誰かが彼にキスをした

ゆづ

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織川 ひかり

サボタージュ

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「ぷはー。生き返ったあ!」

 本来なら五時間目の授業を受けているところだったけど。
 私は今、陽向とアイスを食べている。
 場所は学校から300メートル離れたコンビニのイートインスペースだ。

 校庭で私の手を掴んだ陽向は、校舎に向かわず反対方向の校門の外へ出た。そして、コンビニの前でスマホにチャージしてあったキャッシュレス決済の残金を確認し、私に言った。

「ごめんな、昴。俺のせいで昼飯食べる時間もなくなっちゃって! ここは俺が奢るから好きなもん食べて」
「陽向の行きたかったところって、ここ?」
「そーだよ。暑くてヘロヘロでさ。昴も死にそーな顔してたし」

 まったく、思わせぶりなことをして。
 呆れる反面、いつもの明るくて優しい陽向で安心する。
 冷たいシャーベットの塊が口の中で溶けて甘い水になる。
 昔から好きだったラムネの味だ。
 隣を見ると、陽向も同じものを食べている。
 

「怒ってないの? 陽向」
「ん? 何が?」
「……私が、隠し事していたこと」
 
 背もたれのない椅子で小さくなっていた私に、陽向は柔らかい笑みを浮かべた。

「まあ、早く言えよって正直思ったけど。でも、今までのことは無駄じゃなかったと思う。みんなが俺のことをどう思ってくれていたのか、聞きに行かなかったらずっと分かんなかったからさ。美村先生も、瀬戸も、氷崎先輩も、琉星も……俺の周りにはやっぱり悪いやつなんか一人もいなかったなって、確認できて良かった」

 弱っていた花に命の水を注ぐように、陽向の言葉が私を癒していく。
「うん」
「それに──隠し事は誰だってするよ」

 陽向はそう言ってゆっくりと真顔になった。
 今、誰のことを考えているんだろう。

 ひかりさんが犯人だと分かって、悩んでいるのかな。
 
「ねえ、もしひかりさんが陽向のこと……まだ好きだったらどうする?」
「……まだひかりが何考えてるか分かんないから、なんとも言えないけど」

 少し間を開けて、陽向は続けた。

「俺は琉星とひかりに仲直りしてもらいたい。このまま二人が別れるなんてことは絶対に避けたいって思ってるよ」
「うん」
「そのためには、もうちょっと琉星の話を聞かなくちゃ。よし! あいつをもう一度呼び出そう」

 陽向はスマホを取り出し、メールを打ち始めた。
「えっ、今呼び出すの⁉︎ 授業中だよ?」
「アポを取るだけ──」

 その時だった。まだメールを送信する前の陽向のスマホに着信が入った。





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