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Ⅵ 女王
夜明けの女王 Ⅴ
しおりを挟む『たあああああああああああああああああああああ!!!』
『でやああああああああああああああああああああ!!!』
『フルエレ』
『フルエレちゃん』
姉妹揃って操縦桿を握りながら叫んだ。他の操縦者達が戸惑う程の量の光り輝く粒子が猛烈な勢いで降り注ぎ、すぐさま次々に雪が溶ける様にふっと消えて行く。
シュバッシュバッシュバッッ……
もはや直接に回復のワードを叫ばなくとも、ストロボの様に蛇輪と白鳥號の掌が点滅し、一秒間に何回という猛烈な勢いで回復スキルが実行されて行く。
『あれを見て!』
シュ~~~~~
ふいに不思議な音と共に光る粒子が一点に集約して行く……それを見てセレネが指を差した。だがその言葉を聞いて雪乃フルエレが、想像と違う物を感じて一瞬戸惑った。
(何で……加耶さんが空中から浮き上がるの??)
しかしもはや魔ローダースキル回復魔法の放出を止める事は出来ず、さらにストロボの様に瞬きながら異様な速さで回復が繰り返された。
シュバーーーッモヤモヤモヤ……
だが光の粒子はさらにはっきりと、遠い雪山の上に人影が写る様に人間らしい像を結んで行く。
『人の形だよ!?』
『……成功なの??』
(加耶……か?)
セレネとメランが口々に叫んだ。それに対して猫弐矢もフルエレと同様、加耶と異質の気配を感じて固唾を飲んで黙り込んで見つめた。
キラキラキラ……
やがてスノードームの雪が降り終わる様に舞い散る光の粒子が減って行くと、人の形を結び始めて居た場所に全ての粒子がさらに集約して固まって行く。
『……え?』
フルエレはそれ以上声が出なかった。光の粒子が固形化して最終的に現れたのは、過去に此処とは全く違う場所でフルエレの仮宮殿を守る為に戦死したはずの為嘉アルベルトであった。
『アルベルトの奴なんで?』
砂緒も驚いてふざける事が出来なかった。
『この方がアルベルトさん? けど、なんだか半透明だな……』
『うん』
紅蓮アルフォードが美柑に言った様に、アルベルトの全身は透けて見え、さらに足元に行くほどに曖昧になって消えていた。
『フルエレくん、会いたかったよ』
だがそのアルベルトは生前と同じ様に優し気に微笑んで語り掛けて来た。幻影でも何でも無く本当にアルベルトの精神体であった。半透明になってしまったアルベルトの金髪は、朝日の中で余計に輝いて見えた。
『あ、ああ……アルベルトさん……会いたかった、私もっ!』
フルエレは思わず操縦桿を離して飛び出そうとするが、慌ててフゥーが横から押さえつけた。
『女王陛下、気を御確かに。操縦桿から手を離せば……』
『フルエレくん来ちゃだめだっ! その子の言う通り操縦桿を離した瞬間に僕は消える。それにもうしばし時間が過ぎても消える、それまでの間の存在さ』
アルベルトは悲し気に笑った。今すぐ飛び出して抱き締めたいのに、それが叶わずフルエレは歯がゆさに涙が溢れた。そして此処に居る全ての者達は、良く事情が分からない者も良く知っている砂緒達も、二人の短い逢瀬を邪魔するまいと必死に気配を消し二人を見守った。
『どうすればいいの? 折角会いたいと会いたいと思い続けたのに、目の前に居るのに抱き締められないなんて』
フルエレは蛇輪の下の操縦席から朧げに見えるアルベトに叫んだ。
『僕はこうしてまたフルエレくんの顔が見れただけで本望だよ……』
アルベルトは笑顔で見上げた。
『それじゃ駄目なの! 私は一杯話したい事があるの、謝りたい事が一杯あって!!』
『謝りたい事? フルエレくんが僕に何を謝るんだい』
涙で前が見えないくらいのフルエレに対し、アルベルトはやはり生前同様至って穏やかに語り掛け続けた。
『……一杯言いたい事があるのに、あり過ぎてすぐに色々言えない。けど……アルベルトさんと私がギクシャクしてしまって……職員の女の子の事、勘違いしてたり、今思えば話し合えば良い事で、口喧嘩みたいになって、私子供みたいにへそを曲げて、そのまま飛び出してしまった事が悔やまれて仕方が無いの!』
『あははギクシャクした事なんてあったかい? 僕の中では全部良い思い出だよ……いいんだよ全て』
フルエレはずっと思い詰めていた事を、笑顔であっさり許されて一瞬言葉に詰まった。
『……メドース・リガリァにアルベルトさんが行ってしまったら、魔戦車に乗ってしまったら死んでしまったらどうしようって怖くて、怖くてどうして気持ちを分かってくれないのって勝手に一人で怒って。……少し姿を消したらアルベルトさん心配してくれるかなあって……子供みたいな事を考えて自分がメドース・リガリァに行ってしまった……ごめんなさいごめんなさい』
フルエレは子供の様に謝りながら泣きじゃくった。
『いいんだよ……でも凄い行動力だよね!』
『……でもそのせいで、私が留守にしていたニナルティナで、アルベルトさんが敵の魔ローダーに殺されてしまった……それが悲しくて、私のせいでアルベルトさんが死』
『それは違う!! 君のせいで死んだのじゃないよ。そんな運命誰にも分からないさ』
フルエレの言葉を遮る様にアルベルトが叫んだが、最後はやはり微笑んだ。フルエレは知らされていないが、その魔ローダーを操縦していたのが親友の猫呼の兄、猫名である。
『……でも私、何度も何度もあの時に帰りたい、あの時に戻ってアルベルトさんに謝ってじっくり二人で話し合って運命を変えたいって空想していた。でも……戻れない』
その言葉を聞いて目をつぶり、初めてアルベルトが言葉に詰まった。
『でも……こうしてまた会えた。フルエレくんの願いを蛇輪が聞き届けてくれたんだね』
『貴方が私に渡そうとしててくれた指輪を無くしました、本当に私バカだ』
『一回でも君に届いてくれてたらそれでいいんだよ、また誰かに貰えば良』
『そんなの嫌ッッ!! ううっうぐっううう』
フルエレは俯いて嗚咽して言葉が止まった。
『砂緒くんセレネさん、どうやら時間が余り無いようだ。砂緒くんは……ふふっ何だか僕の事をずっと嫌っていたけど、僕は弟が出来た様に好きだったな。もっと遊びたかったよ。どうかこれからもフルエレの事をずっと守り続けて欲しい』
砂緒はアルベルトから意外な言葉が出て、返す言葉すらなかなか出て来なかった。
『い、言われる……までも無い』
それくらいが精一杯だった。
『アルベルトさん……行ってしまうの? 嫌、行かないでずっとそばに居て欲しいの』
フルエレは操縦桿を離して両手を差し伸べたくて仕方が無かった。
『そういう訳には行かない。僕は死んでしまってから時が経ち過ぎた様だ……いつか僕も砂緒くんが辿って来た道の様に、またフルエレくんに会えるといいな』
『……でも、そんな遠い未来の事なんて分からないよ。今一緒に居たい』
砂緒は二人の会話を聞いて、ふと遠い過去世のセレンの事を想い出した。しかし同時に横にいて目をうるうるさせて必死に話を聞いているセレネの事も愛おしく思えた。
『フルエレくんに幸せになって欲しい、それが僕の願いの全て。いつかフルエレくんの事を大切に思ってくれる人がまた現れるよ!』
最後にアルベルトはにこっと笑った。だが徐々にその姿は透明度を増して行く様に見えた。
『い、いやああ、そんな事言わないで……』
もう殆どフルエレの泣き方は、寒くて震える様に泣いていた。
『笑って、笑顔が見たいよ』
『無理だよ』
だがさらにアルベルトの透明度はどんどんと増して行く。
『最後にフルエレくんの笑顔が見たいな』
『いや……』
『……フルエレくん、幸せになって』
『……アルベルトさん』
フルエレはアルベルトの最後の最後を悟って、涙でボロボロの顔でなんとか笑顔を作ろうと努めた。
『……やっぱり君は笑顔が可愛い……さようなら』
『嫌、やっぱり嫌……行かないでっ』
そう言った瞬間、目の前でアルベルトの全身は光の粒子になって消え去った。無人島の中でフルエレの嗚咽する泣き声だけがずっと響き、慰める事も出来ず誰も何も言えなかった。
どれ程の時間が経っただろうか、一人泣き続けていた雪乃フルエレが突然がばっと上半身を上げた。
『猫弐……矢さんに、同じ思いはさせないわ……今すぐ、加耶さんを絶対蘇らせる、美柑さん紅蓮くん、もう一度行くわよっ!!』
フルエレが叫んだ。
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