家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩

文字の大きさ
上 下
21 / 49
サイドストーリーズ

5

しおりを挟む
エディンの行いがばれた同日

「旦那様、宰相閣下の使いの方が来られております」

「なんだ、我が伯爵家は今忙しいのだ。帰せんのか?」

「そ、それがお嬢様のことらしく…」

「なにっ!分かったすぐ行く」

「ドルガン伯爵様、お手間を取らせます」

「その様なことはよい。宰相殿からは何と?」

「はっ!貴家のカノン嬢は現在隣国のローラント領に居られるようです。また、こちらで開発中だった『魔力病』の治療薬をあちらで完成させたと」

「何だと!そ、それで宰相殿は娘を呼び戻すと?」

「そ、それがこの国には製法が伝わっておらず、伯爵家に何か残っておらぬかと」

これは宰相が手がかりだけでも残ってはいないかといちるの望みをかけてのことだったが、彼は伯爵の資質を完全には理解していなかった。せめて、親子の愛情のかけらぐらいは持ち合わせていると思っていたのだ。

「邸には残ってはいない。こちらにもやることができた。お帰り頂けるだろうか?」

「はっ!」

使いを帰しカールソンを呼び出す。

「お呼びですか?」

「うむ、ここに連絡を取れ」

「ここは!しかし…」

「なに、さらわれたことにすればよい」

そして、2日後に彼はやってきた。カールソンも退出させ2人きりになる。

「我らにご用命か?」

「うむ、頼みたいことはだな…」

「隣国の令嬢だな?」

「流石は話が早い!カノンを取り戻せ。あいつは金になる。無理ならばその場で斬れ!」

「では、前金を…」

提示された金額はかなりの額だ。しかもこれが前金…。

ゴクリ

恐れるな、ドルガン。あいつが戻れば簡単に稼げる。それに、殺しても他国に広まらなければ陛下からも報奨金が出るだろう。それに、回復薬の利益があればどうとでもなる。

「すぐに用意させよう」

私は邸のものに用意させ男に渡す。帰るころにはどうしてか馬車が来ておりそこに積んで帰っていった。あれだけ手際のよい奴らだ。きっと、万事をなしてくるだろう。


我等は闇のギルド。金をもらえばいかなることも請け負う。無論、個人のできる範囲でということに限るが。今日は上客に出会った。今話題の行方不明の令嬢を取り戻すか殺すかだ。ならば殺せばいい。簡単な仕事だ。

「この依頼を受けてきたのはお前か?」

「そうだ。相手は侯爵家、女一人とはいえ警備も厳重だろう。腕利きを4人借りる」

「構わんが、リストはこの中からだ」

バサリと紙が渡される。このギルドでは己以外が仕事をするときは仕事を取ってきた奴が雇うことになっている。念のため4人ほど雇う。5人もいれば潜入して帰ってくるだけなど容易いだろう。リストを見ると腕はいいが少し粗かったり、さらうという任務中に殺したりというものが多かった。だが、こいつらは経歴に傷がある分安い。腕は確かなのだからこいつらを雇うとしよう。

「決まったか?」

「ああ、報告は2週間以内には終わるだろう…」

「楽しみにしている」


「行ったか…あんなリストで本当に良かったのか?除名目前のものや達成率の低いものが目立ったが?」

「構わん。成功の見込みのないところに優秀なギルド員を送るわけにはいかない。無論、あの邸から誰が消えたのかも調べん奴もだ。あの邸を制圧するならせめて30人は必要だ。あのリスト全員雇っても無駄なことだ」

そう言って、補佐役にリストを渡す。該当の領地の邸の構成をおおまかに、そして行方不明の令嬢についていったもののリストだ。

「これは!」

「お前はこの邸に行きたいか?」

「金を渡してでも断るな」

「そういうことだ。依頼の失敗が一つ増えるが仕方あるまい。我がギルドのモットーは受けられるものだけ受けるだ」



「良く集まった。俺たちの依頼内容に関しては先ほど説明した通りだ。今日のうちに国境を抜けたらそこで一泊。翌日の夜に強襲をかけ、目的の令嬢を消す!いいな!」

「依頼の相手はさらってもいいのですよねぇ」

「ああ、だがその場合は危険が増す。報酬は増えるだろうがな。駄目だと思ったら即殺せ!」

「りょうかぁい」

闇夜に紛れて国境を越える。間違っても宿になど泊まる愚も犯さない。幾度となく行ってきたことだ。明日が楽しみだぜ…。



その頃のライン

「流石は話が早い!カノンを取り戻せ。あいつは金になる。無理ならばその場で斬れ!」

「では、前金を…」

やれやれ、邸でなんて話をしてるんだよ。庭師でよかったと初めて思ったわ!これはちょっと聞き捨てならないな。何とかしてアーニャに知らせないと…。キョロキョロとあたりを見渡すと馬車が見えた。そう言えば馬車は1台をお嬢様が乗って行って、馬も2頭だけになってたな。

「悪いな…」

持っていたナイフを馬の体に当て傷つける。突然のことにびっくりした馬は暴れてしまう。後は厩舎をちょっと壊してと…。

ヒヒーン

計画通り、馬が飛び出していった。

「カールソンさん!馬が逃げ出しました!」

「何だって!?ライン本当か?」

「はい」

厩舎の現状を見せる。ナイフも回収したし、これでいいだろう。

「何という事だ、4日後のパーティーに馬車が使えなくなってしまう」

「辻馬車のところとか呼べないのかな?」

「それがばれたらまた邸のみんなが迷惑する。どうすれば…」

「なら、僕が馬を買いに行くよ」

「だが、馬は隣の領だぞ?」

「実は僕、孤児だった時にあっちにいたことがあるんだ。きっといい馬を見つけてくるよ。それに、他の人が行ったらばれちゃうよ?」

「確かに…。旦那様は庭師のことなど気にもしておられんからな。ちょっと待っていろ」

一度、邸に戻ったカールソンさんがお金を持ってくる。

「これを渡しておく。くれぐれも野盗などに気を付けてな」

「うん、僕じゃちゃんと馬に乗れないから向こうの人に先に馬だけ送ってもらうよ」

「そうしなさい。後、宝石もいくらか持って行きなさい。お嬢様のものだがもう使うことはないだろう…」

「ありがとうカールソンさん」

俺は金と宝石を受け取って辻馬車を捕まえ、さっさと隣の領へと向かう。こんな用事は1日あれば十分だというのにのんびりした爺さんだぜ。

「よし着いたな」

夕方に着いた俺は早速、なじみのところで馬を調達する。

「1頭は伯爵家へ2日後に出発で、もう1頭はもしかしたら返せないかも」

「あいよ。そこは別料金だな。とりあえず前金だ」

「ええ~、もうちょっと安くならないの?」

「気持ちわりぃしゃべり方の罰だな」

「ならこれでいいか?伯爵家のは早く着かせるな」

「にしても、久しぶりだな、酒でも飲んでいくか」

「これでも飲め。伯爵家の御用達だ。俺は行く」

「毎度」

馬にまたがって、一気に走りだす。今日の夜には隣国に向かわないと…。

パカッパカッ

数時間走らせてようやく国境近くに着いた。この辺が一番警備も甘く、入り込みやすい。これより北はローラント領。年に必ず数人が命を落とすところだ。用済みの馬を捨てていく。運が良ければ帰れるだろう。

「正直、邸の奴に見つからねぇ自信がねぇな」

伯爵家に来た程度の奴ならともかく、あそこは強いのがいるって話だし。

「とりあえず国境を越えるか…」

シュタッ

隣国に潜入は果たした。後は地図に沿って目的地に行くだけだ。このままいけば夜明けに間に合いそうだが…。

「善は急げ、かな?」

シュタタタ

闇夜をかけていく。こんなに早く長距離を走るのは久しぶりだ。わずかに使える魔法も駆使して最大速度で街を目指す。

「間に合った!まだ夜明け前だ」

森から配置を確認して、一気に城壁に飛び移る。そして、そこからは慎重に壁伝いに降りていく。面倒な配置だ。一気に跳びこえたら即見つかっていただろう。

「邸はと…」

壁からちらりと見た限りだと西側だな。

シュシュ

闇の中を駆けて一気に邸に向かう。中位とはいえ王家の影のプライドだ。これぐらいできなくては名が廃る。

「この辺が邸の近くか…。ん?ほころびのある結界か?これぐらいなら無視しても大丈夫か…」

…嫌な予感がする。あれだけの兵士の練度のあるこの城塞都市には似つかない。もし、お抱えの魔法使いが居なくなったとすれば問題はないのだが…。

「笛を鳴らすか…」

ポケットから笛を鳴らして音波を送る。特殊な指向性があり、わずかな衝撃を伝えることができる。

カタカタ

わずかに窓が揺れる。風で揺れたかのような音。しかし、これは人工的な振動だ。


サッ

メイド服から素早く元々の服に着替える。唯一といっていい荷物だ。外に出る方法はいくらかあるが、気づかれぬようにしなければ…。窓を特殊な方法で開け外に出る。この為にこの部屋の窓は改造してある。

「振動の方向からして研究所とは反対側…」

相手は見事に結界を感知してその後ろにとどまっている。それだけ優秀な相手だ。気配を消し、油断せずゆっくりと近づいていく。向こうはまだ気づいていない、だんだんと近づき―――。


「ライン?」

「わっ!」

相変わらず心臓に悪い奴だ。全く気配を感じなかったんだが。

「どんな用件?」

俺はアーニャに伯爵に雇われた刺客が明日か明後日にも来ると告げる。

「そう…」

その瞬間一気に気配が変わる。わずかだが殺気が漏れている。だが、近くにいる俺にはものすごい殺気が中から感じられる。

「大事な情報をありがとう」

「そのせいでここまで来たのに結局とんぼ返りだ」

「ごめんなさい。準備がある」

「分かってる。じゃな」

ギュッ

「ありがとう…」

「別にいい。宿無しが宿無しに戻っただけだ。今度は自分で納得してだ。もうしばらくはつまらない仕事を続ける」

もうちょっとぐらい居たかったが、仕方ない。行き帰りに鉢合わせするのが一番まずいからな。

「ここに泊まって。帰りやすくできる」

「ん、そうか。じゃあ、メディ宛てに連絡をくれ」

「元気で」

ラインを見送った後、邸に戻る。廊下から気配がする…。

ガチャ

「アルフレッド様」

「外に出られていたのですな。殺気を感じるまで気づきませんでした」

「カノン様を狙って刺客が来ます」

ピク

「どこでお聞きに?」

「邸に置いてきたものからです。2日以内には来るでしょう」

「そうですか、よい方をお持ちだ」

「はい…。それと、この宿にメディを訪ねるようにと。後、通行証をお願いします」

「分かりました。お帰りの分ですな」

「手間を取らせます」

「いえいえ。この邸の恩人には当然の権利です」

それから、数名のメイドを起こして準備をする。まずは入り込まれないことと、邸に入られるまでの対応を確認する。

「お嬢様を傷つけようとするものは絶対に生かしては返さない!」


しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ゲームのシナリオライターは悪役令嬢になりましたので、シナリオを書き換えようと思います

暖夢 由
恋愛
『婚約式、本編では語られないけどここから第1王子と公爵令嬢の話しが始まるのよね』 頭の中にそんな声が響いた。 そして、色とりどりの絵が頭の中を駆け巡っていった。 次に気が付いたのはベットの上だった。 私は日本でゲームのシナリオライターをしていた。 気付いたここは自分で書いたゲームの中で私は悪役令嬢!?? それならシナリオを書き換えさせていただきます

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...