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サイドストーリーズ
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婚約破棄から2週間ほどが過ぎ私、エディン=トールマン子爵令嬢のもとに1通の手紙が届いた。王家の封蝋がしてあるという事はとうとう私との婚約の話が進んだという事かな?
「いやぁ~、ここまで大変だったわ。家のお金を使って研究所にもぐりこませて薬を盗んだり、ばれないように飲み物に混ぜるのに、メイドを買収したりで。でもこれで苦労がようやく報われるのね。あいつの言った通りだわ」
1年ほど前に私に接触してきたと思ったら、第2王子の容態が安定してきているから、今なら寵愛を受けられるって教えてくれたあいつに感謝だ。薬の完成時期も教えてくれるなんてね。
「それにしても、カノンだっけ?あいつも馬鹿よね。7年間も薬の研究ばっかりでろくに王子に会いにもいかないなんて。捨てられて当然だわ。まあ、私の美貌があれば無駄な努力だったでしょうけど。さて、内容はと」
手紙を開いて中を見る。
「何々、先日の婚約破棄の件で一同の前で話したいことがある。 クレヒルト=グレンデル。これで一時的とはいえ王宮入りかぁ。この調子でいけば王妃にもなれるかも?ま、面倒だからやらないけど」
その日は何とも言えぬ幸福感に包まれて私は眠りについた。以後そんな平穏な日々は訪れぬとも知らず…。
「ここが、王宮ね。この前のパーティーで手前のところには入ったけど、それ以外は子爵令嬢じゃ入れないのよね。メイドなんかになってまで来たくもないし」
「お待ちしておりました。こちらへ…」
「は、はい…」
かっこいい騎士様が私を先導してくれる。くぅ~、こういうシチュエーションにあこがれてたのよね~。
「エディン嬢をお連れいたしました」
「うむ、下がって良い」
連れてこられた部屋は思っていたより小さいけれど豪華で、そこには王様と王妃様、あと宰相だったかな?と第1王子、第2王子のクレヒルト様がいた。
「よく来てくれたエディン。父上が是非に話をしたいという事でな」
「まあ、そうなんですのね。よろしくおねがいします!」
この日のために新しいドレスを注文していてよかったわ。胸も3分の1ほど見え、背中は開き、座ればスリットからちらりと足が見える特注ドレスよ。勿論デザインは私、一番魅力が引き立つように作られたんだから。
---
あれはカノン伯爵令嬢が行方不明になり2週間近く経ったころだ。隣国から密偵が一つの情報を持って帰ってきた。曰く、かの国では『魔力病』の治療薬が開発されたとのこと、という知らせだ。まさか、わが国で治験中の薬が同時期に他国で開発が終わるなど偶然ではありえないだろう。しかし、残念ながら我が国に抗議することは出来ない。
「宰相、どうする。抗議するか?我が国の技術を盗んだと」
「どの理由で、ですか?クレヒルト殿下の病はすでにエディン子爵令嬢の献身によるものと噂が流れております。それに、肝心の作り方を証明することが出来なければ訴えは起こせません。研究所にもあたりましたが、最終工程を知っているのは行方不明の令嬢ただ一人とのこと」
「では、その令嬢の誘拐という線では?」
「婚約破棄に実家での仕打ちを追及されれば、どんなによくとも一時的に保護していると返されるでしょう。その間に婚姻でもされては手の施しようがありません」
「開発するのでは間に合わないのか?」
「あの研究所から何人が逃げ出したと?そのようなことが出来る環境にはありません。あの薬のことはあきらめる他ありません。それよりも今はエディン嬢です。彼女がどうやってそんな貴重な薬を入手したかです」
「治験中ならそこからか?」
「あれは極秘でしたし、毎日人数分のみ届きました。おそらくは研究所から盗んだものだと思われます」
「ならば、盗んだとして吐かせればよいのではないか?」
「そこが分からないのです。彼女を調べてもその家にも個人でも、そのこと自体知りようがない位の能力です。それを知りえていたという事は、何者かにそそのかされたという事でしょう」
「捕まえれば、取り調べの前に殺されるか…。ならば、話せる場に来させるしかないな。近日中に王宮に呼び寄せて、その機会を作ろう。宰相、お前にも参加してもらう」
「分かりました。急いで関係者を調べましょう」
「こちらでも調べておこう。シリウス!」
「はっ!」
「おそらくはあの令嬢が弟に絡みだした1年ほど前に接触があるはずだ。出来るか?」
「お望みのままに」
「これでひとまずは安心だな。では当日を待つとしよう」
こうして今回の話につながるのだが…。何だ?この令嬢の頭の悪さは。なってない言葉遣いに娼館にでもいるかのようなデザイン。どこからどう見ても此度の件は誰かの入れ知恵なのは明らかだ。席に着くと早速クレヒルト殿下から今回の趣旨を話してもらう。
「エディン、実は今回お前との婚約を大々的に発表しようという話が兄上や宰相からも出ている」
「ま、まあそうですか!」
「ああ、だが一つだけ条件があるという事だ」
「条件…ですか?」
「何、難しいことではない。きっとそなたには造作もないことだろう」
「そうなのですね。よかったですわ、難しい要求でなくて」
「内容なのだが、あと数人、君のその愛の力で『魔力病』を治して欲しいのだ」
「えっ…」
何でそんなことをなんて顔をしている。そんなことも考えられなかったとは。あの病は不治の病として世界中の国々が研究してきたのだ。偶然でも何でも治せる人間がいるなら当然こういう事態も想定するはずだ。
「ええ、ですが…あの~、そう!あれは殿下と私の愛の力ですわ。きっと他の方には…」
「できないというのか…それでは…」
「あっ、いいえ!一人、多分もう一人ぐらいならできるかもしれません」
「ほ、本当か?やはり君は私の思っていた通りの人だ!だが、1人となると人選にも気をつけなければ」
「じ、じ、人選ですか?」
「そうだな。かの病はいまだ不治。たった一人とはいえ治せるのであれば、国内外の貴族、王族、商人など多くのものが群がるであろう」
もうこの時点で彼女の顔色は真っ青だ。きっと盗み出した薬がもうそれほどないのだろう。平民なら誤魔化せても身分の高いものなら自分の身が危ういと気が付いたのだろう。
「陛下、魔導王国のリディウス公爵様はどうでしょう?幼き頃より聡明ですが病の為、領地は弟に任せているとか。かの国とは以前に外交での婚約も行いましたし、今後の関係を考えてもかなりのプラスですわ」
「ふむ、王妃の言う通りだな。早速、来てもらおうではないか」
それから、3日後に公爵様が来られた。実は今回の件は公爵様には事前に手配済みだ。王妃様の母国でもあり公爵様自体が元々、あきらめておられていた件で薬ができているのならば、外交で嫁いだ令嬢がカノン嬢と仲が良かったという事で、希望が持てるとのことだ。
「はるばる申し訳ございません」
「いや、これで治るのであればいかなることでも足りないでしょう。これは世界中の人々の悲願なのです」
「それではエディン嬢、治療を」
「は、はい。あの…」
「分かっている。我々は外で待っている」
「お願いしますね。見られるのは恥ずかしいので…」
バタン
「入っていったな。シリウス!」
「はっ!」
「頼んだぞ。現場を押さえたら蹴破ってでも知らせろ」
スッ
「き、消えた?兄上、今のものは?それに何をするおつもりで…」
「残念ながら現実を見るときが来たのだ」
さて、部屋にさえ入ればこっちのものよ。まずはこの人を寝かせてと。
「さあ、公爵様仰向けで寝てください」
「ああ、分かった」
よし、この位置からなら、万が一にも見えないわね。そして私は小瓶を出して飲み物に入れようとし―――。
「そこまでだ!」
「ヒッ」
急に声をかけられて瓶を落としそうになる。その瓶を急に表れた人影が取り上げると。
「殿下!入っていただけます」
ギィ
ドアが開いて王様や殿下たちが入ってくる。
「な、なな、なんですか、これ!」
「そうです兄上!約束が違います!」
「約束は我らだけだ。この者とはしていないだろう?シリウス!どうだ?」
「間違いなく研究所の瓶ですね。まさかラベルすらそのままとは恐れ入りました。被験者に見せれば確認も容易です」
「な、何がどうなっている…」
「クレヒルト、お前はそこの女に騙されたのですよ。『魔力病』は100年以上研究され続けた病。たかだか、娘一人が祈ったところで治る病だと本気で思っていたのですか?」
「母上…」
「宰相や王妃がしつこく言うからやらせてみれば、なんと言う不届き者だ!この女狐めっ!」
「そ、そんな!私の愛は本物です!そ、そう、この薬も何かの間違いで、そうです!愛の力を高めるものです!!」
「まだ言うのか!しかし、お前もクレヒルトの思い人。わしも鬼ではない。その薬はどうやって手に入れた?」
「あっ、ま、街の、王都の隅のところで男に依頼をして…」
「次はいつ会うのですか?」
「いえ、次は特に…。で、でも、うまくいったらお金が手に入るから渡すと話しました」
「そうか…。では、そ奴が黒幕という事じゃな?」
「そ、そうなんです。さすがは王様です」
「ならば、この情報をもってこの件はわしが預からせてもらおう。いってよい。今後の沙汰は後日知らせる。また、クレヒルトを治したのは事実。明日にでも褒美を取らせよう」
「ありがとうございます」
「殿下…」
「まさか、エディンがあのようなものだったとは…」
「病に苦しんでいるお前なら、きっと立派に成長できると思っておったのにな」
「ですが、あなたもこの前の話は聞きましたよ。研究所の所員を首にしたと」
「あれは…あいつがケンカ腰なのがいけないのだ。文字も分かりにくく書きおって!」
「そこまでが向こうの思惑だったのでしょう。まさか留守中にあんなことを考えられるとは…」
「なんにせよ。後をつけておけば接触者を辿れるだろう。シリウス頼んだぞ!」
「御意。あの娘はどうされますか?」
「辿るのに支障が出る場合は捨て置け」
「はっ!」
シュン
「あ、兄上なんということを!」
「エディン嬢の行いは国家反逆罪だ!もはやいかなる場合においても軽くすることは免れない」
「なぜです!それほどまでにカノンがみな大事なのですか?あのような愛想のないやつが!」
ガッ
「なっ!」
珍しくレスター王子が怒りをあらわにしている。人前で殴るなど初めてだろう。
「大事も何もない。お前が不味いと言っていた魔力回復薬の改良も、今そうやってお前が動けるのもすべて彼女の功績だ。それに彼女はお前に会えない日々のほとんどを研究所にいて研究に捧げていたのだ。すべてはお前や他の患者のためだ」
「そ、そんなこと!」
「お前は部屋に来た時に、彼女に向かって言っていたではないか!薬品の匂いがすると」
「ですが、会いに来るのに当然です!」
「お前のために会うその直前まで研究していたとなぜ思わない?彼女が月に邸で休むのは平均して3日だ。それ以外は常に研究に捧げていたのだ」
「そんな…ただ、私は…」
「もうよいレスター。クレヒルトはしばらく謹慎とする。近衛を付けておくからしばらくおとなしくしておれ」
「宰相閣下、後のことはよろしく頼みます」
「はっ!」
「では、公爵閣下お待たせいたしました。こちらの薬は確かに本物のようですが、治験で使われた分に少し量が足りないようです。どうなさいますか?」
「ここで大量の金を払うか、向こうに譲ってもらうか、選ばせてもらっていいのか?」
「無論です。いくら王妃様の国の方とは言え、治せないものを治せるとたばかることはできません」
「では、ありがたく隣国と話を付けられるようにしてもらうとする。うまくいけば王妃つながりでこの国にも薬をもたらせるだろう」
「本当ですか公爵殿?」
「ええ。ただし、ごく一部しか手が届かんでしょうな。きっとあちらはこの国には高額にて取引を持ち掛けるでしょう。彼女の身柄について安全が保障できるまでね…」
「それは…」
「こればかりはもうどうしようもないでしょう。手を離さなければ同じことをこの国がしていたでしょう。あの魔力回復薬も他国ではとても高く、いまだに多くのものが手に取ることも敵わないのですよ」
「閣下それは…」
「本当なのか宰相?」
「…そうです。王命により国を通しての販売は、3倍以上の値になります。それを貴族・一部の冒険者たちが買う。ステータスを含めた商品なのです。この国以外では高級品なのです。王子には即位後ただちに相談しようと思っていたのですが…」
「まだまだ、この国は時間がかかりそうだな…」
また、一歩この国の改革が遠のいたと嘆息するレスターだった。
「いやぁ~、ここまで大変だったわ。家のお金を使って研究所にもぐりこませて薬を盗んだり、ばれないように飲み物に混ぜるのに、メイドを買収したりで。でもこれで苦労がようやく報われるのね。あいつの言った通りだわ」
1年ほど前に私に接触してきたと思ったら、第2王子の容態が安定してきているから、今なら寵愛を受けられるって教えてくれたあいつに感謝だ。薬の完成時期も教えてくれるなんてね。
「それにしても、カノンだっけ?あいつも馬鹿よね。7年間も薬の研究ばっかりでろくに王子に会いにもいかないなんて。捨てられて当然だわ。まあ、私の美貌があれば無駄な努力だったでしょうけど。さて、内容はと」
手紙を開いて中を見る。
「何々、先日の婚約破棄の件で一同の前で話したいことがある。 クレヒルト=グレンデル。これで一時的とはいえ王宮入りかぁ。この調子でいけば王妃にもなれるかも?ま、面倒だからやらないけど」
その日は何とも言えぬ幸福感に包まれて私は眠りについた。以後そんな平穏な日々は訪れぬとも知らず…。
「ここが、王宮ね。この前のパーティーで手前のところには入ったけど、それ以外は子爵令嬢じゃ入れないのよね。メイドなんかになってまで来たくもないし」
「お待ちしておりました。こちらへ…」
「は、はい…」
かっこいい騎士様が私を先導してくれる。くぅ~、こういうシチュエーションにあこがれてたのよね~。
「エディン嬢をお連れいたしました」
「うむ、下がって良い」
連れてこられた部屋は思っていたより小さいけれど豪華で、そこには王様と王妃様、あと宰相だったかな?と第1王子、第2王子のクレヒルト様がいた。
「よく来てくれたエディン。父上が是非に話をしたいという事でな」
「まあ、そうなんですのね。よろしくおねがいします!」
この日のために新しいドレスを注文していてよかったわ。胸も3分の1ほど見え、背中は開き、座ればスリットからちらりと足が見える特注ドレスよ。勿論デザインは私、一番魅力が引き立つように作られたんだから。
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あれはカノン伯爵令嬢が行方不明になり2週間近く経ったころだ。隣国から密偵が一つの情報を持って帰ってきた。曰く、かの国では『魔力病』の治療薬が開発されたとのこと、という知らせだ。まさか、わが国で治験中の薬が同時期に他国で開発が終わるなど偶然ではありえないだろう。しかし、残念ながら我が国に抗議することは出来ない。
「宰相、どうする。抗議するか?我が国の技術を盗んだと」
「どの理由で、ですか?クレヒルト殿下の病はすでにエディン子爵令嬢の献身によるものと噂が流れております。それに、肝心の作り方を証明することが出来なければ訴えは起こせません。研究所にもあたりましたが、最終工程を知っているのは行方不明の令嬢ただ一人とのこと」
「では、その令嬢の誘拐という線では?」
「婚約破棄に実家での仕打ちを追及されれば、どんなによくとも一時的に保護していると返されるでしょう。その間に婚姻でもされては手の施しようがありません」
「開発するのでは間に合わないのか?」
「あの研究所から何人が逃げ出したと?そのようなことが出来る環境にはありません。あの薬のことはあきらめる他ありません。それよりも今はエディン嬢です。彼女がどうやってそんな貴重な薬を入手したかです」
「治験中ならそこからか?」
「あれは極秘でしたし、毎日人数分のみ届きました。おそらくは研究所から盗んだものだと思われます」
「ならば、盗んだとして吐かせればよいのではないか?」
「そこが分からないのです。彼女を調べてもその家にも個人でも、そのこと自体知りようがない位の能力です。それを知りえていたという事は、何者かにそそのかされたという事でしょう」
「捕まえれば、取り調べの前に殺されるか…。ならば、話せる場に来させるしかないな。近日中に王宮に呼び寄せて、その機会を作ろう。宰相、お前にも参加してもらう」
「分かりました。急いで関係者を調べましょう」
「こちらでも調べておこう。シリウス!」
「はっ!」
「おそらくはあの令嬢が弟に絡みだした1年ほど前に接触があるはずだ。出来るか?」
「お望みのままに」
「これでひとまずは安心だな。では当日を待つとしよう」
こうして今回の話につながるのだが…。何だ?この令嬢の頭の悪さは。なってない言葉遣いに娼館にでもいるかのようなデザイン。どこからどう見ても此度の件は誰かの入れ知恵なのは明らかだ。席に着くと早速クレヒルト殿下から今回の趣旨を話してもらう。
「エディン、実は今回お前との婚約を大々的に発表しようという話が兄上や宰相からも出ている」
「ま、まあそうですか!」
「ああ、だが一つだけ条件があるという事だ」
「条件…ですか?」
「何、難しいことではない。きっとそなたには造作もないことだろう」
「そうなのですね。よかったですわ、難しい要求でなくて」
「内容なのだが、あと数人、君のその愛の力で『魔力病』を治して欲しいのだ」
「えっ…」
何でそんなことをなんて顔をしている。そんなことも考えられなかったとは。あの病は不治の病として世界中の国々が研究してきたのだ。偶然でも何でも治せる人間がいるなら当然こういう事態も想定するはずだ。
「ええ、ですが…あの~、そう!あれは殿下と私の愛の力ですわ。きっと他の方には…」
「できないというのか…それでは…」
「あっ、いいえ!一人、多分もう一人ぐらいならできるかもしれません」
「ほ、本当か?やはり君は私の思っていた通りの人だ!だが、1人となると人選にも気をつけなければ」
「じ、じ、人選ですか?」
「そうだな。かの病はいまだ不治。たった一人とはいえ治せるのであれば、国内外の貴族、王族、商人など多くのものが群がるであろう」
もうこの時点で彼女の顔色は真っ青だ。きっと盗み出した薬がもうそれほどないのだろう。平民なら誤魔化せても身分の高いものなら自分の身が危ういと気が付いたのだろう。
「陛下、魔導王国のリディウス公爵様はどうでしょう?幼き頃より聡明ですが病の為、領地は弟に任せているとか。かの国とは以前に外交での婚約も行いましたし、今後の関係を考えてもかなりのプラスですわ」
「ふむ、王妃の言う通りだな。早速、来てもらおうではないか」
それから、3日後に公爵様が来られた。実は今回の件は公爵様には事前に手配済みだ。王妃様の母国でもあり公爵様自体が元々、あきらめておられていた件で薬ができているのならば、外交で嫁いだ令嬢がカノン嬢と仲が良かったという事で、希望が持てるとのことだ。
「はるばる申し訳ございません」
「いや、これで治るのであればいかなることでも足りないでしょう。これは世界中の人々の悲願なのです」
「それではエディン嬢、治療を」
「は、はい。あの…」
「分かっている。我々は外で待っている」
「お願いしますね。見られるのは恥ずかしいので…」
バタン
「入っていったな。シリウス!」
「はっ!」
「頼んだぞ。現場を押さえたら蹴破ってでも知らせろ」
スッ
「き、消えた?兄上、今のものは?それに何をするおつもりで…」
「残念ながら現実を見るときが来たのだ」
さて、部屋にさえ入ればこっちのものよ。まずはこの人を寝かせてと。
「さあ、公爵様仰向けで寝てください」
「ああ、分かった」
よし、この位置からなら、万が一にも見えないわね。そして私は小瓶を出して飲み物に入れようとし―――。
「そこまでだ!」
「ヒッ」
急に声をかけられて瓶を落としそうになる。その瓶を急に表れた人影が取り上げると。
「殿下!入っていただけます」
ギィ
ドアが開いて王様や殿下たちが入ってくる。
「な、なな、なんですか、これ!」
「そうです兄上!約束が違います!」
「約束は我らだけだ。この者とはしていないだろう?シリウス!どうだ?」
「間違いなく研究所の瓶ですね。まさかラベルすらそのままとは恐れ入りました。被験者に見せれば確認も容易です」
「な、何がどうなっている…」
「クレヒルト、お前はそこの女に騙されたのですよ。『魔力病』は100年以上研究され続けた病。たかだか、娘一人が祈ったところで治る病だと本気で思っていたのですか?」
「母上…」
「宰相や王妃がしつこく言うからやらせてみれば、なんと言う不届き者だ!この女狐めっ!」
「そ、そんな!私の愛は本物です!そ、そう、この薬も何かの間違いで、そうです!愛の力を高めるものです!!」
「まだ言うのか!しかし、お前もクレヒルトの思い人。わしも鬼ではない。その薬はどうやって手に入れた?」
「あっ、ま、街の、王都の隅のところで男に依頼をして…」
「次はいつ会うのですか?」
「いえ、次は特に…。で、でも、うまくいったらお金が手に入るから渡すと話しました」
「そうか…。では、そ奴が黒幕という事じゃな?」
「そ、そうなんです。さすがは王様です」
「ならば、この情報をもってこの件はわしが預からせてもらおう。いってよい。今後の沙汰は後日知らせる。また、クレヒルトを治したのは事実。明日にでも褒美を取らせよう」
「ありがとうございます」
「殿下…」
「まさか、エディンがあのようなものだったとは…」
「病に苦しんでいるお前なら、きっと立派に成長できると思っておったのにな」
「ですが、あなたもこの前の話は聞きましたよ。研究所の所員を首にしたと」
「あれは…あいつがケンカ腰なのがいけないのだ。文字も分かりにくく書きおって!」
「そこまでが向こうの思惑だったのでしょう。まさか留守中にあんなことを考えられるとは…」
「なんにせよ。後をつけておけば接触者を辿れるだろう。シリウス頼んだぞ!」
「御意。あの娘はどうされますか?」
「辿るのに支障が出る場合は捨て置け」
「はっ!」
シュン
「あ、兄上なんということを!」
「エディン嬢の行いは国家反逆罪だ!もはやいかなる場合においても軽くすることは免れない」
「なぜです!それほどまでにカノンがみな大事なのですか?あのような愛想のないやつが!」
ガッ
「なっ!」
珍しくレスター王子が怒りをあらわにしている。人前で殴るなど初めてだろう。
「大事も何もない。お前が不味いと言っていた魔力回復薬の改良も、今そうやってお前が動けるのもすべて彼女の功績だ。それに彼女はお前に会えない日々のほとんどを研究所にいて研究に捧げていたのだ。すべてはお前や他の患者のためだ」
「そ、そんなこと!」
「お前は部屋に来た時に、彼女に向かって言っていたではないか!薬品の匂いがすると」
「ですが、会いに来るのに当然です!」
「お前のために会うその直前まで研究していたとなぜ思わない?彼女が月に邸で休むのは平均して3日だ。それ以外は常に研究に捧げていたのだ」
「そんな…ただ、私は…」
「もうよいレスター。クレヒルトはしばらく謹慎とする。近衛を付けておくからしばらくおとなしくしておれ」
「宰相閣下、後のことはよろしく頼みます」
「はっ!」
「では、公爵閣下お待たせいたしました。こちらの薬は確かに本物のようですが、治験で使われた分に少し量が足りないようです。どうなさいますか?」
「ここで大量の金を払うか、向こうに譲ってもらうか、選ばせてもらっていいのか?」
「無論です。いくら王妃様の国の方とは言え、治せないものを治せるとたばかることはできません」
「では、ありがたく隣国と話を付けられるようにしてもらうとする。うまくいけば王妃つながりでこの国にも薬をもたらせるだろう」
「本当ですか公爵殿?」
「ええ。ただし、ごく一部しか手が届かんでしょうな。きっとあちらはこの国には高額にて取引を持ち掛けるでしょう。彼女の身柄について安全が保障できるまでね…」
「それは…」
「こればかりはもうどうしようもないでしょう。手を離さなければ同じことをこの国がしていたでしょう。あの魔力回復薬も他国ではとても高く、いまだに多くのものが手に取ることも敵わないのですよ」
「閣下それは…」
「本当なのか宰相?」
「…そうです。王命により国を通しての販売は、3倍以上の値になります。それを貴族・一部の冒険者たちが買う。ステータスを含めた商品なのです。この国以外では高級品なのです。王子には即位後ただちに相談しようと思っていたのですが…」
「まだまだ、この国は時間がかかりそうだな…」
また、一歩この国の改革が遠のいたと嘆息するレスターだった。
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