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Ⅵ 女王

夜明けの女王 Ⅳ

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 地上に置いて来たヌッ様の操縦室球体がどんどん小さくなって行く。ル・スリー白鳥號はくちょうごうに乗った紅蓮アルフォードや美柑みかノーレンジ達から見ても、現金な物でヌッ様が居ない今、巨大化した100Nメートルを越える蛇輪は途端に凄く大きな存在に見えた。
 シャキーーン、コキーーン!
 巨大化が終わった直後にセレネが上下の壊れたハッチに代わり、強力な氷魔法を撃って蓋代わりにする。

 ゴロゴロゴロ……
 続けて両腕を上げた蛇輪へびりんの、上空の白み始めた朝の空に黒雲がもくもくと広がり始め、雲のあちこちに稲妻が横走って行く。


『砂緒、撃って上げて頂戴……』

 しばらく待って蛇輪の下の操縦席から、聞きようによってはかなり際どい事を言い放つ雪乃フルエレ女王であった。

『本当に撃って良いんでしょうかねえ』

 フルエレの言葉にも砂緒は一瞬躊躇する。

『さすがにお前でも笑いながら撃ったりしないんだな』

 深刻な顔をしたセレネが砂緒の手を握った。

『当たり前です。私は男はなんとも思っていませんが、一応全人類の女性には優しいのです』
『……確かにその通りだな。お前は優しい』

 と言ってセレネが目を閉じ砂緒にぴったりと肩を寄せた。

「あのーーーーーお二人さん、さっきから私が居る事を忘れてません?」

 眉間にシワを寄せながら小声でメランが遠慮がちに言った。今複座の蛇輪の上の操縦席には砂緒とセレネとメランが、下の操縦席には雪乃フルエレとフゥーが乗っていた。対して白鳥號には紅蓮アルフォードと美柑ノーレンジ+使い魔フェレットと兎幸うさこと猫弐矢がひしめき合って乗っている。

「おっとすいません! 折角メランが露出狂になってタンクトップ一枚で胸を強調してるのに、一切触れるのを忘れておりました。なかなか大きいでしょセレネ?」
「人の胸を品評しないでっ」

 セレネは反対側からチラッとメランのタンクトップを持ち上げる、割りと大き目の胸の膨らみを見た。

「確かに普段の魔導士服から想像するよりも大きいよな」
(メランさんの癖に羨ましーー!!)

「あの……論点がおっぱいに移ってしまって良いのかな……?」

 メランは両腕でむぎゅっとタンクトップ一枚の胸元を隠しながら言った。

「し、しまった。私とした事が、大事な時に思わず視点がメランの深い谷間に目移りしていました」
「メランさんもメランさんな気がするわ、こんな重要な時に露出せんでも」
「何もこうなると分かって露出してない!! 世の中にはもっとビキニアーマーの戦士とかいくらでもいるでしょ!?」

 メランが激しく赤面する。確かに彼女の言葉通り、イェラや七華しちかはビキニアーマーでは無いが普段から多少露出気味だ。

『どうしたの砂緒??』

 両腕を上げたまま動かない蛇輪を、下の操縦席のフルエレが怪訝に思った。

『砂緒も相当に躊躇しているのです』
『じゃあもう一回最後に意思の確認をすれば良いよ』

 白鳥號の紅蓮が二人の会話に介入した。その横では猫弐矢ねこにゃが神妙な顔で頷いている。

『そうね……』

 即座にフルエレが返答し、砂緒の横のセレネも頷いた。

『加耶殿よ、準備が整いましたぞ。本当に撃って良いのですかな?』

 砂緒の外部魔法スピーカーの音声に、すぐさま千岐大蛇ちまたのかがち中心核の加耶の反応があった。少しの微振動の後に再びホログラムの様な不安定な姿で出現し、微笑むと無言で頷いた。もちろん本人にも恐怖心はあるのだが、それ以上に砂緒と猫弐矢の罪悪感を薄める為に、穏和な表情に最後まで努めていた。そしてそのまま笑顔のまま再びスーッと消えて行った……

『加耶ちゃん……くっ』

 猫弐矢は歯を食いしばる。

『加耶さんカガチを倒す為に……立派な子だ』
『そうね』

 二人は小さな声で会話し、兎幸うさこは無言で見ていた。

『砂緒』
『それでは……千岐大蛇よ今度こそ最後だ、退治させてもらおう! ……そして加耶殿、お覚悟ッ御免ッッ!!』

 砂緒の言葉と同時にセレネが感電しない様に掌を離した。それを見た瞬間に砂緒は掌から一気に放電をした。巨大化した蛇輪の両手から稲妻が黒雲に昇り、今度こそ躊躇無く最大威力の稲妻が地上に放たれた。
 ドドドドドォオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーンンッ
 上下の壊れたハッチの代わりにセレネが事前に貼っていた氷の膜に、否応無く強力な爆風が当たってヒビが入って行く。チマタノカガチの根を蛇輪が突いた為に、もしかしたら海水による回復能力を獲得している可能性があるが、今は誰もその事に気付いていなかった。

『キャーーーーーッ!?』

 魔法モニターが真っ白になる稲妻の威力にフゥーが思わず叫んだ。爆風により近くの木々は吹き飛び、いにしえより人々が連綿とお供えし続けた、宝物や供物が転がって飛んで行く。
 シュ~~~~~
 しばらくして白煙が消え去ると、千岐大蛇中心核があった跡地には黒い影と幾ばくかの灰の様な物が積もっているだけであった。紅蓮は正直これで本当に加耶クリソベリルが復活するとは信じ難かった。

『加耶……ちゃん、ぐっっ』

 猫弐矢は涙を流して目を強くつぶった。

『紅蓮くん! 砂緒、やるわよっっ!』

 だが雪乃フルエレは躊躇する事無く、紅蓮に回復を始める様叫んで伝えた。

『分かったフルエレちゃん始めよう!!』

 その言葉を合図に蛇輪は通常サイズに戻り、白鳥號と迎え合って両手を灰に添えた。

『回復!! 回復!! 回復!!』
『回復(超)!!』


『回復!! 回復!! 回復!! 回復!! 回復!!』
『回復(超)!!』


『回復!! 回復!! 回復!! 回復!! 回復!! 回復!! 回復!!』
『回復(超)!!』


 その後もフルエレと紅蓮は力の限り仲間の魔力も借りて回復を唱え続けた……


『おかしいわっ!? セレネの時もメドース・リガリァの時も砂緒の時も、蘇ったのにどうして!?』
『……』

 フルエレの泣き声の様な悲痛な叫びに誰も何も言えない。しかし皆は薄っすらと身体が万全な状態の蘇生と、灰から人間を蘇らせる事とは全く違う事なのではないかと思っていた。ひたすら加耶のイメージを送り続ける猫弐矢ですら、薄っすらと同様の心境である。土台次元の違う無理な事だとフルエレ以外、皆分かっていた。

夜宵やよいお姉さま……)
『ふ、フルエレ女王、もう……言いたくは無いけど』

 実は妹の美柑が居たたまれなくなって、仮装の方言も忘れて姉に諦める事を促そうとした。

『フルエレちゃん、もう少しやってみよう!』
『はい!』
『私もそう言おうと思っていましたっ! でしゃばるな紅蓮!!』
『有難う砂緒!』

 今度もまた紅蓮と砂緒がほぼ同時に言った。それに勇気付けられフルエレは再びやり直す事を決めた。二人の言葉に遮られる形となった美柑は、姉の為に言ったのにと下唇を噛んだ。

『有難う美柑ちゃん、でも私諦めないわ!』

『回復(超)!!』
『回復!! 回復!! 回復!!』

 
 再びしばし粘り強く続けた。しかしやはり何の反応も無く、突然フルエレは涙を流しながら叫んだ。

『アルベルトさん御免なさい! 貴方の事を蘇らせる事が出来なかったのに、メドース・リガリァでは良く分からない女の子を生き返らせて、今また今日会ったばかりの加耶さんを蘇らせます。本当は誰よりも貴方に蘇って欲しいのに出来なかった……天国のアルベルトさんお願い、もし私を許してくれるなら、私に力を貸して下さい!!』

 絶叫に近いフルエレの叫びが無人島に響いた。
 
(お姉さま……あの占いが……)

『フルエレ……』

『フルエレちゃん……』
(アルベルトさん?)

 キラキラキラ……

「?」

 バシャッ!
 すると蛇輪の開いた羽から黄金のキラキラ粒子が舞い散り始め、やがて辺り一帯を覆う程に増加して行く。

『砂緒これ何!?』
『な、何だ……こ、この暖かい、お黄金の振動波? は……蛇輪にこんな機能があったのか……』

 砂緒が思わずモニターを見ながら呟いた。しかし砂緒自体セレネを無我夢中で蘇らせる時に起こしていた現象である。

『私もっ! やってみるっ!!』
『美柑?』

 美柑が姉の叫びを聞いて、何故か無性に姉を助けたくなり思わず自分も叫んでいた。
 バシャッ!
 キラキラキラ……
 蛇輪と同じ様に白鳥號の魔法の羽が展開すると、そこから不思議な黄金の粒子が猛烈に発生を始めた。

『なんだか……よく分からないけど綺麗……』

 メランは機体を透過して、操縦席の中にまで雪の様に降って来る不思議な粒子を掌に当てて眺めた。

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