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第三章 女騎士(クッころさん)奮闘記

第42話 こんなの他言できないよ

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*本日、お昼に1話投稿しています。
 まだ読み出ない方は、お手数をおかけしますが一話戻ってお読みください。
 よろしくお願いいたします。

     ********

 おいらのレベルアップを祝福してくれたアルトは続けて尋ねてきたんだ。

「それで、どう。
 レベルアップして、何か変ったかしら。
 マロンがさっき言ったレベル持ちにしか見えないモノってのが見えた?」

「うーん、よく分からないけど…。
 なんか、体力は漲ってる感じがする。」

 何と表現して良いか分かんないんだけど、こう力が溢れて来ると言うかそんな感じ。

「そう感じるでしょうね。、
 レベルゼロからレベル一に上がる時が一番段差が大きいからね。」

 アルトがまた理解不明のことを言ったよ。
 段差とは何ぞ?

「段差が大きい?」

「そうよ、能力値を見てみなさい。
 それぞれの項目が百%アップとなっているでしょう。
 それは、各能力の初期値が倍になったという事よ。」

「初期値?」

「そう初期値よ。
 初期値ってのは、生命の種毎に違うのだけど、持って生まれた種に等しく備わっている能力よ。
 マロンであれば、人間と言う種に等しく与えられた初期能力があるの。
 マロンという個体の能力は、初期能力と年齢による加減、そして鍛錬による加減が加わったモノなの。」

「生まれた時の能力ってことかな?」

「違うわ。
 どんな生き物でも生まれた時は初期値よりマイナスなの。
 種の持つ固有能力が固定された時点の能力が初期値になるの。
 例えば、鳥であれば、自由に空を飛び回ることが出来るようになった時の能力値ね。
 人間の場合は、ちゃんと歩けて、片言の言葉が喋れるようになった時みたいね。
 だいたい、二歳前後の時の能力かな。」

 アルトが言うには、二足歩行としゃべれることが人間の特性なんで、その二つが備わった状態の能力が初期能力なんだって。

「それで、レベルアップの時の能力の向上は初期値の上昇という形で現れるの。
 レベル一になると初期値の倍、レベル二になると初期値の三倍と、レベルが一上がる毎に初期値が百%増えるの。
 段差と言うのは体感の差のこと、レベルアップに伴う能力の上昇幅は一定でしょう。
 でも、体感的にはレベルゼロからレベル一では初期値の部分が倍になるから大きく上がったように感じるのよ。
 これが、レベル一からレベル二だと一・五倍だし、レベル二からレベル三では一・三三倍ですからね。
 だんだん、レベルが上がったと言う実感が無くなって来るのよ。」

 しかも、当たり前のことだけど、人間の能力って経験に基づくものが大きくて。
 能力値にもっとも重要なのは鍛錬による増減の部分、次いで年齢による増減の部分だとアルトは言うの。
 初期能力というのは、人間で言えば二歳児程度の能力なんで、鍛錬すれば何十倍にもなるって。
 鍛錬を怠ったレベル持ちよりも、しっかり鍛錬したレベルゼロの人の方がよっぽど能力値は高いってアルトは言ってたよ。
 そう言った意味では、父ちゃんが言ってた通り、レベルはプラスの補正に過ぎないんだね。

     ********

 それは、ともかくとして…。

「マロンの場合は、ほとんど鍛錬なんかしてないし、年齢もまだ八歳だものね。
 鍛錬による加算も年齢加算も小さいので、能力値に占める初期能力の割合が高いのよ。
 それが、いきなり倍になったのだから、凄く体力が漲って感じるのでしょうね。
 今から、レベルを上げていけば、その上昇感は小さくなっていくと思うわ。
 レベル十まではね…。」

「レベル十まで?」

「そう、私が説明するより実感した方が良いと思うわ。
 ここで、レベルを一つずつ上げてみなさい。」

 おいらは、アルトの指示通りに『積載庫』の中の金貨を少しずつ体に取り込んで、レベルを上げて言ったの。
 アルトの言う通り、レベルが上がる毎にレベルアップ時の能力上昇が然ほどに感じなくなってきたよ。
 特に、レベル八から九に上がった時は、何が変わったのかさっぱり分からなかった。

 ところが…。

「なにこれ…。
 体の中から力がどんどん湧き出て来て、溢れちゃいそう…。」

 レベル九かららレベル十に上がった途端にもの凄い力が溢れて来たんだ。
 それは、レベルゼロからレベル一になった時の体感をはるかに上回ってる。

「レベル十に達すると、レベル十毎にレベルアップボーナスがあるのよ。
 初期値の千%、次はレベル二十になった時に貰えるわ。
 普通の人は、レベル十まで至らないからそれを知らないの。
 だから、レベルゼロからレベル一になった時の段差が一番大きいと思ってるのよ。」

 レベル毎に初期値の十倍の能力が追加で加算されるこんな効果がるなら。
 単なるプラスの補正に過ぎないなんて、軽視する事は出来ないよ。
 たとえ二歳児の身体能力でも二十一倍は侮れないって。

 でも、レベル十まで至るには、『生命の欠片』の結晶が約二万個も必要なんだよね。
 だから、大部分の人はそこに至ることは出来ないみたい。

「良いですか、マロン。
 争いごとに巻き込まれたくなければ、レベルのことは他言無用ですよ。
 マロンのレベルを奪うために命を狙う人が現れるかも知れませんからね。
 それと、マロンがレベル持ちだと窺わせるような行動も慎みなさい。
 あとは…、そうだわ!
 『生命の破片』残っているなら、この際だから全部取り込んじゃいなさい。
 もうレベル持ちになっちゃったのだし、少しでも上げておいた方が身を守れるわ。
 それに何らかの弾みで、『積載庫』から出しちゃって奪われることもあるかも知れないしね。」

 レベルの説明を終えたアルトは、『生命の破片』を全部取り込むように勧めてきたんだ。
 おいらは、アルトには内緒で十万ほど残すことにしたの。
 もし、父ちゃんが帰ってきたら分けてあげようと思って…。
 父ちゃん、帰ってこないかな…。

「マロン、結局、あなた、レベル幾つになったのかしら?」

 「アルト、それ禁句じゃないの?」って思ったけど口には出さないでおいた。
 飢え死にしそうなとき、寂しくして仕方がないとき、おいらを助けてくれた。
 そんな、アルトがおいらの命を狙うことなんてないものね。

「うん? レベル四十になったよ。」

「凄いわね…。鍛えれば、一人で国を攻め落とせそうだわ。」

 そんな人騒がせなことしないよ…。
 おいらは、この町で父ちゃんの帰りをまってひっそり暮らしていくんだもの。
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