらおう。
やっぱり耳長族を手に入れたいと思う貴族がいたようで、事細かに禁止事項が定められた勅令を目にして悔しそうな顔をしてたよ。
でも、アルトのキツイ制裁を目にしているから、勅令を破ろうという気概のある『勇者』はいない様子だった。
耳長族の安全を確保できて、取り敢えずの目的は達したのだけど、少しに間王都に滞在することになったんだ。
目的は、ハテノ男爵領の騎士団員の募集。
募集と言っても、クッころさんが『お仲間』に声を掛けて集めるだけだけど。
みんな、貴族のお嬢様なんですぐには集められないってことなので、その間王都に留まることになったんだ。
一度、ハテノ男爵領まで帰ってまた迎えに来るのも面倒だし、採用にあたっては一応ライム姉ちゃんも面接したいと言うことでね。
**********
クッころさんの実家、モカさんの家の中庭で。
「いやぁ、何度見ても見事な剣舞ですな。
ここで練習しているだけなんて勿体ない。
どうですか、ここに留まっている間、王都で興行しませんか。
その気があるなら、王立劇場を借りられるよう手配しますが。」
中庭で、『STD四十八』と耳長族のお姉ちゃん達の稽古風景を見ていたモカさんが、そんな提案をしたの。
剣舞とか、演奏とか、一日も稽古を欠かすことは出来ないとのことなんで、モカさんの家の中庭を貸してもらったんだ。
それに、『STD四十八』と耳長族のお姉ちゃん達を、ずっと『積載庫』の中に入れておくと精神衛生上も良くないからね。
幾ら、積載庫の『特等席』が居心地が良いと言っても、ずっといると息が詰まるから。
そんな訳で、外から見えないから落ち着いて稽古が出来るってことで、中庭を借りることにしたんだ。
でも稽古が始まると、モカさんの家に仕える人が見物に集まって凄いことになってた。
仕事をサボって見物している使用人たちに、モカさんは渋い顔をしてたけど…。
滅多に見ることが出来ないモノなので、大目に見ることにしたみたい。
「そうね、せっかくだから、王都の人達にお披露目してしまおうかしら。
辺境の町での興行は一回飛ばすと言っておいたから、ちょうど良いわ。」
アルトは、興行は一回休みって、見物人を前に宣言してきたんだ。
その時、アルトったら堂々と言ったよ、王様をお仕置きしに行くからって理由を。
でも、見物の人達、マジだと思ってなくて、大ウケだったの。
「となると、劇場を借りるためのお金を用意しないといけないわね。
ライム、ちょっと付き合いなさい。
ちょうど良いから、ハテノ男爵領の新しい特産品を売り込みに行くわよ。」
「新しい特産品? 私の領地にそんなモノ有りました?」
アルトの唐突な言葉に、ライム姉ちゃん、首を傾げていたよ。
モカさんの家から歩いて王都の職人街へ来たんだ。
色々な職人さんの工房が集まってるんだって、おいら、来たの初めてだよ。
「鍛冶屋さんの工房ですか?」
アルトが宙で静止したのは、大きな鍛冶屋さんの前だったの。
「そう、モカから聞いていたのよ。
騎士団に剣とか、槍とかを納めている王都一の鍛冶屋だって。」
そう言って、鍛冶屋さんの中に飛んで行くアルト、もちろんおいら達も後に続いたよ。
「おや、これは珍しいお客さんだ。
妖精さんが来てくれるなんて今日は良いことがあるかね。」
大きな工房だけあって、工房は奥の方にあるようで、表は普通の大店のようだったよ。
店に入ると、剣を始めとした武具がいっぱい並べてあって、気の良さそうなおっちゃんが一休みしてた。
「こんにちは、あんたがここの大将かしら。騎士団長のモカに聞いて来たんだけど。」
「おや、天下の近衛騎士団長からうちの名前が出るなんて、うちも偉くなったもんだ。
ああ、一応、俺がこの工房の親方ということになっているよ。
それで、妖精さん、今日はどのようなご用件で?」
モカさんの紹介だと聞いて、おっちゃんはすこぶる上機嫌で尋ねてきたの。
そんなおっちゃんの前に、ドンっと大きな布袋を出したアルト。
「これを買い取ってくれるかしら?」
と一言だけ言ったんだ。
おっちゃんは布袋の中を覗き込むと、中身を一つ手に取ってジッと睨んでいたの。
やがて、ハッとした表情を見せると、もう一つ手に取り、二つを打ち合わせたんだ。
すると、
キーン!
という、かん高く、澄んだ音が店の中にこだまして。
「おい、こいつはトレントの木炭じゃねえか。
しかも、極上品ときている。
俺は、鍛冶屋になって三十年になるが、こんな極上品の木炭は見たことねえぞ。」
おっちゃんは仰天したように声をあげたんだ。
「この布袋一つ銀貨千枚でどう?
今なら、手持ちに十袋あるわよ。鍛冶屋なら幾らでもいるモノでしょう。」
「これ一袋で銀貨千枚で良いのか?
まさか、上の方だけ上物で、下の方はクズだとかじゃないだろうな。
普通なら、千三百、いや銀貨千五百枚くらいはするぜ。」
「バカ言わないで、そんな詐欺みたいな事はしないわ。
なんなら、その辺に袋から全部出して、中を検めても良いわよ。
急にまとまったお金が必要になってね、売ることにしたのよ。」
アルトの言葉に、おっちゃんは本当に袋の中身を床に出してみたんだ。
いいね、迂闊に『買った!』なんて飛び付かない所に堅実さを感じるよ。
そして、積み上がった木炭をつぶさに見て。
「こりゃ、スゲーや。これ、本当に銀貨千枚で良いのか?
それなら、即金で買わせて貰うぜ。
残りも全部だ、ただし、中身は確認させてもらうがな。」
おっちゃんは、十袋全部買い取るって言ったんだ。凄いね銀貨一万枚即金で払えるなんて。
「トレントの木炭は、火力が強くて、火持ちが良くてな、俺達鍛冶屋には有り難えモンなんだがよ。
トレントを倒すのが大変なうえ、あんなでっけえものを森から運んで来るのも大変だろう。
冒険者の連中、トレントを狩っても、『スキルの実』だけ採って、本体はおいて来ちまう。
トレントの木材は、炭焼き屋が共同で冒険者を雇って、荷馬車を仕立てて狩りに行くんだ。
とは言え、トレントを狩るのも簡単じゃねえから冒険者を多く雇う必要があるし、荷馬車にも沢山は積めねえ。
だから、無茶苦茶高価だし、そもそも数が手に入らなねえんだ。
俺達鍛冶屋の仲間内じゃ、トレントの木炭のことを『黒いダイヤモンド』って呼んでいるくらいだ。
うちもそうだが、仲間内ではトレントの木炭を使って打つのは一点物の高価な剣くらいだぜ。
数物の安い剣は、みんな、普通の木炭を使って打つんだ。」
そんな事情を話してくれたおっちゃんは、トレントの木炭が格安で沢山手に入って上機嫌だったよ。
しかも、木炭って、炭焼き職人の腕によって品質に大分差があるんだって。
品質によっては十分な火力が確保できなかったりするから、鍛冶屋さんは凄く気を配るそうだけど。
アルトの持ち込んだ品はどれも最上級品で、良い職人を抱えているって感心してたよ。
実は、『積載庫』の基本機能の一つで、簡単に加工できるんだけどね。
今日、売りに出した十袋の内二袋は、おいらの『積載庫』の中にあったトレントを自分で加工した物だもの。
アルトがおいらの蓄えにしなさいって、二袋分代わりに売ってくれたの。
おいらが『積載庫』を持っていることを知られたら困るからって。
「そう、トレントの木炭が欲しいなら、幾らでも売ってあげるわ。
ただし、欲しければハテノ男爵領まで買い付けに着てちょうだい。
私は普段、辺境にいるし、人のお金なんか要らないから。
わざわざ王都まで届けるつもりは無いわ。
そうね、他の炭焼き屋さんの仕事を潰しちゃう訳には行かないから…。
今の袋のサイズで一袋銀貨千三百枚でどうかしら?
相場より銀貨二百枚分安いのは、辺境まで買い付けに来る手間賃よ。
ハテノ男爵に販売を委託しておくし、品切れは起こさないようにしておくわ。」
まあ、『STD四十八』の連中、毎日五体ずつ日課でトレントを倒しているから。
木炭なんか幾らでもできるもんね。
「この品質のモノが、一袋銀貨千三百枚、それで幾らでも手に入るってのか?
それなら行くぜ、ハテノ男爵領まで買い付けに行ってもお釣りがでらあ。
これは、仲間内にも教えておかねえとな。」
「ちょっと待って。
一つ言っておくけど、トレントの木炭を使ってハテノ男爵領の再興を考えているのよ。
宿屋や酒場にもお金が落ちるように、少しでも沢山の人に男爵領を訪れて欲しいの。
だから、多少は目を瞑るけど大ぴらな転売は認めないわ。
その辺を良くお仲間にも言っておいてね。」
アルトはおっちゃんにそう釘を刺したんだ。
買い付けに来る人が少ないと、沢山売れても町の人に旨味が無いからね。
「ああ、分かった。
せっかく、安く分けてもらえるんだ。
強欲な商人を中に挟んで、わざわざ高い品を仕入れることもねえしな。
みんな、自分の所で買い付けに出すように言っておくよ。」
気の良いおっちゃんは、アルトの希望を受け入れてくれたよ。
**********
鍛冶屋を出てモカさんの家まで歩く道すがら。
「ライムに、トレントの木炭の販売を委託するからお家再興に役立てなさい。
売り上げの三割を、ハテノ男爵家の取り分にして良いわ。
木炭はまとめて預けておくから、売れた分だけ七割を私に戻してくれればいいわ。」
そう切り出したアルト。
トレントは『STD四十八』が倒したものだから、連中に売上げの五割を配分したいんだって。
一割は『STD四十八』の維持費に使って、残りの一割は耳長族に対する支援金に使うって。
「先程のお話ですと結構な大商いになりそうですが、三割も頂いてしまって良いのですか?」
「良いのよ、ライムには耳長族を護ってもらわないといけないのだから。
私としては、ハテノ男爵家が潰れて、強欲な貴族が後釜に入ってくると困るのよ。
そのためには、ハテノ男爵家の経済基盤が安定してないと困るでしょう。」
と言うことで、ハテノ男爵家の特産品として『トレントの木炭』を売り出すことに決まったの。
これはおいらも助かるよ、おいらの『積載庫』の中にも『トレントの木炭』が山ほどあるから。
今回も、二袋分、銀貨二千枚もらっちゃったしね。
沢山買い付けの人が来るようなら、時々、おいらの手持ちも一緒に売ってもらおう。
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